コロナによる運動不足が深刻化し、体重増加や筋力低下などのさまざまな影響が出ています。フィジカルトレーナーの中野ジェームズ修一さんは、この状況に警鐘を鳴らします。運動不足による危険性、そして限られた環境で私たちが最低限やっておくべきことを教えてもらいました。


テレワークなどで活動量が減った状態が長期化しています(※写真はイメージです。以下同)

コロナ禍での運動不足は今すぐ解消を。体重が増えるだけでは済まされない危険性も



長引くコロナ禍により、運動不足や体重増加の問題も、だんだんと見過ごせなくなってきました。
「コロナが明けたら体重も体型も元に戻るはず」
「1キロくらい太ったけど、まだ大丈夫」
「なるべく歩くようにしているから、運動はまだ平気」
など、不安をうっすら感じながらも、見過ごしている方もいるでしょう。しかし、1年以上この状況が続いており、さすがに元の生活に戻ったら全部大丈夫と考えやり過ごすには、期間が長すぎます。
中野さんによると、コロナ禍での運動不足やちょっとの体重増加は、この先10年20年後の健康にも影響してくるといいます。一時的な数キロの体重増加がなぜ、先々の健康にも影響を与えるのでしょう。

●テレワークが体へ及ぼす危険性。たった1kgの体重増でも安心ではない



――日本では数少ない、心と体の両面を指導する中野ジェームズ修一さん。過去には卓球の福原愛さんやバドミントンのフジカキペアなどを指導。現在は青山学院大学駅伝チームのフィジカル強化などを指導し、パーソナルトレーナーとして数多くの体づくりの指導にあたっています。
コロナ禍により、運動不足への危機感は増えつつあるけれど、体を動かすことは苦手でできていない。そんな人も多いかと思いますが、まずは運動への意識を変えていけばよいでしょうか?

中野さん:以前は、トレーナーという立場から「運動が嫌いなら、最初から無理してがんばらなくてもよいですよ」とお伝えしていました。しかし、コロナが長引く今の状況を踏まえると、脅かすほどではないですが「きちんと運動はやらないといけません!」と説明しているところです。

人間は20歳を過ぎてなにもしていない場合、筋肉が約年1%衰えると言われています。テレワークや在宅中心の生活によって、多くの方の体重は増え、筋肉量が減る傾向にあるからです。コロナによって体重と体脂肪がどれほど変化したかを、以前クライアント様を対象に調査したのですが、平均1kgの体重増加がありました。それと合わせて、体内は2kgの筋肉量が減っていました。つまり、最低でも3kgほどの脂肪がついていることになります。「1kg太っただけで済んだ」と安心はしていられません。
筋肉量が1kg減ると、基礎代謝は約50kcal減ると言われています。2kgだと100kcalの基礎代謝の減少。これはご飯茶碗半分のkaclです。一見、数字のインパクトは少ないかもしれませんが、今までと同じ生活を送っていても、健康を損なう可能性があるのです。


――じわじわと太る仕組みがとても恐ろしいですが、筋肉量が減ると健康面ではどういった問題が起きてくるのでしょうか?

中野さん:筋肉量が減るときは、まず下半身の筋肉から減っていきます。下半身(お尻から太ももにかけて)には、体にとっていちばん大きな筋肉がついており、この筋肉量が減ると、「糖尿病」と「変形性膝関節症」が増えると言われています。
まず筋肉量と糖尿病の関係性ですが、食事で血糖値が上がった際、その糖は肝臓や筋肉、脂肪細胞などに分配されて消費されます。このとき筋肉量が少ないと、糖がきちんと消費されず、血糖値のコントロール力も下がっていき、糖尿病になってしまう可能性が高まります。

変形性膝関節症は、もともとはご高齢の方がなるケースが多いですが、コロナ以降は30〜40代でも膝に違和感を訴える方が増えていると感じます。変形性膝関節症の原因は動かさないことによって、膝軟骨が再生できなくなることにあります。在宅による運動不足が日常的になった結果、足を動かさないので関節を支える筋肉が減っていき、膝に負担がかかるといった流れです。このまま動かさない生活で膝関節を痛め続けると、60代頃には介護が必要になっている可能性もありますので、気をつけたいところです。

一時的な運動不足と考えるには、このコロナ禍は長すぎます。だからこそ「いやならやらなくていい」ではなく、「やらないとダメですよ!」と私たちも積極的に伝えるようにしているんです。

●歩くだけでは筋肉量は増えにくい。おすすめは階段を使う運動




――このままいくと、普段の生活をしているだけでも筋肉量が減り、体は太っていき、そしてさまざまな健康問題を引き起こしていく。恐ろしい現実が見えてきましたが、日常生活の中で行う「ながら運動」で、運動不足は解消させることはできないのでしょうか?

中野さん:運動で筋肉量を増やそうと思ったら、掃除中に足上げなどを加える「ながら運動」ではちょっと難しいです。普段の生活の中で行うことでなにかということでしたら、階段の上りをがんばってみると、筋肉量を増やすことができますよ。

筋肉量を増やすには、強い刺激と過負荷が必要です。階段の上りの動作は、片足に体重が乗って負荷がかるので、思った以上に運動効果があります。大体4階分くらいまで上って欲しいのですが、目安として、都営地下鉄の地上からの深さが大体4〜5階と言われています。もし地下鉄などに乗る際は、エスカレーターではなく階段を積極的に使ってみてください。

――上りの動作に負荷がかかるということですが、下りはどうですか?

中野さん:筋肉を増やすのであれば、上りの方が足への負担はかかります。でも、キツイ方は下りから始めるでもよいでしょう。少しずつチャレンジし、まずは体を動かす習慣の定着を目指してください。

――習慣化って、やっぱり難しく感じて途中で挫折してしまう方もいると思います。よくダイエットを続けるには、まず体重計に乗りましょうといった話も耳にしますが、なにかコツや、注意点などはあるのでしょうか?

中野さん:もしダイエットを目的として運動を続けようと考えるなら、毎日体重計に乗ることはおすすめしません。人の体は運動した翌日に体重が減るという仕組みではありませんし、筋肉量が増えた場合、体重自体は増えます。数字でやる気がそがれるのであれば、計測は3日〜1週間に1回程度にして、定期的に観察していくのがよいでしょう。
また体重を測ることで摂取カロリーをコントロールする方であれば、毎日同じ時間に体重に乗るのはよいかもしれません。数字に左右されるのではなく、自分の取り組むことにいちばん適切な計測方法を取り入れていただきたいです。


――体重を毎日測るのは、場合によってはよくないということですが、では運動を習慣化させることに特化させた場合、どんな取り組み方をすれば、挫折せずに続けていくことができるでしょうか。

中野さん:運動に限らず、物事を習慣化させるには、最低でも2週間は続けることが大事です。歯をみがくといった日常動作と同じように、運動をしないと気持ち悪いといった感覚になることを目指しましょう。それを目指す上で、より快適に継続するためには、まずだれかと一緒にやるのがおすすめです。家族やパートナー、お一人の方はSNSでのダイエット仲間を見つけるのもよいでしょう。
周りと一緒にやった方が運動の継続率はよいのですが、同時に比べたりしすぎず、自分がいちばん楽しいと思えるスポーツを見つけることを意識してください。運動は本来楽しくなければ続きません。有酸素運動1つとっても、ランニングや水中ウォーキング、テニスなどいろんな種目があります。楽しければ周りと比べてどうとか考えるすき間もありませんし、自然と運動も習慣化されていくと思いますよ。

――運動不足による健康問題は、すでに私たちの体を少しずつ変化させているのかもしれません。まずはできることから体を動かす習慣をつけていくのがいいでしょう。

<取材・文/おおしまりえ>

●教えてくれた人
【中野ジェームズ修一さん】



フィジカルを強化することで競技力向上や怪我予防、ロコモ・生活習慣病対策などを実現する「フィジカルトレーナー」の第一人者。2014年からは、青山学院大学駅伝チームのフィジカル強化指導も担当。早くから「モチベーション」の大切さに着目し、日本では数少ないメンタルとフィジカルの両面を指導できるトレーナーとしても活躍を続けている。著書多数、近著に『フィジカル×メンタル 最新研究が実証した疲れない体大全
』(SBクリエイティブ刊)、『60歳からは脚を鍛えなさい 一生続けられる運動のコツ
』(PHP研究所刊)がある