【特集：震災から100日（５）】震災1ヶ月で再開した宮古市魚市場～生き残った11隻のトロール船～ - BLOGOS編集部
※この記事は2011年06月27日にBLOGOSで公開されたものです
岩手県宮古市魚市場。津波で市場の柱と屋根以外は全て流されたものの、震災からわずか1ヵ月後の4月11日に営業を再開した。市場の復興を後押ししたものは何だったのか。水産業の町の今を訪ねた。【取材：構成 田野幸伸（BLOGOS編集部）】無事だった11隻のトロール船
－甚大な津波の被害から、一ヶ月で市場を再開できた理由は？
地震が起きた時、宮古所属のトロール船がちょうど水揚げ中。すぐに沖に避難して、無事だった。作業中だから助かった。仕事が終わって、船員の方が引き上げていればダメだったね。いったん帰ってたら、絶対間に合わない。船は陸に打ち上げれれていたと思う。定置網船もが17隻～18隻あったけど全滅。5月に１隻だけ復活したが、宮古漁協管轄の漁船は9割やられた。町のあちこちに船が転がっている。一隻漁船、小さい船の被害は皆目検討が付かない。でもトロール船が11隻残った。だったら、（市場の再開を）するしかないだろと。皆さん頑張った。船が残ったんだから、市場を開くしかない。東北の各港がやられてるから、他の定置網漁船も受けて揚げられるようにしないと。他の分まで頑張らないとね。
－1ヶ月でどんな作業を
機材ほとんど流された。一刻も早く再開するという趣旨の元、機材をそろえようと走った。量り、タンク、カゴ・・・出来るところから必要なものを集めた。回収作業も進めた。津波で陸に流されたものを宮古地区全体を集めて回った。使えるものは使わないと。津波の引きは案外早かったが、残ったヘドロがすごかった。
－再開してみていかがでしたか？
船の乗組員・仲買人・市場の職員、みんな車を流されているから、交通手段がない。港に来るのも一苦労。みんな被災者だからね。地震の時、駐車場に車が何百台か止まっていたが、全部流れて言った。自動車が無事だった人だってガソリンがないし、瓦礫で道もないし。自転車が本当に役にたった。今も売り切れてて買えない。ちょうど4月の入学・就職シーズンだったし。自転車が足りない。宮古ではずっと車の生活だったから、初めて自転車のありがたみがわかった。何十年ぶりに乗ったよ（笑）
フクシマ＝日本の風評被害
－流通はいかがでしょう？
魚は流通には乗って、東京でも買えるようになった。でも原発問題があって、広い地域で魚の安全性は大丈夫なのかと言う報道もある。今のところは宮古の魚に問題はない。対策は出来ているし検査も大丈夫だった。でも、戻ってきた需要は3割くらい。輸出が風評被害で止まってしまった。中国向け、韓国向けがゼロになった。特にスケソウ（タラ）類。取引の半分は国外向け。原発原発が世界中に広まって、日本の魚は食べてもらえない。原発は福島だけど「日本」は全部同じにみられてしまう。被害のない地域でも。水産加工工場で働いていた中国の人たちも全部引き上げてしまった。魚の値段は半分以下。高い油を燃やして獲ってきた魚が例年の半値。猟師さんたちも見合わせながら水揚げしている。漁をしても赤字じゃしょうがない。
それに魚の受け入れ態勢も戻らないと。ここだけ復興しても、冷蔵庫屋さんとか冷凍倉庫とかがやられている。この前大阪でスケソウを食べようって調理方法とかＰＲしてくれてたけど、ああいうのはありがたいね。スケソウは美味しいんだとアピールできると。輸出だけでなくて、国内で食べてもらえると大変ありがたいねえ。（韓国ではチゲ鍋の具としてスケソウダラが人気）
無事だったトロール船 写真一覧
氷がない。漁船を整備、修理するドックがない。
－震災から100日が過ぎて、今困っていること
一番は、氷がない。何をするにも氷が必要。鮮度保持が何より大切。港の製氷工場が破壊された。2箇所ともダメ。運よく、漁協の貯氷所が別の所にあり無事で、800トン備蓄があった。それを少しずつ使って、今の水揚げには対応している。この備蓄がなくなる前に、製氷工場を修復して、再開させないといけない。間に合わなければ、氷を輸入せざるを得ない。
復旧作業の進む製氷工場 写真一覧
氷が持つのは7月一杯。市場はお盆過ぎから最盛期を迎える。サンマ、カツオ・・・魚もどんどん入ってくる。さらには他の地域の漁港がやられてるから、例年は違うところで揚げていた漁船の受け入れ態勢も整えないといけない。氷が必須なんだよ。
今の底引き網の漁期は6月まで、今月で終わり。通常7月8月は船の点検や検査をするんだけど、造船所もやられて大変。ドックが開いておらず、修理が出来ない状態。ドックの混雑をどうするか。今までは大槌、釜石、気仙沼のドックに行っていたが、向こうは全滅。気仙沼は火事にもなったし、300トン400トンのマグロ船が仕込み状態でドックにいた。かと言って、こっちにドックはないし、業界全体が何とかしないと。
気仙沼港では多くの漁船が打ち上げられていた 写真一覧
瓦礫は魚と一緒に入って来る。毎回網が破れてね・・・そのたびに修理するんだよ。市場が休みの時には、トロールは海中の瓦礫を拾う作業をしている。普通の時には半分にわかれて、漁と、瓦礫拾い。丸太、布団、冷蔵庫、屋根・・・沈んでたり、浮いてたり。
トロール船が集めた瓦礫の山 写真一覧
普通に網で引いてくるんだよ。魚を取るのと同じ。それが一番早い。網の修理は大変だけど。4月の末からずっとやってる。だいぶ綺麗になったけど、まだまだあるね。
この網で瓦礫を引き上げる 写真一覧
－これからの目標は？
氷、冷蔵庫の復旧・・・とにかく冷やさないと。貯蔵庫も。そして市場自体だね。事務所もこの通り仮設だし（笑）何より、防潮堤を早く直さないと、これから台風や時化があると、岸壁を越えて波が来て、船の着岸している所が危険。船着場も地盤沈下で50センチくらい下がった。市場もいくらか土地が下がったね。段差が出来てる。満潮でも何とか水位は耐えるけど、風が吹けば市場に海水が入ってくる。
－防潮堤の修復となると、かなり大掛かりになってきますね
今、被害調査をやっている。今年の台風シーズンは宮古に停泊できないから、中のほう（藤原埠頭）に逃がさないといけない。ケーソン（防潮堤の基礎）がやられてるから。台風は8月の末から。9月10月を乗り切らないと。
－震災時はみなさんどちらに。
市場にいたよ。ちょうど水揚げ中だった。地震が来て、停電になって、津波が来るぞってなってすぐに避難した。ビルの高いところへ。ビルから津波を見ていた。市場の人達は無事でした。第1波はサーっと去って行って、第2波、第3波がひどかった。3ｍくらいの津波が来るっていう最初の知らせで、自分達の身長よりちょっと高いのが来るくらいだと、正直緊張感はなかったんですよ、（津波警報は「大津波：高いところで３ｍ程度以上」と表示される）でもま、一応避難したら、8ｍ10ｍってのが来た。予想外だった。生まれて始めてこんな津波を見た。外国の大津波をＴＶで見てて、こういうのかとは思っていたが、実際見てみると言葉が出なかった。
－他の地域が東北の復興のために出来る事はありますか？
福島の原発を何とかすることだね。アレが解決すれば何とかなる。
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何とか生き残った11隻のトロール船。メンテナンスのドックも決まらないまま、大事な網で瓦礫を集める海の男たちの生き様を垣間見た。
港には工事の音が鳴り響く。船から回収した瓦礫を降ろしたり、製氷工場を急ピッチで修復している音だろうか。普段なら騒音にしか聞こえない重機のうなり声も、復興の足音に聞こえた。
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