夏目真悟(左)と峯田和伸(右)

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7月15日よりTOKYO MXほかにて放送が開始される新作オリジナルアニメ『Sonny Boy』。
突如異次元を漂流しはじめた中学校と、そこに取り残され、超能力に目覚めた36人の中学生のサバイバルを描く、SF青春群像劇だ。
『ワンパンマン』で知られる夏目真悟が監督・脚本、キャラクター原案を漫画家・イラストレーターの江口寿史が手掛けていることでも話題となっている。
そして、夏目監督の願いに応えて本作の主題歌『少年少女』を書き下ろしたのは、銀杏BOYZの峯田和伸だ。
思春期の少年少女の謎めいたストーリーを彩る、銀杏BOYZのサウンド。
この理想的な出会いはどのように生まれたのか? そして、峯田の意外な(?)アニメ愛とは?
放送開始を記念して夏目真悟監督と峯田和伸の対談をお届けしよう。


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夏目真悟
なつめ・しんご/アニメーター、アニメーション監督。『スペース☆ダンディ』、『ワンパンマン』、『ACCA13区監察課』、『ブギーポップは笑わない』などを監督。

峯田和伸(銀杏BOYZ)
みねた・かずのぶ/2003年に銀杏BOYZを結成し、ボーカル/ギターを担当。2014年以降はソロで銀杏BOYZを名乗る。俳優としても数多くの映画、テレビドラマなどに出演。

好きなものを詰め込んだオリジナル作品

ーー公式HPのコメントで夏目監督は本作に「好きなものを詰め込んだ」と述べていますが、どんなものが詰め込まれているのでしょうか?

夏目 『十五少年漂流記』などの冒険小説や、楳図かずおさんの『漂流教室』のようなSFが、物心ついた頃からずっと好きで、オリジナルを作るならそのジャンルしかないだろう、と。
なおかつ、主人公たちは中学生、多感な時期の子供たちを描きたいと思いました。好きだった漫画やアニメでもやはり、その世代の子供たちが描かれていたので。
それから、キャラクター原案の江口寿史さんもずっと好きでしたし、アニメーションのキャラクターデザインの久貝(典史)くんも、ずっと好きで一緒に仕事をしてきた人です。
他の作画スタッフさんも、自分が「この人と一緒に好きなことやりたい」と思う人を集めていますし、音響監督のはた(しょう二)さんや、背景を手描きのスタジオパブロさんにお願いしたのも、基本的には自分が好きだからです。かなりわがままを聞いていただきました。

--そして、主題歌を峯田さんにお願いするのも、夏目監督の切望だったとか。

夏目 企画をまっさらな状態から、最初はやはり右も左もわからなく作っていくのですが、自分の好きなことなら得意だし、熱を持ってできるということで、オリジナルなら自分の好きなことを突き詰めていく企画にしたいなと考えて。
じゃあ音楽はどうするのとなったときに、やっぱり自分がいちばん聴いてきて、いちばん好きな銀杏BOYZ、峯田さんに曲をお願いするのが必然という感じでお願いしました。

--銀杏BOYZのファンでいらっしゃったわけですね。

夏目 いえ、たくさんファンがいらっしゃるので、ちょっとその、申し訳ないですが……はい、ファンです(笑)。9割くらいは断られると思っていたのですが、引き受けていただけると聞いて、なおかつかなり前向きに取り組んでいただけて、すごく嬉しかったですね。

ーー峯田さんは、主題歌の依頼を受けてどんなお気持ちでしたか。

峯田 最高ですね、嬉しかったです。アニメの主題歌ははじめてですが、いつかそういうお話が来たらやりたいなっていう気持ちはありましたし、台本とかも読ませていただいて、すごく面白かったんで。
こういう作品で主題歌を作るというのは、音楽をやっていてなかなか体験できることではないから、本当に興奮しました。

ーー台本を読んで惹かれるところが?

峯田 ありました。プロットって言うんですか? 最初の企画を読ませてもらったら中学生たちの話で、学校が舞台で、SF的なことが起こって……読んでいて「不思議だ」「何だコレは?」と感じられたのがよかったんです。敵が現れるでもなく、わかりやすい恋とかになるわけでもなく、あの時期特有の少年少女たちに起こる、特殊な空間でのお話。
もともとSFの映画や小説が好きですし、僕の好きな要素がちりばめられていたので、曲のイメージもしやすかったです。

ーー曲に関して「こんな曲がほしい」といった注文は?

峯田 特になかったですね。90秒の曲にするというフォーマットと、「今の銀杏BOYZでお願いします」という要望がひとつあっただけで。なので、自分が台本だったり、絵コンテだったりを見て、膨らませて、「これかな」と自由に作らせてもらいました。
90秒にしなきゃいけないということで「この展開はいらないか」とか、そういう作業はありましたけど、そっちのほうがスッキリして、今回の作品に合ったいい曲ができました。

ーー夏目監督が「今の銀杏BOYZの音で」とお願いを?

夏目 そうですね、峯田さんご自身が今のこの時代において、資料を読んで感じ取ったものをそのまま出していただけたら、それがこの作品のテーマ曲なのだろうなと思っていたので。

(C)Sonny Boy committee

1枚の絵から曲が生まれた

ーー実際に主題歌『少年少女』を聴いての印象は?

夏目 そうそう、これだ! と思いました。まったくまっさらな状態で聴いて、何の違和感も感じないというか。峯田さんにしっかりストリーやキャラクターに寄り添っている楽曲を作っていただけて、ピタっとハマった感じがしました。
曲から作品を肯定してもらったような感覚もあって、そういう意味でも元気になりました。

ーー峯田さんは、作品の資料を読まれた中で、どういう要素に注目して曲のイメージに反映したのでしょうか。

峯田 絵コンテの中に「これだ」とピンときた1枚の絵があって、それをもとにイメージを固めていきました。
第1話に出てくるシーンですが、学校の屋上で男の子と女の子が出会う。真夏の青空で、蝉が鳴いていて、でも、遠くから雨雲がやってきて、蝉の声がだんだん小さくなっていって、そして、屋上に二人だけがいる。その絵をもとにして曲を作りました。

ーーその絵に、何か特別なものを感じた?

峯田 そうですね……僕は43歳ですけど、43年間の記憶の中で学校の屋上でそういう状況になったことはないんです(笑)。

夏目 (笑)

峯田 ないんですけど、でも、どこかでありそうなんです。

夏目 ああ……なるほど。

峯田 自分は体験してないって思い込んでいるけれど、どこかの世界のどこかの自分がそれを体験している気がして、グッときたのかなと思う。そういうシーンがいちばん手掛かりになるというか、その1枚の絵でメロディがわーっと浮かぶんですよ。

夏目 何か、嬉しいです。確かに言われてみれば、自分もそういう場面を経験したことはないけれど、いつかどこかでそういうことが……「あるといいな」という願望ともまた違う気がしますね。
中学生の時に自分が経験してきたいろいろなことの点描的なイメージ、空間、独特な時間の流れ。
そういうものを再現したくてやっているのかなと、今になって思います。
だから、そういう風に峯田さんが感じ取っていただけたら嬉しいですし、あらためて「ああ、あれはそういうシーンなんだ」と気付かされます。

峯田 でも実際には僕、学校の屋上にすらあがったことないですからね(笑)。

夏目 ですよね。普通、カギがかかっていたりしますから(笑)。

峯田 なのに、見覚えがあるっていうのが不思議ですよね。

夏目 今回はとある中学校をロケハンさせてもらって、それをもとに舞台を作っています。そこの中学校は築50〜60年で、何度か新しく改築もされていて。そのへんが多分、今40歳の自分たちの世代が思い浮かべる中学校と重なっているのかなと思って、そういう意味でもイメージの断片がつながるのかなと。

ーー峯田さんが43歳で夏目監督が40歳ですから、その意味でも世代的なイメージが重なっている部分もあるのでしょう。

夏目 峯田さんは確か野球部ですよね?

峯田 はい、野球部でした。

夏目 自分も野球をやっていて、そういう部分も一緒だったりして。あとは、峯田さんが山形のご出身で、自分は青森。東北つながりというのもあるのかもしれないですね。
でも、峯田さんは雲の上の人ですから。共感というのもおこがましい気も……(笑)。

峯田 ええっ!? そんなことないですよ(笑)。

夏目 だって、ずっと音楽を聴いて見ていましたから。こうして、普通にお話できているのが不思議なくらいで。

峯田 いやいや。

夏目 峯田さんのライブ、僕は1回しか行ったことがないんですが、そこではじめて生の峯田さんを見たときは……キリスト教ってこうやって生まれたんだなと。

峯田 そんな(笑)、何をおっしゃる、取材も終盤で。

夏目 カリスマ性というか。峯田さんのライブを見ている観客の顔って、すごいんですよ。当然ですが、峯田さんしか見ていない人たちが何百人、何千人という空間で、神々しいというか。
特にそのライブでは、上半身裸で、髪の毛を伸ばして、ひげもじゃで、まさにキリストみたいな感じだったんです。
それを思うと本当にこうしてご一緒させていただけているのが、すごく感慨深いです。当時の自分に言ってあげたいです。

ーー峯田さん、ご自身のライブをそんな風に評価されていかがですか。

峯田 僕もう、昔のことは覚えてないので……わかんないです(笑)。


(C)Sonny Boy committee

念願だったアニメージュデビュー!

ーー峯田さんは、もともとアニメはお好きだったんですか。

峯田 好きですね。特にアニメの主題歌が好きです。アニメとその主題歌の世界感が寄り添っている作品って、すごくいいなと思いますね。
それに僕、アニメージュに就職するのが夢でしたから。

夏目 そうなんですか(笑)?

峯田 はじめてのアニメージュの取材で、念願が叶いました。
僕、小学校の時に外で遊ぶ子ではなくて、家でアニメを観るのが好きで。だからお母さんがよく本屋さんに連れてってくれて、アニメージュをいつも買ってたんです。当時、連載で『(風の谷の)ナウシカ』をやってて、それと『ゲゲゲの鬼太郎』とかいろいろな特集も組んでくれて、アニメージュがすっごく好きだったんです。本当に「将来はアニメージュで働く!」って思ってました。
僕、バンドやろうと思ったのは19歳くらいで遅くて、子供の頃の夢は本当にアニメの世界で、アニメージュで自分の好きな作品を表紙にすることだったんです。
いちばんアニメを観ていた時期は小学生で、やっぱりアニメと主題歌がくっついて印象に残っていて。『うる星やつら』にしても『ストップ!!ひばりくん!』にしても、主題歌が全部を物語っている。
細野(晴臣)さんが作った『ナウシカ』のイメージソングもそうですけど、メロディがすべてアニメに寄り添っている。
だから今回も、なるべくアニメに寄り添えるような音楽にしたいなと思ったんです。自分が書きたい曲を書いて、それがアニメと一体化しているのがいちばんですけど、とにかく「アニメは関係ないや、曲だけ勝手に」ではなく、自分の曲が夏目さんのアニメの感じとぴったりになってればいいなというのはありましたね。

ーーせっかくなので、峯田さんが特に好きなアニメを教えてください。

峯田 特に好きなアニメかぁ……『幻魔大戦』。

夏目 おお(笑)。

峯田 『幻魔大戦』とか『うる星やつら2 ビューティフル・ドリーマー』とか。あの時代の、子供が観たらちょっと怖いと思いそうな、ちょっとおどろおどろしい部分が入っているものとか、好きでしたね。『鬼太郎』とか『ドテラマン』とか。
あと『らんま1/2』とかのラブコメも好きです。『らんま1/2』の主題歌が最高だったんですよ! 西尾えつ子さん、最高なんですよ。

夏目 そうなんですね……聴き直してみます(笑)。

ーー『幻魔大戦』があがったのは、ちょっと驚きでした(笑)。

夏目 最初にあがったのが『幻魔大戦』(笑)。

峯田 人生でいちばん観ているアニメ映画かもしれないです、『幻魔大戦』が。

夏目 『幻魔大戦』はマッドハウスですからね。今回の『Sonny Boy』と同じ制作会社です。

峯田 声優さんも、白石加代子さんや美輪明宏さんがおどろおどろしい声で、あれ、子供心に「うわー、怖ぇ! でも最高!!」みたいな。

夏目 変わった子供ですね(笑)。

峯田 怖かったなぁ、新宿のシーン。
好きな作品はもっとありますよ、もっと語りたいですよ! TVシリーズの『(新世紀)エヴァンゲリオン』も最高だし、最近だと『輪るピングドラム』も最高だし。『ピングドラム』も本当に、やくしまるえつこさんの主題歌がすごくよくて。作品と曲の表情がすごく合っていて、やっぱ、ああいうのはいいですよね! 音楽とドラマがちゃんと結びついてる。

夏目 峯田さん中心にアニメ特集、できそうですね(笑)。

峯田 バイトでアニメージュの編集部に入りたいくらいです、本当に(笑)。

ーーありがとうございました(笑)。では最後に、お二人それぞれ『Sonny Boy』のオススメポイントを教えてください。

峯田 第1、2話を観させてもらったんですが、カットの切り替えが本当に早くて、一瞬で終わるシーンとかあるんですよ。携帯でやりとりしている文面とか、読ませないくらいの速度で流れていって、その情報量の詰まり方や、あえてわかりにくくしている部分が多いのが気になりました。
それは何もネガティブな意味ではなくて、「ここが、後からつがってくるんじゃないかな」とかこっちが自由に想像できる。僕、そういう風に、自分なりに考察するのが好きなんで。そういうアニメってなかなかお目にかかれないから、放送をすごく楽しみにしてます。

夏目 この作品はかなりチャレンジというか、普通のアニメの文法には乗らないような形で作っているんです。おそらく何も知らずに観た人は、戸惑いや驚きを感じると思います。
情報が羅列されていて、キャラクターの心情もあえて見えないような作りになっているので、散らばっているピースを観た人それぞれが上手く組み合わせてもらえるといいなと思います。6000ピースとかあるパズルがあったとして、4ブロックくらいつながるとうれしかったりするじゃないですか。そういう感覚で観てほしいです。
また、スタッフみんな情熱をもってやってくれていて、力のあるいい映像ができていますし、後半に向けていろいろな仕掛けもあるので、そういう部分でも楽しんでいただけたらと思っています。
そして、最後に主人公が何をして、どういうことになるのかを見届けて貰えたらうれしいなと思っています。


(C)Sonny Boy committee