提供が大きく遅れたNTTドコモの「エコノミーMVNO」、参入障壁の高さが原因か(佐野正弘)
2020年12月にオンライン専用の「ahamo」を発表して大きな話題を振りまいたNTTドコモ。そのahamoを発表した際、小容量・低価格の料金プランは外部のMVNOと連携して取り組むことを明らかにしていたのですが、その後ソフトバンクがLINEMOのミニプランを提供し、KDDIがpovoを2.0にアップデートするなどして小容量・低価格の領域を拡大する中にありながらも、同社の取り組みは音沙汰がない状況が続いていました。
ですが2021年10月7日、NTTドコモはようやくその小容量・低価格の領域に関する新たな取り組み「エコノミーMVNO」を明らかにし、NTTコミュニケーションズとフリービットが最初のエコノミーMVNOとなることが明らかにされました。詳しい内容は既報に譲りますが、大まかに振り返りますとそのポイントは大きく3つあります。
1つは他社のように、NTTドコモ自身が小容量・低価格のプランを投入するのではなく、そうしたプランを既に提供しているMVNOと連携してサービスを提供するということ。契約するのはNTTドコモではなくMVNOなので、顧客がNTTドコモの従来プランから移る場合は番号ポータビリティによる転出などの手続きが必要になります。
またMVNOのサービスとなるため、昼休み時の通信速度が大幅に落ちるという制約も受けるのはデメリットにも感じるのですが、NTTドコモの営業本部長である野田浩人氏は「小容量のユーザーは、MVNOの各社が提供するサービスで体感上大きな差分なく利用できると判断している」と話しています。NTTドコモはエコノミーMVNOをスマートフォンのヘビーユーザーではなく、あくまでライトユーザー向けのサービスとして位置付けているため、そのような判断に至ったのでしょう。
より大きなポイントとなるのが2つ目の「ドコモショップにおけるお客さまサポート」でしょう。大半のMVNOはコスト低減のため販売やサポートはオンラインが基本で、NTTドコモがターゲットに据える、スマートフォンに詳しくないライト層に使ってもらうのは非常に難しいのですが、エコノミーMVNOでは全国のドコモショップで、新規契約からスマートフォンの購入、APNの設定など初期設定のサポートなどが受けられるほか、スマートフォンの使い方を教える「スマホ教室」も無料で受講できるというのです。
自社サービスのahamoをはるかに超えたドコモショップでの充実サポートを、なぜ低価格のエコノミーMVNOで実現できるのか? といいますと、MVNOから販売やサポートに関する手数料を徴収しているためのようです。その具体的な金額は明らかにされませんでしたが、サポートにかかるコストの負担を程度MVNO側に求めていることを考えると、エコノミーMVNOとなるにはMVNO側にかなりの持ち出しが求められる様子も見えてきます。
そして3つ目のポイントは「dポイント」との連携で、利用料に応じてdポイントがもらえたり、dポイントで料金を支払えたりするとのこと。dポイントと連携することは以前より明らかにされていたので驚きはないのですが、驚いたのはdポイントの利用に必要な「dアカウント」を、エコノミーMVNOのマイページやサービス認証などの基盤として用いることです。
これはdアカウントがエコノミーMVNOの実質的な会員基盤となることを意味しており、MVNO側はdポイントなどdアカウントに紐づいたサービスとの連携がしやすくなるメリットがある一方、会員基盤をNTTドコモ側に握られることにもつながってくるといえそうです。
これらエコノミーMVNOの3つのポイントを見ますと、MVNO側としてはドコモショップでのサポートや、NTTドコモのサービス連携などで大きなメリットが得られる一方、サポートも考慮すれば規模の小さいMVNOには手数料負担が大きく、会員基盤をNTTドコモに押さえられ自社独自のサービスを打ち出しづらくなるなどのデメリットもあって、MVNOがこぞって参加したがる枠組みとは言い難い印象です。
またエコノミーMVNOの発表内容を見ますと「ドコモショップで取り扱うエコノミーMVNOは、ドコモのネットワークを利用したものに限ります」とのこと。他社回線を使っているMVNOでもエコノミーMVNOとなることは可能なようですが、ある意味最大のメリットでもあるドコモショップでの販売やサポートが受けられないだけに、実質的にNTTドコモの回線のみを使ったMVNOでなければ参加メリットが薄いといえます。
そうしたことを考えると、エコノミーMVNOとなるためのハードルは相当高く、参入するMVNOを今後増やせるのか? と疑問を抱いてしまうというのが正直なところです。エコノミーMVNOの発表がここまで大きく遅れたというのも、これだけ厳しい条件をのんでくれるMVNOが出てこなかったことが影響しているのではないでしょうか。
ですがNTTドコモ側も、エコノミーMVNOを大幅に増やすことはあまり考えていないようで、それは今回参入を表明したMVNOの1社がフリービットであったことからも見て取ることができます。実際フリービットは、子供やシニアに重点を置いたモバイル通信サービス「トーンモバイル」を展開する独自性の強いMVNOを傘下企業が運営しており、エコノミーMVNO参入第一弾として投入するサービスも、家族向け見守りサービス「TONEファミリー」を搭載したティーン向けSIMサービスになるとのことです。
一方で、エコノミーMVNOにはもう1社、NTTコミュニケーションズの「OCNモバイルONE」も参入を表明していますが、こちらは通信量500MBで月額550円という低価格コースを新設したことを除けば、従来提供しているのサービスと大きな違いはありません。しかも多くのMVNOはOCNモバイルONEに似た料金体系なのが実情で、同じような容量・料金のサービスをドコモショップ内で扱うと顧客だけでなく、ショップスタッフにも混乱を与えることになりかねません。
それだけに、グループ会社で子会社となる予定のNTTコミュニケーションズのサービスと被るMVNOはあまり求めておらず、トーンモバイルのような独自性の強いMVNOの参入を期待していると考えられる訳です。ただ先に挙げたハードルを考えると、NTTドコモが見込むようなMVNOの参入は相当難しいのでは……? というのが正直なところで、エコノミーMVNOがこのまま「OCNモバイルONE+α」となってしまいかねないのが気がかりです。
そしてもう1つ、エコノミーMVNOの開始によって、従来NTTドコモで小容量・低価格の領域をカバーしてきた段階制の「ギガライト」の扱いが今後どうなるのかも気になるところです。実際OCNモバイルONEは500MB〜10GBまでのコースが用意されており、1GB〜7GBまでをカバーするギガライトとは完全に重複してしまっていますし、それに加えてドコモショップでのサポートも提供されるとなれば、いよいよギガライトの存在意義が失われてしまいかねません。
野田氏は現時点でギガライトが主力プランの1つであることから、エコノミーMVNOの導入後にギガライトを見直すことは今の所考えておらず、「顧客ニーズによる」と答えるにとどまっています。今後のエコノミーMVNOの成果によるところも大きいでしょうが、状況次第ではギガライトへのメス入れなど、更なる低価格領域の見直しがなされる可能性もあるかもしれません。