除菌設備や玄関手洗いはニーズ減! コロナ禍収束後、住宅のニューノーマルとなる性能・設備とは?
リクルートが、新築の分譲マンションや戸建ての購入を検討している人を対象に、「コロナ禍で必要度が増した」もので「今後も必要だと思う」ものを調査しました。その結果、コロナ禍当初に話題を集めていた「ニューノーマル」な設備が、今はニーズが薄れているといった結果となりました。
どんなニーズが減少し、今後はどういったものがニューノーマルとして重視されるのでしょうか? 調査結果を見ていきましょう。
玄関脇手洗いや除菌設備などの当初のニーズは薄れている!?
リクルートの「新築分譲マンション・一戸建て商品ニーズ調査(2021年)」は、東京都などに出されていた緊急事態宣言が解除された2021年10月1日直前の、2021年9月13日~21日に実施されたもの。感染者数がかなり抑制されていった時期に該当します。調査対象は、首都圏、関西圏、東海圏、札幌市、仙台市、広島市、福岡市に住む20代~60代の2,100人でした。
この調査のユニークな点は、住宅に求めるものとして、【永続度】×【変化】に着目した点です。具体的にさまざまな性能や設備、スペースについて、次の2点を聞いています。
変化:コロナ禍を経験したことで「必要だと思うようになった」
永続度:コロナ禍が収束した後でも「必要だと思う」
その結果を【変化】の高・低と【永続度】の高・低で4つのグループに分けて分析しています。まず、【変化】は高いけれど、【永続度】は低いグループ、つまり「コロナ禍で必要度が増したものの、感染が落ち着いたらそれほど必要ではないと思うもの」を見ていきましょう。マンションでも戸建てでも共通してこのグループに入ったものは、次の3つの項目でした。
【変化】は高いが【永続度】は低いグループ
・玄関で手洗いができる設備
・窓を開けずに換気ができるウイルス除去システム
・家族それぞれが一人で仕事や趣味に集中できるスペースがあること
マンションだけで言えば、
・除菌対応エレベーターがあること
・共用部入り口に除菌ツール置き場や検温センサーがあること
・除菌対応換気システムなどの除菌設備があること
もこのグループに入っています。
つまり、新型コロナの感染拡大当初は、玄関脇の手洗い場やウイルス除菌システム、マンションの除菌対応エレベーターなどへのニーズが高まったものの、今は永続的に必要とは思っていないということが分かります。
通風換気、遮音性、省エネ性、通信環境などの基本性能がニューノーマルに
次に、【変化】も高く、【永続度】も高いグループ、つまり「コロナ禍で必要度が増し、感染が落ち着いても必要だと思うもの」を見ていきましょう。リクルートでは、「ニューノーマルといえる項目群」と名付けています。
マンションでも戸建てでも共通してこのグループに入ったものは、次の4つの項目でした。
【変化】も高く【永続度】も高いグループ
・通風・換気性能に優れた住宅であること
・通信環境が充実していること
・遮音性に優れた住宅であること
・省エネ性(冷暖房効率)に優れた住宅であること
マンションだけで言えば、
・宅配ボックスが充実していること
一戸建てだけで言えば、
・陽当たりの良い住宅であること
・収納スペースが充実していること
がこのグループに該当します。
項目を見ていくと、「住宅の基本性能に関するもの」が多いことが分かります。「通風・換気」「通信環境」「遮音性」「省エネ性」に加え、戸建ての「陽当たり」などについては、後から引き上げようとすると大掛かりな改修が必要になる場合もあり、当初から住宅の基本性能として確保したいものと言えるでしょう。
通信環境は今や必須条件ですが、基本性能が高いことは「住宅の居住性」を高めることにもなります。一方、例えば玄関脇の手洗い場は、給水管・排水管を玄関まで延長することになり、思ったよりも費用がかかります。あれば安心でしょうが、同じ費用をかけるのであれば、居住性を高める性能に回したいという、冷静な判断がされているという印象を受けました。
また、家族それぞれが一人で仕事などに集中できるスペースを用意すると、住宅全体の広さも必要になります。テレワークの頻度が減るなどの変化もあり、家庭ごとにスペースを工夫して住み分けている、ということも考えられます。
駅からの距離より広さを重視する傾向が続く
別の調査も見ていきましょう。リクルートが2021年12月に実施した「『住宅購入・建築検討者』調査」は、過去1年以内に住宅の購入・建築、リフォームについて具体的に行動を起こした人を対象にしたものです。
以前から、「コロナ禍で、駅からの近さなどの利便性を重視する傾向が薄れ、広さをより重視するようになった」と言われています。今回の調査結果を見ても、その傾向が続いていることが分かります。
広さ・駅からの距離の意向(単一回答)
2019年12月の調査では「広さ派」と「距離派」は拮抗していましたが、2020年12月、2021年12月の調査では、いずれも「広さ派」が「距離派」を大きく上回る結果となっています。
コロナ禍で住まいに求めるものが、家族団らんや寝起きする場所だけでなく、仕事や趣味、学習をする場として広がり、工夫して住み分けるには広さが必要になっている、ということが要因だと思います。
広さも駅からの距離も、後から変えることができない重要なものですが、ニューノーマルでは住宅の広さや基本性能の高さが重視されるようになったということでしょう。
これから住宅を取得しようと考えている人は、長く住むことを考えて、基本性能の高さについてしっかり確認することが大切です。とかく、新しい設備機器や今使い勝手がよい間取りなどに目が行きがちですが、見ただけではわかりにくい基本性能こそ、住まいの居住性に影響するものです。
執筆者:山本 久美子(住宅ジャーナリスト)