楽天モバイルは2021年10月1日より、39の都道府県でKDDIとのローミングを停波し、自社回線に切り替えることを明らかにした。既にローミングを終了している地域では接続しづらくなるなどの問題も出ているが、より広範囲でのローミング終了で同様の問題は起きないのだろうか。楽天モバイルの担当者に話を聞いた。

○広域でのローミング終了で浮上するエリアの問題

携帯電話事業に新規参入し、2020年より本格サービスを開始している楽天モバイル。本格参入から約1年半ということもあって全国でのネットワーク整備ができておらず、そうしたエリアはサービス開始当初より、KDDIの回線にローミングすることで賄ってきた。

だがそのローミングにかかる費用が楽天モバイルの経営に大きな負担となっていたこともあって、楽天モバイルは4Gの自社回線エリアを5年と大幅に前倒しし、2021年夏に人口カバー率96%を達成することを発表。その後半導体不足の影響を受けて達成予定時期を2021年内と後ろ倒しにしたものの、既に93%程度の人口カバー率を達成しているという。

楽天回線のエリアは2021年8月末時点で人口カバー率92.6%に達しているという


そこで楽天モバイルは2020年10月以降、エリア整備がある程度進んだ一部の都道府県でKDDIとのローミングを終了させていたのだが、2021年10月4日には新たな発表を実施。2021年10月1日より39の都道府県で順次KDDIとのローミングを終了させ、楽天モバイル回線のみでのサービス提供に切り替えていく方針を打ち出しているのだ。

楽天モバイルは2021年10月1日以降、39都道府県で順次KDDIとのローミングを終了し、楽天モバイル回線のみでのサービス提供に切り替えていくという


さらに都市部においても、地下鉄や大規模商業施設などはKDDIのローミングでカバーしていたのだが、そちらも2021年10月1日以降、順次ローミングを終了していくとのこと。東京メトロの場合、約9割のエリアを楽天モバイルの回線に切り替えるとしている。

都市部でもローミングを用いていた地下鉄なども、楽天モバイルの回線に順次切り替えていく方針で、東京メトロの場合約9割を楽天モバイル回線に切り替えるとしている


楽天モバイルの代表取締役副社長である矢澤俊介氏によると、KDDIとのローミングが終了することで、楽天モバイル回線とKDDIの回線が重なり合っていたエリアで、KDDIのネットワークをつかんでしまうという問題が解消されるメリットがあるとのこと。楽天モバイルの料金プラン「Rakute UN-LIMIT VI」は、楽天モバイルの回線に接続していれば月額最大3,278円で使い放題となるが、KDDIの回線に接続していると使い放題にはならず、高速通信ができるのは5GBまでという制限がかってしまう。

楽天モバイルの矢澤氏


それゆえ多くのエリアでローミングが終了し、楽天モバイル回線のみに接続することで、ローミングの制約を気にせずデータ通信がし放題になることは確かにメリットだ。だが人口カバー率99%を超えるKDDIのローミングが使えなくなることで、接続できなくなってしまうエリアが出てきてしまう可能性がある点も気になる。

実際、先行してローミングが終了した東京都の23区以外などのエリアでは、その影響で郊外や建物内を中心に通信ができなくなったとの声が相次いだ。その影響から「お店のレジでスマートフォン決済を利用しようとしたら、通信ができなくて決済できなかった」などの問題も起き、楽天モバイルの評価を下げる要因にもなっていた。

○エリアの密度を重視、以前より慎重な対応に

それだけに、より広域でのローミング終了で「接続できない」という問題が多発してしまうことが懸念されるのだが、矢澤氏は「独自の基準により、一定のしきい値を超えたエリアだけをローミング終了する」と説明する。単にそのエリアをカバーしているというだけでなく、複数のアンテナを設置してある程度密度を保ったエリアだけを選んでローミングを終了させていく方針のようだ。

また、これまでローミングを終了させたエリアで不満が多く出たことを受け、今回はよりシミュレーションの精度を高め、圏外になるエリアが「ゼロに近くなるよう努力した」と矢澤氏は説明、従来以上に慎重な姿勢を取るとしている。実際、楽天モバイル回線の人口カバー率は9割を超えているものの、密度の面で基準に達していない8県は当面ローミングを継続するとしている。

さらにローミングの終了でつながりにくくなったエリアの人達に対しては、問い合わせの上状況を確認し、一時的に楽天モバイルがMVNOとして提供しているサービスのSIMを貸出すなどの対応を取るとしている。ローミング終了によるエリアの問題が出やすいと考えられる、楽天モバイル回線のエリアの端に住んでいるユーザーには、あらかじめ電話をかけて対応を進めているとのことだ。

加えて飲食店や美容院などの店舗に向けた対策としては、屋内用の小型基地局「Rakuten Casa」の設置を進めているほか、スーパーマーケットなどより大きな施設には自社開発の屋内向けアンテナの設置なども実施しているとのこと。矢澤氏によると2021年7月から300人のRakuten Casa専門チームを作り、1日300〜500件のお店で設置の許諾を得ているとのことで、急ピッチで建物内の対策を進めている様子がうかがえる。

ローミング終了で楽天回線が利用できない顧客に対しては、MVNOのSIMの貸出や屋内向け基地局の設置など、状況に応じた対応を取っていくとしている


一連の矢澤氏の対応からは、今回のローミングの終了に当たっては以前の反省を活かし、顧客への影響を可能な限り減らそうとしている様子を見て取ることができる。だがローミング終了によって顧客にどの程度影響が出るかは、実際にローミングが終了してからでないと分からない部分も多い。接続できないエリアがゼロにはならないと考えられるだけに、信頼獲得のためには、そうしたエリアの顧客に対し、いかにスピーディーな対応を取ることができるかが必要になってくるだろう。

なお矢澤氏によると、次にKDDIとの契約を更新するタイミングは2022年3月になるとのこと。その頃には人口カバー率96%を達成していると見られることから、他の8県のローミング終了もその時期に打ち出されるのではないかと考えられる。ただそれでもなお、楽天モバイルはエリアに関して多くの課題が残るというのも正直な所だ。

中でも大きな問題はそもそも割り当てられている周波数帯が少ないことで、とりわけ、いわゆる「プラチナバンド」の割り当てがないことは、ネットワークの接続性を高めるためにも大きな課題となってくるだろう。既に楽天モバイルはプラチナバンドの再割り当てを見越して取得の意思を表明してはいるが、総務省が具体的な再割り当てのスケジュールを出している訳ではなく、獲得できるにしてもまだ時間がかかるだけに、当面は同社に割り当てられている1.7GHz帯を主体にしたエリア展開が求められる。

矢澤氏によると、郊外や山間部などへのさらなるエリアの拡大については、1.7GHz帯を使って人口カバー率を高めながらも、2023年以降の実現を予定している、衛星を基地局として活用し、直接地上をカバーする「スペースモバイル計画」によって低コストでの広域カバーを進めていくとのこと。一方で都市部のトラフィック対策については「1.7GHz帯にまだ十分な容量がある」(矢澤氏)とのことで、当面はそちらの活用が主体となるようだが、今後は端末の普及度合いを見据えながら、5Gの活用も検討していくようだ。

矢澤氏はプラチナバンドなどの割り当てがないことで、「他社と比べ浸透率やカバー率に関してデメリットが出ると思っているが、それを言っても仕方がない。1.7GHz帯で出来る限り愚直にやるしかない」と話す。同社の戦略上、再割り当てによるプラチナバンドの獲得は非常に重要だろうが、それまでは現在のリソースを最大限活用し、どこまでエリア整備に対する本気度合いを見せられるかが、消費者から信頼を勝ち取る上でも必要になってくるといえそうだ。