福祉を担うのは国である - 赤木智弘
※この記事は2013年12月31日にBLOGOSで公開されたものです
赤木智弘の眼光紙背：第304回
「PRESIDENT Online」に掲載されている、津田大介と古市憲寿と田原総一朗の対談内容が話題となっている。特に注目されているのが、古市による「牛丼やファストフードのチェーンは、日本型の福祉の1つだと思う」という旨の発言だ。(*1)
古市は、労働規制が強く最低賃金も高いがゆえに、価格も高い北欧型の福祉との比較において、日本では食事や服にあまりお金がかからないことが福祉として機能していると主張している。
残念ながら、僕には「北欧では中華のランチを二人で食べて一万円」ということが正しいかどうかはわからないのだが、確かに日本の中だけでも、子供の頃に牛丼といえば定食屋で600円くらいの印象があったが、今は牛丼チェーンで300円前後で食べられる。また服なども明らかに安くなっている。
そうした意味で、確かにそうした価格競争が私達の生活を下支えしているとは言えるのだろう。
しかし、だからといってそれを「福祉」という国が担うべきシステムが、企業に担われているという状況は、私達にとって本当に暮らしやすい社会であると言えるのだろうか？
まず真っ先に思い浮かぶ批判は、牛丼にかぎらず、外食チェーンは非正規労働者を安い賃金で使い潰すことによって成り立っている産業だということだ。対談されている方々のように、お金を持っている人が利用する分には単純に安くていいと言えるのかもしれない。しかし少なくとも僕は非正規労働者に福祉を担わせるような発言に、傲慢さを感じずにはいられない。
また、牛丼しか食べられない食生活はとても貧しいという批判もある。それは決して価格や栄養の話だけではなく、その他の食事の選択肢がないということ自体が貧しいのである。
社会の豊かさとは、多くの人が多様なものから自分にあったサービスを選べることであると、僕は考えている。家で食事を作ったり、高級な料理を食べにいけるという選択肢がある中で、牛丼も選べるというのであればいい。しかし、牛丼やその類の食事しかできない生活が文化的な生活であるとは、僕には思えない。
そしてもうひとつ。企業がそこに住む人々に、サービスを提供し続けるとは限らないということが上げられる。
先日、自分の家の近くの牛丼チェーンが閉店した。都内なので別の店があるから問題はないのだが、これがもし田舎であれば、店が閉店した途端に、その店でしか食事をできないような人たちの生活は危機に瀕することになる。
牛丼チェーンを例えに挙げるから冗談のように聞こえるかもしれないが、実際、地方では商店街の壊滅やスーパーなどの閉鎖によって、高齢者の買い物がままならない「買い物難民」という問題が発生している。
ショッピングモールがある地方都市においても、車を自由に使えない高齢者や障害者、そして貧困者などが買い物難民となってしまっている。
企業が仮に福祉のようなことを担っているとしても、それは商売上たまたまそういう立場にあるというだけの話である。儲からなければ当然のように企業は撤退するのだ。それが企業の健全な活動である。
そのような企業に福祉を担わせるのは、あまりに無責任ではないだろうか？
以上をまとめると、古市の文脈における企業が担っている福祉とは、非正規労働者に一方的に多くの負担を課し、受容する側にとっても選択肢に乏しく、かつ安定性のないダメな福祉であるとしか思えない。
これを福祉と強弁することは、本来であれば国民にしっかりとした福祉を提供する責任のある国の責任を軽んじることに他ならない。
福祉を担うのは国である。けっして企業ではない。
*1：「ネット新時代は銀行不要」の現実味【2】 －対談：津田大介×古市憲寿×田原総一朗 新しい日本のチカラ：PRESIDENT Online - プレジデント
