日立建機が生み出した2本腕の重機「アスタコ」。開発の発端は技術者による人型ロボットを作りたいという熱意。誕生から15年以上を経て仕様も複数に。それらの違いなどを開発者に聞いてきました。

「アスタコ」「アスタコ NEO」どう違う?

 マンガやアニメ、ゲームの世界などでは割とポピュラーな人型ロボット。腕が2本あると、片方で対象物を持ち上げつつ、もう片方の手で折り曲げたり、切ったり、潰したりとさまざまなことを行えます。これを重機(建機)に応用し、形にしたのが日立建機の「双腕仕様機」。その名もアスタコ(ASTACO)です。

 ASTACOとは「Advanced System with Twin Arm for Complex Operation」の略で、スペイン語でザリガニという意味だそう。すでに誕生から15年以上が経過しており、ミニカーや模型として市販されているほか、さまざまなメディアや各種イベントなどで披露されてきたため、その名は知らなくとも見たことがある方も多い重機となりつつありますが、複数のバリエーションがあるという点はまだあまり知られていません。

 そこで、それら双腕仕様機のタイプごとの違いについて、茨城県ひたちなか市にある日立建機ひたちなかICTデモサイトで実際に見てきました。


日立建機の2種類の双腕仕様機。向かって右側が「アスタコ」、左側が「アスタコ NEO」。中央に立つのが開発にも携わった日立建機広報の小俣貴之さん(2021年11月、柘植優介撮影)。

 現地で迎えてくれたのは、日立建機広報グループ部長代理の小俣貴之さん。この方は過去、アスタコシリーズの開発にも携わっていた人です。

 小俣さんが案内する先には双腕仕様機が2台用意されていました。2台を見比べてみるとその差は歴然。大きさも腕の造りも違います。説明によると、小さい方が「アスタコ」で、大きい方が「アスタコ NEO」と言うそうです。

たとえるなら「ザリガニ型」と「シオマネキ型」

 先に開発されたのは「アスタコ」で、こちらは重量が6〜7tクラスの小さな油圧ショベルがベースになっています。また左右でほぼ同じ大きさの腕を持つため、運転席も真ん中に配置されています。

 それに対して「アスタコ NEO」の方は、13tクラスの油圧ショベルをベースにしており、加えて腕の大きさも左右で異なります。なぜ、左右で腕の大きさが違うのか小俣さんに聞いたところ、「アスタコ NEO」の方は、あくまでも普通の油圧ショベルにもう1本補助的な腕を付け、双椀仕様にしたものだからということでした。

 たとえるならば、「アスタコ」はザリガニ型、そして「アスタコ NEO」はシオマネキ型になるといいます。


最初に開発された双腕仕様機「アスタコ」(2021年11月、柘植優介撮影)。

 一見すると左右の腕がほぼ同じ大きさで、運転席も真ん中にある「アスタコ」の方が有用に思えるものの、小俣さんによると、実はクルマなどと同じで、既存の油圧ショベルに乗り慣れた人にとっては「アスタコ NEO」の方が違和感ないそうです。

「アスタコ NEO」は運転席の配置も既存の油圧ショベルと同じく左寄りです。加えて「アスタコ NEO」の場合、小さな補助腕の方は使わないときは畳んでおくとか、場合によっては外してしまい、一般的な油圧ショベルとして使うことも可能なのだとか。

既存の油圧ショベルの先に位置する「アスタコ NEO」

「アスタコ」と「アスタコ NEO」は操作方法も異なります。「アスタコ」はシート上部、ちょうど膝の上あたりに座面と水平に突き出た2本のレバーを、オートバイのハンドルのように握り、それをひねったり上下に動かしたりしつつ、親指部分のスイッチも使って2本のアームを動かします。

 操作用レバーはオリジナルのもので、右のレバーで右腕を、左のレバーで左腕を動かす構造のため、既存の油圧ショベルとは異なる操作が要求されます。


既存の油圧ショベルをベースに補助腕を付ける形で生まれた「アスタコ NEO」(2021年11月、柘植優介撮影)。

 対して「アスタコ NEO」は、あくまでも既存の油圧ショベルと同じ要領で、違和感なく動かせるように考慮されています。「アスタコ」のようなオリジナル構造にはなっておらず、運転席周りは既存の油圧ショベルと同じレイアウト配置になっています。

 一般的な油圧ショベルと同じく、運転席のシートの左右、上方向へ垂直に突き出たレバー(スティック)を用いて動かします。しかも、こちらは左右のレバーとも連動しており、前後左右への、いわゆる十字操作は右腕(主腕)を動かすもので、両方のレバー(スティック)の上面部分にあるボタンスイッチで左腕(補助腕)を動かすようになっています。

「アスタコ」のさらなる発展形「四脚双腕」とは

 実際に運転席に座り、レバーを握ると気分はまさにロボットのパイロット。ちなみに、日立建機広報の小俣さんによると、みな口をそろえて「ガンダムの運転席のようだ」と言うそうです。

 なお、双腕仕様機は市販されています。日立建機の製品カタログにもマルチブーム仕様機やハーベスタ仕様、レンコン掘り仕様などとともにラインナップとして掲載されています。

 すでに「アスタコ」は東京消防庁や川崎市消防局に納入されているほか、陸上自衛隊にはより大型の「アスタコ NEO」が引き渡されています。陸上自衛隊が採用した経緯は、2011(平成23)年の東日本大震災において、日立建機の所有機が被災地で瓦礫処理のために稼働しているのを自衛官が見たことが契機だったとのこと。ほかにも民間の解体業者などに複数台販売されているそうなので、タイミングがあえば市井の解体現場で見かけるかもしれません。


日立建機が開発した「四脚クローラ方式双腕型コンセプトマシン」。足場の悪い場所でも効率よく作業できるという特徴がある(2021年12月、柘植優介撮影)。

 加えて日立建機では、これら双腕仕様機の研究実績を基に、より本格的な「四脚クローラ方式双腕型コンセプトマシン」というものを開発、2018年に発表しています。こちらは「4本足の双腕機を作ってみたい」という若手技術者のアイデアを形にしたものなんだとか。

「ガンダムやパトレイバーみたいな、アニメに出てくるようなロボットを作りたい」という技術者の夢が形になった双腕仕様機。そういえば、パトレイバーに出てくる「レイバー」なるロボットも汎用人間型作業機械として、劇中おもに建設機械として普及したという設定でした。

 そう考えると、近い将来、より人型に近い建設機械が登場するのも、あながち夢物語ではないのかもしれません。

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