アストラゼネカとジョンソン・エンド・ジョンソンの開発した新型コロナウイルス感染症(COVID-19)のワクチンには、接種後まれに血栓症を発症する事例が報告されています。この事例について、ドイツの研究者チームが「抗原を運ぶウイルスベクターにアデノウイルスを利用していることが原因である」と主張する論文を発表しました。

“Vaccine-Induced Covid-19 Mimicry” Syndrome:Splice reactions within the SARS-CoV-2 Spike open reading frame result in Spike protein variants that may cause thromboembolic events in patients immunized with vector-based vaccines | Research Square

https://www.readcube.com/library/import?doi=10.21203/rs.3.rs-558954/v1

Why might AstraZeneca and J&J vaccines cause blood clots? Scientists claim they have the answer | Euronews

https://www.euronews.com/2021/05/27/why-are-aztrazeneca-and-j-j-vaccines-causing-blood-clots-scientists-claim-they-have-the-an

新型コロナウイルスワクチンは、ウイルス表面にあるスパイクタンパク質を抗原として利用しています。例えばファイザーやModernaのmRNAワクチンは、スパイクタンパク質の設計図となるmRNAを脂質のカプセルに閉じ込めて運ぶ仕組みで、このカプセルを体内の細胞に読み込ませ、スパイクタンパク質に対応した抗体を生成させて免疫を獲得させます。



これに対して、アストラゼネカやジョンソン・エンド・ジョンソンが開発する新型コロナウイルスワクチンは、DNAにスパイクタンパク質発現遺伝子を組み込んだアデノウイルスを利用するベクターワクチンです。細胞質内のリボソームで直接mRNAを読み取らせるmRNAワクチンと異なり、アデノウイルスベクターワクチンはアデノウイルスをわざと細胞に感染させ、アデノウイルスのDNAごと細胞核内に取り込んでから遺伝子転写を行い、抗原となるスパイクタンパク質を発現させるという仕組みとなっています。

マイナス20度〜75度で保存しなければならないファイザーやModernaのワクチンと比べて、アストラゼネカやジョンソン・エンド・ジョンソンのベクターワクチンは冷蔵庫の温度で保管可能で扱いやすく、物流や保管のコストが比較的低いというのが大きな利点でした。

しかし、アストラゼネカやジョンソン・エンド・ジョンソンのベクターワクチンには、非常にまれながら血栓症を起こす事例が報告されていました。欧州医薬品庁が2021年4月に発表した報告によれば、アストラゼネカのワクチンがヨーロッパで3400万回接種されたうち、脳血栓を起こした事例が169例あるとのこと。また、イギリスではアストラゼネカのワクチン3300万回のうち309回で血栓症が報告され、死亡事例は56例にのぼったそうです。また、ジョンソン・エンド・ジョンソンのワクチンでも、アメリカで血栓症を発症した事例が28例報告されています。



このワクチンの副作用が疑われる血栓症について、ヨハン・ヴォルフガング・ゲーテ大学フランクフルト・アム・マイン(ゲーテ大学)の研究チームは記事作成時点で未査読の論文で、「アデノウイルスベクターワクチンの接種後に血栓症が生じる理由について、アデノウイルスをベクターとして利用していることが原因である可能性が高い」と主張しています。

研究チームによれば、アデノウイルスのDNAに組み込まれたスパイクタンパク質遺伝子が細胞内で発現する際に、遺伝子転写でエラーが起こってしまう可能性があるとのこと。そして、エラーで変質したスパイクタンパク質が血管内の内皮細胞と結合すると「重篤な副作用」を引き起こす可能性があると、研究チームは主張しています。アデノウイルスベクターワクチンによる血栓症が新型コロナウイルスによる血栓症と類似していることから、研究チームはアデノウイルスベクターのワクチンによる疾患群を「Vaccine-Induced Covid-19 Mimicry Syndrome(VIC19M syndrome、ワクチン誘発性COVID-19類似症候群)」と名付けました。加えて、研究チームはファイザーやModernaのmRNAワクチンを「安全な製品」と評価しています。

なお、論文執筆者の一人であるゲーテ大学のRolf Marschalek教授はイギリスの経済紙・Financial Timesに対して、「アデノウイルスベクターワクチンの再設計は可能」と述べ、ジョンソン・エンド・ジョンソンと連絡を取っていることを明らかにしています。