昨年の本社移転 首都圏、企業の「転入超過」が過去10年で最少の8社に ― 21年は11年ぶり転出超過の可能性も
「オフィス」の在り方問われた1年 首都圏からの転出288社、過去10年で最多
2020年は新型コロナウイルスの感染拡大により、企業にとって「オフィス」の在り方を再考させられる1年となった。テレワーク、Web会議など従業員が場所を選ばず働く基盤の整備が急ピッチで進んだ一方、大手企業を中心に東京都心のオフィス面積縮小や本社機能の地方移転といった動きが相次いだ。経団連が昨年11月に発表した調査では、東京に本社を置く433社のうち「本社機能の全部または一部の移転を検討中」あるいは「検討する可能性がある」と回答した企業は24社に上った。対象企業全体の5%に留まるものの、検討中の企業数が5年前に行った調査と比べて2倍以上となるなど、大企業を中心に首都圏に本社機能を置くことに対する再検討が進んでいる。実際に、東京都心のオフィスビルの空室率が昨年4月緊急事態宣言の発出以降、急上昇するなどオフィス離れが強まる動きもあり、2021年はこうした動きがより加速する可能性がある。
この結果、首都圏は2011年以降10年連続で企業の転入が転出を上回る「転入超過」となった。ただ、転入超過は8社にとどまり、ピークの2015年(104社)と比較して10分の1以下となったほか、転入超過の社数としては統計開始の1990年以降で最も少ない。企業の首都圏流入の動きは依然として続いたが、転入超過は2019年から一転して大幅に減少するなどトレンドに変化もみられる。
転入元は「大阪府」(56社)、「愛知県」(26社)、「静岡県」(20社)、「北海道」(19社)、「茨城県」(18社)の順で多かった。大阪府からの転入は前年に比べ10社減少、愛知県は8社減少した。昨年3位(25社)だった福岡県は9社にとどまり、前年から大幅に減少した。転出先は40道府県に上り、最も社数が多い「大阪府」(36社)、「静岡県」(30社)、「茨城県」(29社)、「愛知県」(16社)、「福岡県」(14社)の順。転出先は前年と同様、大都市圏と茨城県などのほか、首都圏と地理的に近接する地域に比較的限定された。
首都圏への転入、年商「1-10億円未満」が29年ぶりにトップを譲る
首都圏への転入企業で、最も多いのは「サービス業」の115社だった。7年連続で100社を超える水準だったものの、前年を6社下回り、2年ぶりの減少となった。次いで「卸売業」(50社)、「製造業」(39社)、「小売業」(32社)が続いた。転出企業で最も多かったのは「サービス業」の96社。前年から3社減少し、2017年(114社)をピークに3年連続で減少した。次いで「卸売業」の62社、「製造業」の51社と続いた。
首都圏への転入企業では、年商「1億円未満」が117社となり、1990年以降で初めて最多となった。これまで最も多かった、中堅企業に相当する「1-10億円未満」(113社)は前年から16社減少し、1991年以来29年ぶりにトップの座を譲った。
企業規模別では、転出企業で最も多かったのは「1億円未満」の116社。前年から3社増加し、4年連続で100社を超えた。次いで「1-10億円未満」の115社となり、前年から16社増加した。
新型コロナで本社のあり方に変化 21年は11年ぶりに転出超過の可能性も
首都圏をめぐる企業移転動向はこれまで、政府や自治体による移転の優遇税制や補助金といった支援策に加え、高騰するオフィス賃料の抑制や災害時のバックアップ拠点、従業員のワーク・ライフバランスの実現などを理由から、企業が本社を首都圏外へ移転させる動きもあった。他方で、首都圏に集中する取引先との関係構築、人材採用の強化、海外や地方へのアクセス面など、経営のあらゆるシーンで首都圏に本社を構えるメリットは大きく、結果的に首都圏の企業移転は一時100社を超える転入超過状態が続いた。しかし、2020年は新型コロナウイルスの感染拡大、緊急事態宣言の発出などにより、本社機能や主要拠点が首都圏に集中することの脆弱性が改めて表面化した。その結果、これまで普及が進まなかった在宅勤務(テレワーク)、Web会議システムの導入も、範囲・企業規模を問わず全国で一斉に浸透。各社とも前向き・後ろ向きを問わず事業・オフィスの在り方を問われ、人材派遣大手のパソナグループ(東京→兵庫・淡路島)、紅茶卸大手のルピシア(東京→北海道ニセコ町)など、大手企業を中心に本社機能を移転・分散する動きも進んだ。こうした動きもあり、首都圏をめぐる企業移転は10年連続の転入超過となったものの、超過社数は過去10年で最少の8社にとどまった。これらの動きはコロナ禍の影響を受けた「一過性」の現象となる可能性も否定はできないものの、首都圏外へ本社を移転する「動機」の変遷も含め、2020年は近年続いた企業の首都圏集中というトレンドからターニングポイント(転換点)を迎えている。
今後は、新型コロナの対策以外にも想定される首都直下型地震など災害面でのリスクヘッジから、首都圏以外への本社機能分散やバックアップ拠点の確保といった動きが今以上に本格化するとみられる。そのため、2021年は特に本社所在地を選ばないサービス業などの企業を中心に首都圏からより離れた地域への本社移転の動きが加速することが見込まれ、首都圏は11年ぶりとなる企業の転出超過に転じる道筋が見えてきた。