ビットコインが激しく乱高下、取引価格の妥当性を測る尺度はあるのか?
ビットコインが激しい乱高下を繰り返している。ビットコインの先行きについて、支持派と懐疑派で見解は180度違う。その理由は実態のないバーチャルなビットコインには、買い時なのか、売り時なのかを見極める基準が存在しないからだ。
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実態がないことに拘ればどんな価格であれ、取引価格を肯定し難くなるのは当然であり、取引価格に拘れば、「バーチャルで何が悪い」という水掛け論に陥る。
ビットコイン創生の頃には、ブロックチェーンと言う最新のテクノロジーをまとって登場して来たため、何か途轍もなく革新的なものと受け止めるムードがあった。国家や企業の関与が存在しないので、監視されたり制限されることがなく、個人間で直接送金することが可能で、手数料も掛らないかごく僅かであるとメリットが伝えられた。
ビットコインに実態らしきものがあるとすれば、マイニングである。
マイニングとは、ネットワークに分散して保存されている取引台帳上のデータと、追加される対象期間中に発生した全ての取引データとの整合性を確保しながら、正確に記録することだ。文字にすると当たり前の簡単な記述になってしまうが、分散して保存されている取引台帳のデータと、追記する取引データの全てを、正確に検証したうえで追記するという作業には、膨大な計算が必要になる。
この膨大な計算処理を行って追記作業を成立させた人には、報酬としてビットコインが支払われる。まるで鉱山でコツコツと採掘作業を続けた人に報酬が支払われることが連想されるので、この作業をマイニング(採掘)と呼ぶ。
報酬として手にしたビットコインの価値が、採掘に投資したコンピューターシステムや費消した電気代、人件費等の諸々の経費を上回っていれば問題はないが、余りに膨大な電力を費消するため、マイニングの拠点は石炭火力発電の電力が供給される低廉なコストと外気温が低い地域を求めて、中国の高山地帯に設定されることが多いという。
石炭で発電された膨大な電力を使うマイニングは、脱炭素社会へ旋回しつつある世界の潮流とは明らかに相反する作業ということになる。
電気自動車大手の米テスラを率いるイーロン・マスク最高経営責任者(CEO)が、ビットコインによるテスラ車販売の停止を発表した理由が、マイニングによって膨大な電力を費消することへの懸念だと伝えられたのは尤もなことだ。
不自然なのは、ビットコインでテスラ車が買えると発表したのが2月で、撤回したのが5月だということだ。イーロン・マスクほどの人が、2月にはマイニングの抱える問題点に無知で、5月になってそれを知り俄かに心を痛めて方針を変えた、というストーリーに信憑性を感じる人は多くないだろう。
何しろ同一人物の発言によって、2月にはビットコイン価格が大きく値上がりし、5月には半値になるほどの値下がりを見せたのだから、単なる気まぐれ発言にしては罪が重すぎる。
そしてこの一連の動きが、ビットコインの捉えどころのない存在感を象徴している。いくら発行枚数が限られているとは言っても、あくまでもバーチャルマネーということだ。実態がないから売買を判断するための基準もない。上がりそうだと思う人が多くなると一気に値上がりし、値下がりを察知した時の恐怖感は一気に膨れ上がって値崩れを起こす。その結果が、荒い値動きとなって人々の注目を集め、ビットコインに接近する人と距離を置く人とを生み出す。
ビットコインの取引はゼロサムゲームだから、得られた利益の総量に等しく財産を喪失した人が存在する。ゲーム参加者の中だけで財産の遣り取りが行われている限りにおいては、鷹揚に構えていた社会も、実体経済への影響が出て来ると規制へ向けた動きを求めることになる。
存在感を増すほどに制限が多くなるという、二律背反を宿命付けられたビットコインは、落ち着いた取引環境を求めてさすらい続けることになる。