会社四季報はスクリーニングをしてから読もう

会社四季報は、国内の株式市場に上場している全企業の業績や財務状況、株価の推移などを網羅した書籍です。東洋経済新報社が年に4回、3月・6月・9月・12月の中旬に刊行しています。1936年に創刊して以来、「投資家のバイブル」として、多くの投資家たちに愛用されてきました。最近では、パソコンやスマホなどでも読むことができます。

特に注目されているのが、会社四季報の企業担当者の「業績の独自予想」と「記事欄」です。これはあとで述べますが、この結果次第で株価が動くこともあるほどですから、私たちもぜひチェックするべきです。

とはいえ、プロの投資家ならばまだしも、普段忙しくて投資にかける時間が限られている人が、まるで辞書のような会社四季報を頭から読んでいくのでは、かなり非効率です。

そこで、最初におすすめしたいのが、四季報スクリーニングです。スクリーニングとは「選別」「ふるい分け」といった意味。つまり、先に四季報全体を見渡して、有望そうな銘柄だけを選び出してしまおう、というわけです。

四季報スクリーニングの3つのポイント

筆者が実践して、おすすめするスクリーニングのポイントは3つあります。

会社四季報スクリーニングのポイント1:「長期的な潮流」の業界か

まずは、長期的な潮流に関わっている業界かをチェックする、業界スクリーニングが1つのポイントです。業界スクリーニングは「長期的な潮流」が重要になってきます。長期的な潮流とは、世の中の流れが長期的に変わらず、元に戻ることがない、ということです。

例えば人口問題。日本の人口はすでに減り始めていますが、世界的に見ると、人口は増え続けています。しかも、今約78億人の人口が、2100年には109億人と、30億人以上増えると見られているのです。これは、私たちが多少どうこうしても変わらない予測です。

人口が増えると、例えば食料問題や資源の枯渇、生態系の変化などが発生するとみられます。こうした課題を解決するべく事業を展開している業界や会社は、今後も成長する見込みが高いというわけです。

また、日本だけでなく世界的に高齢化が進む社会においては「健康」「ヘルスケア」「美容」「医療」「介護」といった分野も、いつまでも求められるテーマです。

会社四季報を開く前に、どんな分野がいいかをあらかじめイメージしてみましょう。該当する会社があれば、そのページに付箋をたてておきます。

会社四季報スクリーニングのポイント2:「株価チャート」が右肩上がりか

会社四季報には、株価のチャートが掲載されています。これが右肩上がりになっているかをチェックします。株価が上がる要因は細かく見ればいろいろあるのですが、突き詰めれば「買いたい人が売りたい人より多いから」です。

特にしばらく下落していたのが終わり、横ばい・上昇と転じたチャートが狙い目です。買いたい人が増えているということは、業績が良いなど、何かしらの要因があるはずだからです。こちらも、右肩上がりのチャートの銘柄を見つけたら、そのページに付箋をたてておきます。

会社四季報スクリーニングのポイント3:「売上」と「営業利益」の両方が右肩上がりか

会社四季報には、各社の過去5年分の売上や営業利益が記載されています。売上は会社が商品やサービスを売って得たお金の合計、営業利益は売上を上げるためにかかった費用(売上原価と販管費)を引いた本業の儲けです。これが両方とも年々増えている銘柄を選びます。

売上・営業利益がともに増えているということは、本業でしっかりと稼げるようになっているということですから、株価上昇の期待ができます。売上と営業利益が堅調な銘柄を見つけたら、そのページに付箋をたてておきます。

会社四季報でスクリーニングした銘柄をチェックしよう

スクリーニングをした結果、手元には付箋がたくさん貼られた会社四季報ができたでしょう。そうしたら、付箋を貼った銘柄の記事を改めて確認していきます。

エムスリー(2413)の会社四季報ページ

東洋経済新報社「会社四季報」(2021年3集)より

会社四季報の各社紹介ページは1社1/2ページ。その中に、さまざまな情報が凝縮されています。そのすべてを解説すると長くなってしまうので、ここでは各部の概要と注目のポイントをまとめます。

(A)記事欄

四季報独自の取材をもとにして、業績の見通しや株価に関わる新商品、今後の経営課題などが記載されます。

注目は最初の【】内に記される見出し。ここにポジティブな言葉が記載されていれば、四季報の記者が期待していることがつかめます。【独自増額】とあれば、会社の予想が保守的だとして記者が予想を引き上げていることを示しています。また【最高益】【連続最高益】などとある場合も、好調に推移していることがわかります。

今後も右肩上がりで成長していく可能性が高いのではないかと考えられます。

(B)財務欄

会社の資産や現金(キャッシュフロー)に関わる情報が記載されています。注目は自己資本比率。会社にある資本(お金)のうち返さなくていい部分(自己資本)の割合を示す比率です。自己資本比率は、50%以上だと安全性が高いと判断されます。逆に30%未満だと安全性が低い(不安)です。

また、キャッシュフロー(CF)のうち営業CFがプラスになっていると、本業が好調なうえ、手元の資金もあるという状態を示します。営業CFがマイナスになっていると資金繰りがうまくいかず、黒字倒産の危険性があります。

(C)業績欄

業績欄には過去5期分の売上や利益の推移や、今後の予想が記載されています。特に注目すべきは今後の予想です。これは、四季報の記者が取材や各種データをもとに予想した業績です。年月のあとに「予」とあるものが四季報の予想、「会」とあるものが会社の予想です。

四季報の予想は、会社の予想が保守的だと考えた場合には、会社の予想を上回るものとなります。もし、四季報の予想が当たり、会社の予想を大幅に上回る業績を記録した場合は、上方修正が行われ、株価が一気に跳ね上がる可能性もあります。

大事なポイントは過去の業績だけでなく予想も踏まえて、売上高と営業利益が右肩上がりで推移している銘柄であるか、その伸び率はどれくらいなのかを見ることが大切です。

(D)業績予想の修正欄

今号の四季報の営業利益予想と前号の予想を比較して、どのくらい増減しているかを矢印で記載しています。

↑↑大幅増額:30%以上の増額 ↑増額:5%~30%未満の増額 →前号並み:5%未満の増額 ↓減額:5%~30%未満の減額 ↓↓大幅減額:30%以上の減額

また、欄外の「四季報独自予想欄」に「大幅強気」という笑顔のマークがついていたら、四季報営業利益予想と会社営業利益予想の乖離率が30%以上あることを示しています。いずれも、好決算や上方修正の銘柄を探すのに役立ちます。

上で紹介したエムスリーは記事欄に【高成長】と書かれていますし、自己資本比率は73.2%と50%をクリアしています。売上高・営業利益も年々増収増益ですし、四季報予想でもさらに増収増益が続きそうです。

さらに、業績予想の修正欄も増額と、プラスの記述が目立っています。この会社四季報が発売された2021年6月18日の終値は7,585円でしたが、翌週の6月25日には高値で8,012円、終値で7,862円と、直近は値上がりしています。まだ1週間なので、値上がりの判断をするのは早計ですが、今後も堅調推移していくことが期待できるでしょう。

まとめ

会社四季報の読み方を紹介してきました。頭から読もうとすると大変ですが、ポイントを踏まえてチェックしてみれば、思わぬお宝銘柄が自分で発掘できるかもしれません。

拙著『はじめての資産運用』(宝島社)では、今回ご紹介した「会社四季報の読み方」のほかにも、お金を減らさずに増やすための戦略、投資資産の特徴、つみたてNISAやiDeCoといった非課税制度、株式投資・投資信託の銘柄の選び方、ポートフォリオのつくり方、リスクコントロールに至るまで丁寧に解説しておりますので、お手にとってご覧いただければ幸いです。