※この記事は2011年07月03日にBLOGOSで公開されたものです

先月に「全原発停止なら…家庭の電気代１千円アップと試算」との記事が話題となった読売新聞。
今度は今日３日付の朝刊で、「２０年後の電気料金、原発撤退なら月２千円増」との記事を１面トップで扱っている。

前回は経済産業省所管の日本エネルギー経済研究所が算出した「来年度の」標準家庭の電気料金が月１０４９円上昇するという記事だったが、今度は日本学術会議の分科会による試算を引用し、「２０３０年の」標準家庭の電気料金が月２１２１円増えるという記事になっている。

３日の読売新聞は、電力消費の大きな施設が海外へ移転することによる産業空洞化の危機を訴えるコラムを同じ１面で掲載しており、他紙と比較すると思わず、原発維持への意地があるのではととられてもおかしくないような構成となっている。（BLOGOS 編集部・野村）

２０年後に「月２１２１円増」



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上図は読売新聞１面に掲載された各ケースの値上げ（値下げ）幅の表。
この表によると、５年以内に脱原発を行った場合には、２０３０年の一般家庭の電気料金が月＋２１２１円であると試算されている。

同様に、現状を維持し、また耐用年数を経過した原子炉について更新していくというケースでは＋３７２円、２０年後に原子力由来の電力供給を全発電力の５０％とするとした、現在見直し中の「エネルギー基本計画」通りに原発を「推進」した場合は＋１３円としている。

なお、「原発撤退」「現状維持」のケースでは、世界の温室効果ガス対策が本格化するにつれ、火力発電が再生可能エネルギーに置き換わっていくことを前提に試算がされている。
たとえば、来夏に全原発を停止させるケースでは、脱原発→火力発電に切り替え→再生可能エネルギーに置換というプロセスを想定した試算がなされているということのようだ。

原発を推進した場合はほぼ変動なしといった試算に仕上がっているものの、学術会議によれば「安全対策のほか、廃炉や使用済み核燃料の処理コストの増大や、事故が起きた場合の社会への甚大な影響もある」と、現在までも「原発のコスト」にカウントされてこなかったものまで厳密にカウントすれば負担増となる可能性を指摘している。学術会議からの最終報告は夏の電力需給逼迫を乗り越えた後の秋となる模様。

また、同紙では先月に試算を紹介した経済産業省所管の日本エネルギー経済研究所から十一（といち）顧問のコメントを以下のように掲載している。
「家庭の負担増にとどまらず、産業界に目を向けるべきだ。電気料金が上がれば、企業は電気料金の安い海外に工場を移転し、雇用の危機につながる。単純に全原発を停止すればいいという考えは問題だ」
電気料金が上がれば、家計以上に製造業が直撃を受けるのは間違いないものの、今回の福島原発事故を反映した原発の真のコストが分からない段階でのこのコメントはいささかポジショントークともとれてしまう。

一方、同じポジショントークでも逆サイド、再生可能エネルギー推進側で最近メディアへの露出が増えてきた環境エネルギー政策研究所の飯田哲也所長は
「今後、原発の安全規制は厳しくなり、コストが上昇するのは確実だ。再生可能エネルギーは、普及すれば10～20年後には徐々に安くなる。安全、安心、クリーンエネルギーの選択が現実的、合理的だ」
とコメントしている。

もう１つの原発コスト、交付金



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原発のコストとして電気料金に現れていない関連費用にはもう１つ、電源３法（電源開発促進税法・特別会計に関する法律・発電用施設周辺地域整備法）交付金がある。
日経新聞９面「原発の町、財源一極集中　交付金などに依存(リンクは有料記事)」では原発のある市町村がいかに原発マネーに依存しているかを炙り出している。

上の表に示されるように、原発のある地方公共団体の多くは国からもたらされる電源立地交付金と、電力会社などが払う固定資産税に大きく依存している。
同紙によると、それら以外にも電力会社からの寄付金もあるとのことだ。

中国電力が原発建設を計画し、原発事故以降の原発政策に揺れ動く山口県上関町では、過去３年間の寄付金の合計は１８億円にも及び、これは同町の歳入の実に１５％にも及ぶという。
その原発マネーの規模たるや、これを原資に「町は10年度から２万円の地域振興券を町民全員に配り始めた」というほどだ。

また、同記事では０７年の中越地震で柏崎・刈羽原発７基が２年以上停止した新潟県柏崎市が０７～０９年度に激甚災害指定などの特例で原発が止まっていた状況でも計１１８億円を受け取っていた事実などを紹介している。

しかし、当然ながらこうした原発マネーも永続はしない。交付金は発電所が完成してしまえば大きく減るし、固定資産の償却に伴って固定資産税も減っていく。
そして、国の原子力行政も変わりつつある中、これらの収入に依存してはいられない。作ったハコモノの維持管理費をどこまで工面できるかも国の電力行政に大きく依存する。

同紙によれば、中電が政府から停止要請を受けた浜岡原発のある御前崎市では、今年度予算への交付金計上を８億円減額したという。
原発のある地方財政は、まさに国策に揺さぶられている。

読売新聞１面の試算にはなかった、こうした原発のコストも踏まえた上で今後のエネルギー政策の議論を進めたいものだ。


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