内弁慶のうーちゃんの短冊に、52歳の父の心がキューッ<古泉智浩の養子縁組やってみた>
52歳の漫画家・古泉智浩さん。古泉さん夫婦と母(おばあちゃん)、里子から養子縁組した6歳の長男・うーちゃん、里子の3歳の長女・ぽんこちゃんという家族5人で暮らしています。
今回は、ぽんこちゃんにいばるけれど小学校では…といううーちゃんのお話です。
4月から小学校に通い始めた養子のうーちゃんが、家ではとんでもなくいばり散らしています。しかもちょっとしたことで大いに自慢したり、スネ夫のようないかにも小物といった感じのいばり方で、このような態度で小学校生活を送っていたら嫌われ者になってしまうと心配をしていました。
3歳の里子のぽんこちゃんにもいばり散らしています。
「ぽんこ、1たす1は?」
当然、ぽんこちゃんはぽかんとします。まだたし算など分からないし、10までやっと数えられるかどうかという幼児にどうかという問題です。
しかし、ぽんこちゃんはどんな質問にも、なんとなくその場の思いつきで言葉を並べて受け答えをするというすごい特技を持っています。
「えっとお、ぽんこちゃんはごはんと、アイスとラムネとおもちをぜんぶたべるんだ」
ニコニコしながら言いますがまったく問いかけには答えていません。
「そんなこと聞・い・て・ません、ぽんこはバカなの?」
うーちゃんはとっても意地悪そうな顔をしてポイントとなるところは間を置いて言います。幼児に算数の問題を出して答えられないことに勝ち誇るうーちゃん、意地悪です。
それに対して意味が分からないながらも返答をするぽんこちゃんの方が立派なの。しかし、そうしてバカ呼ばわりされると、さすがにぽんこちゃんも腹を立てて怒ってうーちゃんを叩いたり、泣いたりします。
「にいにいがバカっていった〜」
そうしてポロポロと涙をこぼす涙腺の緩さや感情のデリケートなところが子どもらしく初々しくて、見ているこっちは感動するのですが、実際問題、うーちゃんがいばっていたり意地悪したりしていることはどうやって導けばいいのかさっぱり分かりません。
一応「お兄ちゃん、意地悪言っちゃダメだよ。仲よくしなさい」くらいは言いますが、まるで効果はありません。
そんな折、小学校の懇談会があり、担任の若い男の先生に学校の様子を伺いました。
こちらとしては、自分が養子であることなどペラペラ話しているのではないか、変な自慢話をしていばり散らして嫌われていないかと心配で質問をすると、先生は「え?」という顔をしました。
意外にもうーちゃんはクラスではほぼ心を開くことがなく、一人のお友達の男の子とだけひそひそ話して、二人だけでクスクス笑っていると言うのです。隣の席の女の子と共同で作業をするときに、話しかけられてもなにも返事をしないこともあるなど、非常に硬くなっているそうでした。
学校ではいばるどころか石と化していたのです。学校でためこんだストレスを家で妹に意地悪するなどして発散しているのでしょうか。
しかし、放課後は裏のお宮様でよく、クラスのPちゃんという女の子と、Pちゃんの3年生のお兄さんと走り回って遊んでいます。先生の前では態度を使い分けているのでしょうか。とにかく学校生活はうーちゃんにとってあまり楽しくはなさそうです。
そんなうーちゃんの七夕飾りの短冊は「たべるのをはやくなりたい」という切実な願いだったため、心がきゅーっとなりました。
一方、ぽんこちゃんもぽんこちゃんで3歳なのに自分がお兄ちゃんとタメであるくらいの気持ちでいるようでもあります。うーちゃんの小物ぶりを本能的に察しているのかもしれません。しかし、ぽんこちゃんはお兄ちゃんを含めて家族が大好きなのです。
「パパとにいにいとおばあちゃんとママとおんせんいこうね」
機嫌のいいときはこんな風に言ってくれます。
最近は、洋服の選り好みがひどくて、気に入らない服はまったく着てくれず、本人に選ばせると週に何度も同じ服を着たり、柄物に柄物を合わせるなどおかしなことになります。
ママが新しく買ってくれたヒマワリの花畑の柄の短パンを履いてほしいのですが全然履いてくれません。何度言っても全然履きません。スカートが大好きなのですが、パンツ丸出しどころかおへそまで出して寝転がっていることがあります。子どもだからいいと言えばいいのですが、見たくない人もいます。
先日大好きな服が乾いていなかったためママがヒマワリ柄の短パンを出してみました。
「これ履く?」
「うん」
珍しく同意した! と思ってドキドキしました。ぽんこちゃんが足を短パンに入れようとしたとき、
「やっぱりやめる」
と言いました。
「!」
僕とママは変に刺激すると余計に意地になるので、黙って様子を伺います。
「やっぱりはく」
そうして自分で短パンを履くのをジリジリとした気持ちで見守りました。履き終わるとほっと胸をなでおろしました。一体なぜこんな短パンを履く履かないでドキドキしなければならないのかと思いました。
漫画家。1969年、新潟県生まれ。93年にヤングマガジンちばてつや賞大賞を受賞してデビュー。里子を受け入れて生活する日々をつづったエッセイ『うちの子になりなよ ある漫画家の里親入門
』、その里子と特別養子縁組制度をめぐるエピソードをまとめたコミックエッセイ『うちの子になりなよ 里子を特別養子縁組しました
』など著書多数。古泉さんの最新情報はツイッター(@koizumi69
)をチェック!
今回は、ぽんこちゃんにいばるけれど小学校では…といううーちゃんのお話です。
妹にいばるうーちゃんと、服の好き嫌いが激しいぽんこちゃんの最近の話
4月から小学校に通い始めた養子のうーちゃんが、家ではとんでもなくいばり散らしています。しかもちょっとしたことで大いに自慢したり、スネ夫のようないかにも小物といった感じのいばり方で、このような態度で小学校生活を送っていたら嫌われ者になってしまうと心配をしていました。
「ぽんこ、1たす1は?」
当然、ぽんこちゃんはぽかんとします。まだたし算など分からないし、10までやっと数えられるかどうかという幼児にどうかという問題です。
しかし、ぽんこちゃんはどんな質問にも、なんとなくその場の思いつきで言葉を並べて受け答えをするというすごい特技を持っています。
「えっとお、ぽんこちゃんはごはんと、アイスとラムネとおもちをぜんぶたべるんだ」
ニコニコしながら言いますがまったく問いかけには答えていません。
「そんなこと聞・い・て・ません、ぽんこはバカなの?」
うーちゃんはとっても意地悪そうな顔をしてポイントとなるところは間を置いて言います。幼児に算数の問題を出して答えられないことに勝ち誇るうーちゃん、意地悪です。
それに対して意味が分からないながらも返答をするぽんこちゃんの方が立派なの。しかし、そうしてバカ呼ばわりされると、さすがにぽんこちゃんも腹を立てて怒ってうーちゃんを叩いたり、泣いたりします。
「にいにいがバカっていった〜」
そうしてポロポロと涙をこぼす涙腺の緩さや感情のデリケートなところが子どもらしく初々しくて、見ているこっちは感動するのですが、実際問題、うーちゃんがいばっていたり意地悪したりしていることはどうやって導けばいいのかさっぱり分かりません。
一応「お兄ちゃん、意地悪言っちゃダメだよ。仲よくしなさい」くらいは言いますが、まるで効果はありません。
●意外!小学校では“石化”していたうーちゃん。七夕の短冊には…
そんな折、小学校の懇談会があり、担任の若い男の先生に学校の様子を伺いました。
こちらとしては、自分が養子であることなどペラペラ話しているのではないか、変な自慢話をしていばり散らして嫌われていないかと心配で質問をすると、先生は「え?」という顔をしました。
意外にもうーちゃんはクラスではほぼ心を開くことがなく、一人のお友達の男の子とだけひそひそ話して、二人だけでクスクス笑っていると言うのです。隣の席の女の子と共同で作業をするときに、話しかけられてもなにも返事をしないこともあるなど、非常に硬くなっているそうでした。
学校ではいばるどころか石と化していたのです。学校でためこんだストレスを家で妹に意地悪するなどして発散しているのでしょうか。
しかし、放課後は裏のお宮様でよく、クラスのPちゃんという女の子と、Pちゃんの3年生のお兄さんと走り回って遊んでいます。先生の前では態度を使い分けているのでしょうか。とにかく学校生活はうーちゃんにとってあまり楽しくはなさそうです。
そんなうーちゃんの七夕飾りの短冊は「たべるのをはやくなりたい」という切実な願いだったため、心がきゅーっとなりました。
●服の好き嫌いが激しいぽんこちゃん。短パンを渡してみると?
一方、ぽんこちゃんもぽんこちゃんで3歳なのに自分がお兄ちゃんとタメであるくらいの気持ちでいるようでもあります。うーちゃんの小物ぶりを本能的に察しているのかもしれません。しかし、ぽんこちゃんはお兄ちゃんを含めて家族が大好きなのです。
「パパとにいにいとおばあちゃんとママとおんせんいこうね」
機嫌のいいときはこんな風に言ってくれます。
最近は、洋服の選り好みがひどくて、気に入らない服はまったく着てくれず、本人に選ばせると週に何度も同じ服を着たり、柄物に柄物を合わせるなどおかしなことになります。
ママが新しく買ってくれたヒマワリの花畑の柄の短パンを履いてほしいのですが全然履いてくれません。何度言っても全然履きません。スカートが大好きなのですが、パンツ丸出しどころかおへそまで出して寝転がっていることがあります。子どもだからいいと言えばいいのですが、見たくない人もいます。
先日大好きな服が乾いていなかったためママがヒマワリ柄の短パンを出してみました。
「これ履く?」
「うん」
珍しく同意した! と思ってドキドキしました。ぽんこちゃんが足を短パンに入れようとしたとき、
「やっぱりやめる」
と言いました。
「!」
僕とママは変に刺激すると余計に意地になるので、黙って様子を伺います。
「やっぱりはく」
そうして自分で短パンを履くのをジリジリとした気持ちで見守りました。履き終わるとほっと胸をなでおろしました。一体なぜこんな短パンを履く履かないでドキドキしなければならないのかと思いました。
【古泉智浩さん】
漫画家。1969年、新潟県生まれ。93年にヤングマガジンちばてつや賞大賞を受賞してデビュー。里子を受け入れて生活する日々をつづったエッセイ『うちの子になりなよ ある漫画家の里親入門
』、その里子と特別養子縁組制度をめぐるエピソードをまとめたコミックエッセイ『うちの子になりなよ 里子を特別養子縁組しました
』など著書多数。古泉さんの最新情報はツイッター(@koizumi69
)をチェック!