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 ステーキや焼肉などは、片面をじっくり焼いた後、ひっくり返して軽く焼いたほうが良い……とよく言われています。筆者は若い頃、このセオリーを知らず、焼肉を何度もこまめに焼き返し、食通の先輩から叱られた経験もあり、以来「片面じっくり」はずっと守ってきました。

 しかし、この常識を覆す結果が、東京ガス都市生活研究所(以下、東京ガス)より9月に発表されました。それは「ステーキ肉は15秒ごとにこまめに焼き返すとうまくなる」というもの。こまめに焼き返すことで肉にストレスをかけずに美味しくいただけるとのことですが、「肉のストレス」って果たしてなんなのでしょうか? この調査結果の根拠を、東京ガスの松葉佐智子さんに聞きつつ、実際に東京ガス推奨「15秒ごとのこまめ焼き」でステーキを焼いてみたいと思います!

「肉のストレス」とは? 肉の表面が縮んだり、肉汁を多く排出したり、肉自体が硬くなることを指す!

焼いたステーキの断面図。じっくり焼き(90秒ごとに焼き返したもの)

 松葉佐さんによれば、「『片面じっくり』で焼くと、片方の加熱面のみに火が入り過ぎ、肉そのものにストレスがかかり美味しく焼けない」とのことです。

 肉のストレスとは、肉の表面のたんぱく質が熱変性を起こし縮んだり、肉汁を多く排出してしまうといったことで、肉自体が硬くなることを指すようです。

こまめに返したもの(15秒ごとに焼き返したもの)

 写真のように「15秒ごとに焼き返したもの」は肉の表面から中心にかけて茶色からミディアムレアのピンク色に綺麗なグラデーションになっているのに対し、「90秒ごとに焼き返したもの」は火の通った部分と生焼けの部分のコントラストが強過ぎます。「この焼きムラによって実際に食べる際には美味しくいただけない」とのことです。

焼いたステーキの表面。左が15秒ごとに焼き返したもの。右が90秒ごとに焼き返したもの

「15秒ごとに焼き返したもの」の表面を見ても焼き上がりに全体の統一感があるのに対し、「90秒ごとに焼き返したもの」は表面がどことなくガチッと焼かれている一方、側面は火の通りが弱めであることがわかります。確かにこう比較すると、前者のほうが美味しくお肉をいただけるように思えます。

焼き始める際、フライパンを加熱してはいけない!?

フライパンを加熱させない状態からステーキを焼き始め、15秒ごとにこまめに焼き返すフロー

 また、松葉佐さんによれば、ステーキを焼く際、「15秒ごとに焼き返すほうが良い」ことに加え、下記の2点も守って欲しいとのことです。

・肉を冷蔵庫から出して室温に戻しておく
・フライパンを予熱せず、肉を入れてから火をつける(コールドスタート)

「肉を室温に戻しておく」というのはわかりますが、「フライパンを予熱せず、コールドスタート」というのは意外でした。聞けば「いきなり熱いフライパンで焼くのは肉の表面だけが急に加熱されるため、これもまた肉に大きなストレスがかかります。一方フライパンを予熱する前からフライパンに肉を入れておくことで、徐々に火を通すことができますし、また、こまめに返しなら焼くことで、肉の両面から均一に火を入れることができます」とのことでした。

 ちなみに、このコールドスタートから15秒ごとに焼き返す際のフローは写真の通り。ステーキ肉はそれなりに高額なこともあり、焼く際は絶対に失敗したくないものですが、この写真のように15秒ごとにこまめに焼けば、安定した焼き加減で仕上げることができるのだそうです。

東京ガスの実証実験・科学的根拠に基づく結果だった!

「15秒返し」「90秒返し」双方で調理したときのステーキ肉の官能試験結果

 ステーキ肉を「15秒ごとこまめに焼き返す」ことで美味しく仕上がる理由について、東京ガスは主観や偏った意見で言っているわけではありません。しっかりとした実証実験や科学的根拠に基づいたもので、写真のような調査結果も、この根拠を示す資料として発表しています。

焼き上がった肉の硬さを測る実験

 官能試験結果は、東京ガス所属の食のプロたち16名からの回答を元にしたデータのようですが、ここでもまた「15秒ごとこまめに焼き返す」のほうが評価が高いことがわかります。

「15秒ごとにこまめに焼き返す」ことで、確かに優しく品の良い焼き上がりに!

コールドスタートで焼いていきます

 というわけで筆者も実際に東京ガスが推奨する「15秒ごとこまめに焼き返す」やり方でステーキを焼いてみます。

 まず、ステーキ肉を室温に戻すために焼き始める1時間半ほど前に冷蔵庫から取り出しておきます。そして、予熱なしのフライパンに牛脂のみを塗ってコールドスタートで焼いていきます。

思ったより「15秒」は短く感じます

 正直、この焼き方に慣れないこともあり、「こんなに頻繁に焼き返して良いのか」とか「単純に面倒だ」とも思いましたが、しかしすべては美味しく食べるためです。ここは東京ガスの発表を信じ、根気強く焼いていきました。

 これを繰り返すこと5分30秒。ついにステーキが焼き上がりました。確かに東京ガスの発表の通り、肉の火の入り方にムラがなく、また焼いている最中に肉汁も出過ぎておらず、まだ肉に残っているようなテリテリの印象です。

レアっぽくもありますが、焼きムラがなく「肉のストレス」を感じない焼き上がり。それぞれの家庭の好みや状況(火力やフライパンの材質、肉質など)に合わせて焼き加減を調整してください

 実際に口にしてみると、確かにステーキの食感が優しく上品。肉の表面と中心部で火の入り方のグラデーションを感じるような、柔和な印象の味に仕上がりました。これは確かにうまい! 正直、「15秒ごとこまめに焼き返す」という説は斬新にも聞こえ、不安に思うところもあった筆者でしたが、ここまで綺麗に焼き上がるとは意外でした。この焼き方、絶対オススメです。

 最後に松葉佐さんは「一般のご家庭ですぐにお試しできる方法です。 よくステーキをご家庭で焼いている方、特に焼き加減に悩まれている方に、一度お試しいただければと思います」と結んでくださいました。ぜひ「15秒ごとこまめに焼き返す」やり方でステーキを焼いてみてください。本当に美味しく焼き上がりますよ!

(撮影・文◎松田義人)