携帯料金引き下げが経営を直撃、携帯3社の対応策を決算から探る(佐野正弘)

先週、携帯4社が相次いで2020年度の決算を発表しました。各社の決算を見ますと、楽天グループを除く3社が増収増益という非常に好調な決算で、楽天グループも楽天モバイルへの先行投資投資がなければ絶好調という内容でした。

ですが、特にNTTドコモKDDI、ソフトバンクの3社に関して気になるのは、やはり料金引き下げの影響です。ここ最近、政府主導で料金引き下げが急速に進められ、主力プランの料金引き下げや、安価に利用できるオンライン専用プランが相次いで始まり、人気となっていることは多くの人がご存知の通りかと思います。

これらの新料金プランがサービスを開始したのは2021年3月前後ですので、2020年度はほとんど新料金プランの影響を受けることはありませんでした。ですが2021年度以降は新料金プランの利用者が増えることから、料金引き下げの影響が各社の経営を直撃することとなります。

実際ソフトバンクは2021年度、携帯料金引き下げの影響で利益が700億円減るとしていますし、KDDIも600〜700億円の減少が見込まれるとしています。ちなみにソフトバンクの通信を主体としたコンシューマ事業の2020年度の営業利益は6586億円でしたので、単純計算すると利益の1割が政府の要請で吹き飛ぶわけですから、そのインパクトは決して小さくないといえます。

▲ソフトバンクは2021年度、営業利益が1000億円超減る要因があるとしているが、そのうち700億円は携帯電話料金引き下げの影響であるという

とはいえ、携帯料金引き下げは菅政権肝煎りの政策でもあり、止めるわけにもいかないというのもまた事実。それゆえ携帯3社には、料金引き下げの影響をいかに最小限に抑えるかが求められることとなりますが、今回の決算発表からはその具体的な策も見て取ることができました。

中でも各社が最も力を入れているのは、モバイル通信以外の事業をいかに大きく伸ばすかということ。そこで各社が打ち出した今後の施策を見ると、重視しているのは料金引き下げを逆手に取り、安価な料金を武器として顧客獲得を強化し、獲得した顧客にさまざまなサービスを利用してもらうことで売上を伸ばすことのようです。

例えばNTTドコモは、2021年3月26日に開始したahamoが好調で、4月末時点ですでに100万契約を突破したとのこと。その影響から2020年12月と2021年1月に続いて、2021年4月にも契約数が純増を記録したとのことですが、それに加えて新たに明らかにされたのが、ahamoより低価格の「エコノミー」の領域に関する施策です。

NTTドコモはかねて、エコノミーの領域は自社で直接手掛けるのではなく、MVNOと協力して取り組むとしていましたが、今回の決算でNTTドコモは、複数のMVNOとdポイントの会員基盤を活用してもらうよう、お願いをしていることを明らかにしているのです。NTTドコモは現在、dポイントの会員基盤「dポイントクラブ」の会員数を重視した戦略を取っていることから、それを自社の通信サービスだけでなく、MVNOのサービスにも活用してもらうことで、dポイントと連携したサービスの利用拡大を推し進める戦略を取ろうとしていることが見えてきます。

NTTドコモは料金引き下げを武器に顧客獲得を強化。ahamoの契約が100万を突破したのに加え、低価格の領域でもMVNOとdポイントでの連携を図り、顧客拡大を図る考えだ

またソフトバンクもLINEを実質的な傘下として取り込んだことで「LINEMO」を提供しただけでなく、ヤフーとLINE、PayPayといったグループのリソースを活用しサービス面の強化を図ることで、他社との差異化を図りスマートフォンの利用者を増やす方針を打ち出しています。

そしてもう1つ、各社が重視しているのがデジタル化です。コロナ禍で日本社会全体でのデジタル化の遅れが指摘されたことから、国会でも「デジタル改革関連法」が成立し2021年9月のデジタル庁設立に向けた動きが加速するなど、国内全体でデジタル化の需要が高まっていることはご存知の人も多いかと思います。

そうしたことから携帯3社にとっても、企業や自治体などのデジタル化を推し進める法人向けのソリューション事業は現在とても活況を呈しているようで、各社とも急成長が期待できる分野と位置づけているようです。携帯各社は2021年度に、5Gが真の実力を発揮できるスタンドアロン運用に移行する予定で、それに伴い企業での5G活用が急速に進むと見られていることから、今後法人事業には一層力を入れて取り組むことが考えられそうです。

KDDIは法人事業を担うビジネスセグメントが、デジタル化の需要やIoTの利用拡大などで好調となっており、それが増収増益に大きく貢献しているとのことだ

そのデジタル化に関してもう1つ、新たな動きが見られたのがキャリアショップのデジタル化です。すでにIT技術やツールを活用してショップ運営の効率化などは進められているのですが、NTTドコモは今後、キャリアショップを地域や顧客のデジタル化を推し進めるための拠点として活用することを打ち出しています。

同社はオンライン専用プランのahamoを提供し、大きな評判を呼びましたが、一方でスマートフォンなどの使い方に慣れていないため、オンライン専用プランを利活用できないという不満の声もあったようです。そうしたことから有料で契約や各種手続きの仕方を助ける「ahamo WEBお申込みサポート」「ahamo WEBお手続きサポート」などの提供を2021年4月より提供していますが、これを機としてキャリアショップで、顧客のデジタル化を有料で提供し、ショップの役割を変えていく考えを示しているのです。

NTTドコモはショップのデジタル化による効率化だけでなく、ショップを顧客のデジタル化をサポートする拠点とする方針も打ち出している

紙や印鑑、FAXといったアナログなツールの利用が減らないのは、それだけデジタルツールが使いこなせない人が多くいることの証でもあり、そうした人達の意識を変えていかなければいつまでも非効率な状況が続いてしまいます。それゆえキャリアショップを拠点とした顧客のデジタル化は、短期的にはキャリアショップの新たな収益源確保、長期的には店頭でのサポートが必要なくなることで、ショップの統廃合を進めコストを削減する狙いがあるといえそうです。

これら一連の策によって携帯各社は値下げの影響を抑え、利益は大きく伸ばせないものの何とか増収増益の好調な経営を維持しようとしているようです。ですがその実現に向けては、各社が抱える固有の課題解決も必要になってくるでしょう。

NTTドコモに関して言うならば、親会社の日本電信電話(NTT)幹部による総務省関係者らへの接待・会食に関する問題で、NTTや総務省による調査が完了して結論が出なければ、NTTドコモによるNTTコミュニケーション子会社化などグループ内の再編が進められないという問題が浮上しています。またソフトバンクに関して言えば、今後重要な役割を果たすLINEに関して個人情報管理に関する問題が起きており、そちらを解決しなければLINEの本格活用が進められないことが課題になってくるでしょう。

各社のビジネス拡大に向けた取り組みだけでなく、それぞれが抱えている固有の課題にどのような解決策を打ち出すかという点も、携帯料金引き下げに打ち勝って好業績を続けるには重要になってくるといえそうです。