年収1,000万の手取りはいくら? 一人年収1,000万円と世帯年収1,000万の差
仕事をするうえで「年収1,000万円」を一つの目標としている人も多いことでしょう。年収1,000万円というのはあくまでも税金や社会保険料などを差し引く前の額ですが、手元に残る手取り額はいくらぐらいになるのでしょうか。今回は年収1,000万円を切り口として、年収や手取り、世帯年収について考えていきます。
年収と手取りは違う
年収は、そのまま使える金額ではありません。給与所得者の場合、以下に挙げる各項目が差し引かれた手取り分が手元に残るお金となります。年収から控除される項目について詳しく見ていきましょう。
健康保険料
大手企業に多い各企業独自の「健康保険組合」、中小企業に多い「協会けんぽ(全国健康保険協会)」などの健康保険制度の被保険者である従業員の場合、毎月の給料から健康保険料が天引きされます。健康保険料は、会社と従業員で2分の1ずつ負担する仕組みです。健康保険料率は、勤め先が所在する都道府県によって異なっています。また、国家公務員や地方公務員の場合には、共済組合の掛金として同じように毎月の給料から保険料が天引きされます。
厚生年金保険料
日本の年金制度は2階建てといわれ、給与所得者は国民年金と合わせて厚生年金への加入が義務づけられています。厚生年金保険の対象となる会社員は、毎月の給料から厚生年金保険料も控除されます。厚生年金保険料も、会社と従業員で2分の1ずつ負担する仕組みです。2017年9月以降の料率は18.3%となっており、会社負担分を除いた半分の9.15%が毎月の給与から控除されます。
介護保険料
40歳以上になると介護保険への加入が義務づけられているため、先ほどの健康保険料と合わせて、介護保険料も負担しなくてはなりません。介護保険サービスの利用者負担は1~3割となっており、残りの7~9割のうち半分は国・自治体負担、残り半分が被保険者の支払う保険料で賄われています。40~64歳までの人は第2号被保険者となり、給与所得者の場合は毎月の給与から天引きされます。介護保険料についても、会社と従業員で2分の1ずつ負担する決まりです。
雇用保険料
万が一失業してしまったとき、一定期間必要な給付を受けられる雇用保険。その被保険者である給与所得者は、毎月の給料やボーナスから雇用保険料を控除されます。これも会社と従業員で一定割合を負担し合うのですが、健康保険料などと違って、会社の負担分が多めに設定されているのが特徴。2021年度を例に見ると、一般事業を営む企業では労働者の保険料率が0.3%なのに対し、事業者負担が0.6%となっています。
なお、ここまで紹介した健康保険料、厚生年金保険料、介護保険料、雇用保険料をまとめて「社会保険料」といいます。
所得税
社会保険料とともに給与から天引きされるのが税金です。そのうち所得税は、給与の総支給額から各種控除を差し引いた課税所得額に対してかかります。所得税は年収が高くなるほど税率も高くなる累進課税となっており、給与所得者の場合、源泉徴収という形で毎月の給与から天引きされています。
また、2011年の東日本大震災からの復興財源として、2037年度までの期間限定でかかるのが復興特別所得税(所得税額の2.1%)。こちらも通常の所得税とともに、毎月の給与から源泉徴収されます。
住民税
給与所得者の場合、住民税も基本的に毎月の給与から天引き(特別徴収)されます。住民税には、課税所得金額に対して一律の税率をかけて算出する「所得割」と、課税所得金額に関係なく一律の税額となる「均等割」があります。所得割の税率は10%、均等割の負担額は通常5,000円(市町村民税が3,500円、都道府県民税が1,500円)です。
住民税も所得税と同様、東日本大震災の復興財源として2023年度まで復興特別税が設定されています。税額は市町村民税500円、都道府県民税500円の計1,000円です。
年収1,000万の手取りは?
年収から社会保険料や税金を差し引いた金額が手取り額となりますが、年収1,000万円の人の手取り額はいくらぐらいになるのでしょうか。さまざまなWebサイトに手取り額の早見表が掲載されていますが、一例として「JOBSHIL」の早見表から年収1,000万円の手取り額、控除額の内訳を見てみます。
上記は2020年5月25日現在の条件をベースに、介護保険料の支払いがない40歳未満・扶養家族なしの東京都新宿区在住者という想定のもと、算出した金額です。こうして見ると年収1,000万円といっても、実際手元に残る金額は700~750万円程度であることがわかります。
一人年収1,000万円と世帯年収1,000万円の違い
高収入というイメージのある年収1,000万円以上の人は、日本にどれくらいいるのでしょうか。また、一人年収1,000万円と世帯年収1,000万円にはどのような違いがあるのか、解説していきます。
年収1,000万円は高嶺の花
国税庁「民間給与実態統計調査」によると、2020年分において年収1,000万円以上を稼ぐ人は、日本の給与所得者のうち4.6%に過ぎません。業種別で見ても、平均給与が最も高い「電気・ガス・熱供給・水道業」でも平均年収は715万円です。
出典:国税庁「令和2 年民間給与実態統計調査」
年収1,000万円以上稼いでいるのは、弁護士などの士業、パイロットなどのスペシャリスト、大手広告会社や大手商社、テレビのキー局などに勤めるエリート会社員、医師、企業経営者といった人たちが中心。数多ある職業の中でも限定的といわざるをえません。一人で年収1,000万円を稼ぐというのは再現性が高いとはいえず、実現するのはそう簡単なことではありません。
高収入な職業の例として、弁護士を考えてみましょう。弁護士として働くには、法律系資格の最高峰である司法試験に合格する必要があります。そもそも司法試験を受けるには予備試験に合格しなくてはなりませんが、その合格率は2021年でわずか3.99%。本番の司法試験も2021年の合格率は41.5%と決して高くなく、結果的に希望者の1~2%程度しか到達できない狭き門なのです。
出典:2021年予備試験最終結果発表
出典:司法試験合格発表!
あくまでも一例ですが、このような狭き門をくぐり抜けた人でないと、一人で年収1,000万円に達するのは難しいでしょう。
世帯年収1,000万円ならば?
一人で年収1,000万円という人はかなり限られますが、世帯年収1,000万円で考えると様相が異なってきます。厚生労働省「国民生活基礎調査」によると、2019年の年収1,000万円以上の世帯は全体の12.1%。たとえば、夫の年収が500万円、妻の年収が500万円であれば世帯年収は1,000万円となるので、一人年収1,000万円よりも到達の可能性が高いといえるでしょう。
出典:厚生労働省 2019年 国民生活基礎調査の概況
さらに、先ほど紹介した「JOBSHIL」の早見表で一人年収500万円の手取り金額を見てみると、世帯年収1,000万円は一人年収1,000万円よりも手取りが高いことがわかります。
夫婦共働きでそれぞれ年収500万円とすると、手取り額は391.1万円×2。世帯での手取り額は782.2万円となり、一人年収1,000万円の手取り額735.6万円を46.6万円も上回る計算になります。これは、所得税が累進課税になっており、一人年収1,000万円のほうが一人年収500万円より重く課税されるためです。
このように、実現性と手取り額どちらの面から考えても、世帯年収で1,000万円を目指すのは有効な選択肢といえます。
まとめ
一人で年収1,000万円を稼げるのは限られた人のみであり、多くの人にとっては正直なところ高い目標といわざるを得ません。一方、世帯年収1,000万円であれば比較的実現性が高いといえるでしょう。世帯年収1,000万円は一人年収1,000万円よりも手取り額が多く、効率的とも考えられるので、現実的な目標として目指してみてはいかがでしょうか。