自動二輪車の出荷台数で最も落ち込みが激しいのは、実は最も手軽なはずの50cc以下「原付一種」です。原付一種は年々、ラインアップも減っています。今後、「原チャリ」はどうなっていくのでしょうか?

原チャリの出荷台数は40年で「10分の1以下」に

 2021年現在、コロナ禍の影響で「バイクを移動手段に」という理由からバイクの売り上げが伸びています。しかし、その恩恵に預かっていない車種が、50cc以下の原付一種、いわゆる「原チャリ」です。

 コロナ以前、バイクは売れないといわれてきましたが、日本自動車工業会によると、51cc以上のバイクの売り上げは、実はここ10年間で横ばいです。しかし原チャリは、2010(平成22)の23万1247台から、2019年には13万2086台まで減少しています。およそ40年前、1980(昭和55)年の197万8426万台と比較すると、その数は10分の1以下にまでなっているのです。


「原チャリ」は駐輪場に停められるケースも多い。写真はイメージ(画像:写真AC)。

 原チャリといえば、普通免許でも乗れて燃費も抜群、デリバリーなどの仕事用としても多く活躍しているなど、日常生活と密接に結びついている存在です。しかし、大手バイクメーカーはラインアップをどんどん縮小させており、今後も売り上げが減っていけば、近い将来、原チャリがなくなってしまうこともあり得るでしょう。

 2021年現在、大手バイクメーカーの原チャリのラインアップはどうなっているのでしょうか。ラインアップの縮小により、昔では考えられないようなことも起こっています。

ヤマハの人気モデルに「HONDA」の刻印?

 以下、メーカーの出荷台数順にバイク大手の原チャリのラインアップを注目車種とともに見ていきます(電動モデル含む、競技用モデル除く)。

●第1位:ホンダ

 ホンダの原チャリは「スーパーカブ」シリーズのほか、スクーターには「ジョルノ」「タクト」、ビジネス向けの「ベンリィ」シリーズ、3輪の「ジャイロ」シリーズがあり、計13車種をラインアップ。これは4大メーカーの中で最も多い数です。

 なかでも、ひときわ個性的なフォルムなのが「ジョルノ」です。誕生したのは1992(平成4)年のこと。「丸くてかわいい」というテーマのもと、若い人をターゲットに開発されました。

 発売当時の2ストロークから現在は4ストロークに変更されるなどスペックは変わりましたが、独特な可愛らしい丸みを帯びたボディは健在。さらに最近ではスマートフォンを充電できるホルダーが標準装備されているなどしています。

●第2位:ヤマハ発動機

 ヤマハの原チャリは、「ビーノ」「ジョグ」「ギア」、そして電動モデル「E-ビーノ」の計4車種です。


ヤマハ「E-ビーノ」(画像:ヤマハ発動機)。

 ヤマハの原チャリの中で最も有名なものといえば「ジョグ」シリーズではないでしょうか。1983(昭和58)年から38年間、日本メーカーの中で最も長く販売されている原付スクーターです。ただ、「ジョグ」シリーズは2018年発売のものから、ホンダと共同で製造されており、「ジョグ」のエンジンには実は「HONDA」のロゴが刻印されています。

 これは、ホンダとの「原付一種における協業」の一環。かつて「HY戦争」と呼ばれるほど、ライバルとしてしのぎを削った両社が、原チャリの縮小を受け、手と手を取り合ったのです。ちなみに「ビーノ」は近年、アニメ『ゆるキャン』の主人公が乗ることで話題になりましたが、これも現在はホンダ「ジョルノ」がベースになっています。

スズキとカワサキは? 原チャリの今後

 スズキとカワサキはどうでしょうか。

●第3位:スズキ

 スズキの原チャリは、「アドレスV50」と「レッツ」に加え、前かご付きの「レッツバスケット」の3車種がラインナップされています。

 スズキを代表する原チャリは、1987(昭和62)年に登場した「アドレスV50」でしょう。同社のスクーターとしては初めてシート下に収納できるスペースを設けたモデルです。ほかにも、スズキの原チャリにはシート下部に「かばんホルダー」や、グローブなどの小物が入る「フロントインナーラック」が伝統的に取り付けられているなど、他社と比べて収納が特に楽なモデルが多いことも特徴です。

●第4位、というか…:カワサキ

 最後はカワサキですが、同社のラインアップは最も低排気量のものでも125cc以下の原付二種。実はカワサキでは原チャリを作っていないのです。

 もちろん、カワサキがこれまで一度も50ccのバイクを作っていないというわけではありません。たとえば1982(昭和57)年に発売された、ホンダ「モンキー」シリーズにもよく似たアメリカンタイプの「AV50」は、カワサキ初の4サイクル50ccエンジンを搭載し、キャストホイールを使うなど、細部までこだわりが詰まった一台でした。


カワサキAV50(画像:川崎重工業)。

 しかし、1980年代のカワサキといえば「Z1」シリーズなど大排気量車が人気だったこともあってか、「あのカワサキが50cc」と受け入れ難いユーザーも多く、結果、カワサキの原付は1990年代に終わりを迎えています。

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 原チャリが縮小している背景には、原付一種が車両規格としても日本独自であり、むしろ世界的に見て特殊な存在になっていることが挙げられます。さらに排ガス規制などへの対応もあり、大手メーカーは原付一種を縮小し、世界的にもスタンダードである125cc規格の原付二種へ注力するようになっているのです。

 とはいえ原付一種としては、新興メーカーによる電動バイクや電動キックボードなどが次々に登場しています。しかしそれは、公道走行を可能にするため原付一種の規格に当てはめざるを得ない、というのが実情です。そうしたなかで、既存のスクーターなどのいわゆる原チャリは、電動モデルの拡充などで再び盛り返すことができるのでしょうか。