新型コロナウイルスの感染拡大をきっかけとして、日本でもすっかり定着した感のあるテレワーク。普段の会話を思い返してみるとテレワークと言うこともあれば、リモートワークと呼ぶこともあります。似たような意味で使われる2つの言葉ですが、両者に違いはあるのか詳しく解説します。

テレワークとリモートワークに明確な違いはない

結論からいうと、テレワークとリモートワークという2つの言葉に明確な違いはありません。

テレワークとはtele(=離れた)とwork(=働く)を組み合わせた造語で、1970年代のアメリカが発祥といわれています。当時のアメリカでは自動車の増加による大気汚染やオイルショックへの対応から、会社へ出勤せずに自宅で働くテレワークという働き方が広まり始めました。

一方のリモートワークは、remote(=遠隔・遠い)とwork(=働く)からなる言葉。どちらも、オフィスから離れた場所で働くという意味であることに変わりはないのです。

テレワークには定義がある

言葉の意味に違いはないテレワークとリモートワークですが、テレワークについては厚生労働省の関連組織である一般社団法人日本テレワーク協会によって、以下のように定義されています。

「テレワークとは、情報通信技術(ICT=Information and Communication Technology)を活用した、場所や時間にとらわれない柔軟な働き方のことです。」

出典:一般社団法人日本テレワーク協会 テレワークとは

この定義を踏まえると、テレワークは情報通信技術を用いるという働き方が特徴ということになります。

一方のリモートワークは、自然発生的に使われるようになった言葉であり、発祥は不明で明確な定義もありません。テレワークのように情報通信技術を用いるなど特定の働き方を条件としているわけではないため、オフィス以外の場所で働くこと全般を指す言葉といえるでしょう。

テレワークの4つのタイプ

新型コロナウイルス感染拡大に伴って急激に広まったテレワークですが、実際はコロナ禍以前から働く環境の柔軟化のために推進されてきました。先ほど紹介した日本テレワーク協会では、テレワークを「在宅勤務」「モバイルワーク」「サテライト/コワーキング」「ワーケーション」の4つに分類しています。

在宅勤務

テレワークの内、自宅を就業場所とする働き方が在宅勤務です。コロナ禍による出社制限で最も広まったテレワークといえ、テレワーク=在宅勤務と捉えている人も多いのではないでしょうか。

在宅勤務では職場に通勤する必要がないため、通勤時間の削減や満員電車に乗って移動する身体的負担の軽減が図れ、時間を有効活用できる点がメリットです。また、育児や介護を行っている人や障害があって通勤が困難な人でも就業できるので、企業側が多様な人材を確保できるというのもポイントです。

ただ、家にいながらでもオンラインや電話で会社とやり取りする必要があり、業務に支障がないレベルのPC・インターネット環境を家に構築しなければならないというハードルがあります。

モバイルワーク

カフェで仕事をする風景も一般的になった(画像素材:PIXTA)

電車や新幹線、飛行機の中など移動中に仕事を行うのがモバイルワーク。移動の合間の空き時間にカフェなどで行うものもモバイルワークにあたり、すきま時間を有効活用できるため業務の効率化につながります。特に仕事間の移動が多い営業職などでは、モバイルワークの導入による生産性向上の効果は大きいといえるでしょう。環境さえ整っていれば外出先で仕事を完結できるので、仕事終わりにわざわざオフィスへ戻る必要もなく、身体的負担の軽減も図れます。

モバイルワークをするには、屋外で使えるWi-Fiなどの通信環境が整っていなければなりません。カフェや公共空間では無料Wi-Fiの整備が進んでいますが、セキュリティ面を考えると、企業側で専用の回線を用意するのが望ましいとされています。

サテライト/コワーキング

サテライトは、本来のオフィスとは別に企業が設置したサテライトオフィスで仕事を行う働き方。コワーキングは、一般的なコワーキングスペースで仕事を行う働き方のことです。企業が就業規定などで就業場所を定める場合のほか、個人で働く場所を選択する場合も含みます。

自宅から近いサテライトオフィスやコワーキングスペースで働けるので、在宅勤務やモバイルワークと同様に時間を有効活用でき、業務の効率化につながります。サテライトオフィスやコワーキングスペースは、インターネット設備や業務に集中できる環境が整っているため、在宅勤務やモバイルワークのように個人向けの通信環境を構築する必要がない点もメリットです。企業専用のサテライトオフィスを設ければ、社内限定の通信網に接続することも可能であり、テレワークでできる業務の幅も広がります。

ワーケーション

これからさらに広がりそうなワーケーション(画像素材:PIXTA)

最近注目を浴びているワーケーションは、「ワーク」と「バケーション」を組み合わせた造語で、リゾート地などバケーションも楽しめる地域でテレワークを行うこと。リゾート地で仕事をするだけでなく、ビジネスの前後や出張先で滞在を延長するなどして余暇を楽しむ「プレジャー」も含みます。ワーケーションでは休暇を充実させながら働けるため、心身の健康を保てる点がメリットとされます。

観光庁はワーケーションを、有給休暇を活用してリゾート地などで休みながらテレワークを行う「休暇型」、オフィスから離れた非日常空間で業務を行う「業務型」の2つに分類しています。業務型には、地域関係者との交流を通じて地方の課題解決方法を探る「地域課題解決型」も含まれており、地域創生につながる試みとしても注目を集めています。

テレワークとリモートワーク、どう使い分ける?

テレワークとリモートワークという、似た意味を持つ2つの言葉は使い分けるべきなのでしょうか。また、使い分けるとしたらどのように考えればいいのか解説していきます。

使い分けに明確な基準はない

「リモートワーク」と「テレワーク」に使い分けの基準はない(画像素材:PIXTA)

先述のとおり、テレワークとリモートワークという言葉の語源を踏まえると、両者に明確な違いはありません。日本テレワーク協会は、情報通信技術を用いた場所に捉われない働き方のことをテレワークとして定義づけていますが、同様の働き方をリモートワークと呼んでも間違いではないのです。以上より、2つの言葉を使い分ける明確な基準はないといえます。

テレワークは政府、公的機関、大企業で使われる傾向

意味に大きな違いがないテレワークとモバイルワークですが、使われるシーンには違いが見られます。まずテレワークという用語は、政府や公的機関、大企業で使われる傾向があります。一例として、首相官邸ホームページの「デジタル改革」という項目における表現を見てみましょう。

「テレワークを活用した新しい働き方を後押しします。中小企業等を対象としたセミナー・相談会の開催など全国的なテレワーク導入支援体制の整備、労務管理やセキュリティに関する相談事業、テレワーク導入に要した経費の助成等を実施し、地方に暮らしていても都会と同じ仕事ができる社会を実現します。」

出典:首相官邸 デジタル改革

上記からも、政府がテレワークという用語を積極的に使用しているのがわかります。1970年代のアメリカで生まれたテレワークという言葉が、日本で使われ始めたのは1980年代ごろ。かれこれ30年以上にわたって使われ続けてきたため、早い時期から導入を検討してきた政府、公的機関、大企業などは慣習的にテレワークという用語を使用することが多いと考えられます。

それ以外はリモートワーク

対して、伝統的な大企業以外の民間企業や日常会話のなかでは、リモートワークのほうが一般的な用語として定着してきています。特にIT関連企業やクリエイティブ系企業では、既存の概念にとらわれない新たな働き方を実践している場合も多く、明確な定義がなく幅広い意味で使えるリモートワークを好んで使う傾向にあります。

まとめ

今回見てきたとおり、リモートワークとテレワークという言葉に明確な意味の違いはありません。ただ、言葉の成り立ちが異なっていることを把握したうえで使えば、考え方に深みが出るのではないでしょうか。場面に応じてリモートワークとテレワークどちらが適しているのか判断して使い分けるのがおすすめです。