※この記事は2014年02月08日にBLOGOSで公開されたものです

赤木智弘の眼光紙背：第310回

先月27日から札幌で行方不明になっていた９歳の少女が２月２日の夜に保護され、一緒にいた26歳の男が監禁の現行犯で逮捕された。(*1)

逮捕に結びついたのは、「少女漫画を持った不審な男がいる」という趣旨の、タクシーからの通報だったという。この「少女漫画を持った不審な男」という報道に、ネットでは「偏見だ」という批判が相次いでいる。(*2)

まずは、少女が無事に保護されたことを喜びたい。

その上で、今回の報道が適切なものであったかどうかを考えてみる。

確かに、今回はタクシーの運転手からの通報により、事件の解決が見られた。これはお手柄である。

しかしながら、こうした通報は、多くの不審者通報の中の１つに過ぎないと、僕は考える。他にも数多くの通報があり、そうした中から少女に結びつきそうな情報を、警察が選別して解決に結びついたのである。

しかし、それが報じられるときは、さも１つの通報が、完全に犯人を言い当てたかのように聞こえてしまう。それは宝くじの高額当選者ばかりを見せられれば、さも簡単に億単位の金が当たるかのように思えるような錯覚であり、実際はそうそう当たるものではない。

1997年に発生した神戸連続児童殺傷事件では、捕まえられた犯人は当時14歳の少年であったが、犯人が発見される前には「中年男性」や「不審なスクーター」「黒いクルマ」といった、後から考えれば的外れの目撃情報が続出していた。

そうした目撃証言が報じられると、「僕も私も」と、新たな目撃証言が生まれてしまう。考えてみれば住宅地にクルマが走っていることは珍しく無いのだが、後から考えればいくらでも不審に思えてしまう。

今回の場合は、通報が犯人を言い当てた。しかし、だからといって今後、こうした行方不明事件が発生した時にオタクっぽい男性を通報すれば、問題が解決するということはありえない。

あたりまえのことだが、少女漫画を持ち歩くオタクっぽい男が、全員少女を誘拐したり、何らかの犯罪に加担しているわけではない。

しかし、実際にこうして犯罪が起きると、そのような偏見は容易に肯定されてしまう。実際はさまざまな属性の人間が誘拐事件を起こしているわけだが「オタクが犯罪を犯した」というインパクトは、他の事件の犯人像を容易に打ち消してしまうだろう。

今後、このような事件が起きた際に、今回の事件を覚えている人たちは、我先にとオタクっぽい外見の人を通報するだろう。また、警察が偏見を持って捜査をする可能性も否定できない。

マスメディアは、こうした事件を報じるときに、別の属性の人達が起こした過去の誘拐事件を並べて報じるなど、ある属性の人達に対する偏見を導 かない報道をする必要があると、僕は思う。なにより、偏見で産まれた偽物の犯人像によって、一番得をするのは、本当の真犯人なのだから。

*1：札幌市小3女児不明　女児を保護、一緒にいた無職の26歳男を逮捕（FNNニュース　北海道文化放送）
http://www.fnn-news.com/news/headlines/articles/CONN00262359.html

*2：「少女漫画の男」報道にネットで反発の声　「人の趣味に口出すなよ」「偏見・差別だろ」（J-CASTニュース）http://www.j-cast.com/2014/02/04195974.html