35歳、「戦力外通告」からの前例なき挑戦!元横浜DeNA主将、まさかのアメフト転身を追った
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毎年1月3日に行われ、今年で75回目を迎えたアメリカンフットボールの日本一決定戦「ライスボウル」。
スーパープレーの数々と激しいぶつかり合いに会場は大いに熱狂した。
そんなアメフトの世界に、無謀ともいえる挑戦をした男がいる。元横浜DeNAベイスターズの石川雄洋(35歳)だ。
16年間チームを支えたハマの元主将は、なぜアメフトの世界に飛びこんだのか?
テレビ朝日のスポーツ情報番組『GET SPORTS』では、異例の挑戦の舞台裏を追った。
◆「新しいことにチャレンジしたい」
2004年、名門・横浜高校からドラフト6巡目でベイスターズに入団した石川。
主に1番や2番を打ち、その俊足から「ハマのスピードスター」と称された。2012年からチームの顔として3年間キャプテンも務め、2019年には通算1000本安打も達成。
だが2020年、1軍での出場機会はなく、その年の11月に戦力外通告を言い渡される。16年間のプロ野球生活に幕を下ろした石川は、引退セレモニーでこう宣言した。
「私はノジマ相模原ライズ、アメリカンフットボールチームで、第2の人生をスタートすることになりました」
日本では史上初となるプロ野球からアメフトへの転向。なぜ石川は周囲が驚く選択、決断をしたのだろうか?
「体がまだぜんぜん動くというのもありますし、新しいことにチャレンジしたいという気持ちもありましたし、アメリカンフットボール大好きなので」(石川)
そうした一心で自ら売り込みをかけ、入団に至ったという。
◆35歳のルーキー、野球の体からアメフトの体へ
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2021年6月。引退からわずか3カ月後には、神奈川県を本拠地とする「ノジマ相模原ライズ」に合流。プロ化されていない国内のアメフト界において、最上位のリーグに属する社会人チームだ。
所属選手は75人(2021年6月時点)。だが登録枠の65人に選ばれなければ、試合には出られない。20代の経験者が大半を占めるなか、石川は35歳の初心者だ。
練習現場ではチームに馴染んで笑顔も見せていたが、一方で戸惑いを感じていた。
「いきなり全力で行ってストップするという動作が(野球は)少ないので、そういう面ではキツイですね。やっぱり“リセット”ですかね。16年間(プロ野球選手を)やってきたけど、今やっていることは野球じゃないんで」(石川)
野球の体からアメフトで使える体を目指し、トレーニングも大きく変えていく。
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「維持系のトレーニングから、1回で最大のパワーを出すトレーニングに変わってきている。35歳でトレーニングもキツイけど、やっぱり人間慣れると思うので」(石川)
グラウンドでは、実践的な動きの練習。石川は味方からのパスを受ける“ワイドレシーバー”を任されている。アメフトでもっとも足の速さが求められるため、通算118盗塁の俊足を活かせるポジションだ。
指導する前田一之コーチは、そのポテンシャルを高く評価する。
「キャッチ感覚もそうだし、落下点の見極めとか、やっぱさすがだなと思うところは伸ばしていっていますね」(前田コーチ)
◆「野球選手ってすごいな」って思われたい
だが、野球で培ったスピードとキャッチだけでは通用しない部分もあった。
「ボールを追うときに、ボールを何回も見ちゃう」(石川)
ワイドレシーバーは、ボールの軌道を追いながら相手ディフェンスを振り切らなければならない。どちらかがおろそかになるとキャッチできない難しさがある。
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新たな挑戦をする石川を奮い立たせているものは、いったい何なのか?
「やっぱり『野球選手ってすごいな』って思われたいし、アスリートとして勝負に勝ちたいという思いは何歳になってもある」(石川)
思いは形となった。リーグ戦の登録枠を見事勝ち取り、開幕メンバー入りをはたす。
◆デビュー戦で見せつけた可能性
9月4日、迎えたリーグ戦。初戦の相手は、強豪・富士通フロンティアーズ。石川はベンチスタートとなった。
開始から30分。強豪を相手に厳しい戦況を強いられるノジマ相模原ライズ。石川の出番はないまま、試合は終了へと近づいていく。
残り時間10分を切り、ライズが10対49と大きくリードを許したとき、ついに石川が途中出場。前例なき挑戦が実を結んだ瞬間だった。
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持ち前の俊足でフィールドを一気に駆け上がる石川。時間はあとわずかしかない。
そんななか、24ヤードのロングパスを見事キャッチ。相手守備の厳しいマークを見極めて落下点へ走り、掴んだボールを離さなかった。
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「アメフトの練習をし始めて3カ月くらいでリーグでキャッチできたことはすごく自信になりましたし、今までやってきたことが間違いではなかったと確認できました」(石川)
デビュー戦で見せつけた大きな可能性。今、さらなる目標も見出している。
「1月3日のライスボウルを見に行ったんですけど、勝負の世界はやっぱりいいなとあらためて思いました。今シーズンは自分たちがあの場所で勝つ試合ができるように、1年間やっていきたいと思っています」(石川)
元プロ野球選手の“すごさ”を証明し、新たな舞台で栄冠を掴むその日まで。石川の挑戦はつづく。