中国で販売される「C-HR」の兄弟車「IZOA(イゾア)」のEVモデル(写真:トヨタ自動車)

新型コロナウイルス感染拡大の影響で中国の新車販売は低迷した。しかし、日本車は低燃費や信頼性などの優位性で人気を博しており、中国における日本車の販売台数は2020年に2年連続となる500万台超を達成した。

トヨタ自動車の中国販売台数は、前年比10.9%増の179.7万台で、8年連続で過去最高に。ホンダは4.7%増の162.6万台で、市場の回復に支えられて大きく盛り返したのだ。

日本車の販売が好調である要因は、果たして何であろうか。そして、今の勢いがいつまで続くのか。中国における日本車の動向には、日系サプライヤーをはじめ自動車業界から強い関心が寄せられている。今回は、日系メーカーの中国市場における現状をお伝えしよう。

新車市場の回復が鮮明

2020年の中国新車販売は2531万台となり、3年連続で前年を下回った。しかし、マイナス幅は前年比で1.9%にとどまっている。

新型コロナウイルスの影響から2020年の春先に販売は大きく落ち込んだが、景気回復や消費促進政策の効果などにより、新車販売が予想以上の回復を示しているのだ。


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内訳を見ていくと、商用車は前年比18%増の520万台となっている。特に大型トラックは前年比38%増と、大幅な伸びを見せた。排ガス基準「国3」以下の車両への環境規制、過積載車両への取り締まり強化、インフラ建設事業の増加などが好調な要因として挙げられる。

また、EV(電気自動車)を中心とするNEV(新能源車=新エネルギー車)市場では、地方政府の補助金政策や農村部における販売促進キャンぺーンなどの後押しにより、前年比約5%増の130万台となり、過去最高を更新した。

一方で、乗用車市場は前年比6%減となり、特にセダンは前年比10%減と落ち込みが目立つ。すでにアフターコロナとなった中国では、交通機関の利用による感染リスクを考慮し、家族の移動に人気のSUV(多目的スポーツ車)の需要が増加しているのだ。これにより2020年のSUVの販売台数は950万台となり、はじめてセダンを上回った。

中国の都市部では、買い替え需要の増加に伴い、クルマの優劣を客観的に判断する消費者が増えている。

韓国系の現代(ヒュンダイ)や起亜(キア)は低価格車を差別化の武器として、長年中国乗用車市場上位を維持してきたものの、消費者の嗜好変化やブランド力の低下などを受け、2016年以降の販売台数は大きく減少している。

フランス系メーカーのルノーは中国の乗用車事業から撤退し、PSA(プジョーシトロエン)も現地向けモデルの投入遅れなどにより、低迷している。韓国系とフランス系の2020年新車販売は、市場シェアの低下分から試算すると、2017年比で約160万台の減少となる。


中国で販売されるシトロエン「C3-XR SUV」(写真:グループPSA)

また、アメリカ系メーカーの苦戦も目立つ。GM(ゼネラルモーターズ)の販売台数は約6%減の290万台、特にシボレー、宝駿(バオジュン)など低価格車ブランドの販売台数が、前年比で30%以上も減少した。

4年ぶりのプラス成長となったフォードは、販売台数が127万台でピークに達した2016年と比較して、半分程度にとどまっている。米中摩擦の影響を受けているものの、消費マインドの低迷や低価格車の販売不振が、アメリカ系メーカーの減速要因であろう。

フォルクスワーゲンは前年比8%減となり、日系メーカーを圧倒する優位性が、徐々に変化してきている。ただ、新車市場の減速が、中国市場で長く展開してきた同社の市場優位を崩す可能性は小さいものと思われる。

日系メーカーが好調な4つの要因

競合ブランドの低迷が好機となり、日本メーカーは販売台数増を果たしたとの論調も聞こえてくるが、本当だろうか。ものづくりと市場競争の視点から日本車好調の要因を考察すると、次のような要因が考えられる。

1つ目の要因は、プラットフォームの共通化と兄弟車戦略だ。日系メーカーは、これまでの車種別プラットフォーム生産から、車種の枠組みを超えた大規模な部品共通化戦略による生産へ切り替えつつある。

たとえばトヨタとホンダは、1つのプラットフォームをベースに内外装を変えることで、中国の合弁会社2社から新車をそれぞれ投入する兄弟車戦略を実施している。

トヨタでいえば、TNGA(トヨタ・ニュー・グローバル・アーキテクチャー)プラットフォームを採用したセダン「カローラ」(一汽トヨタ)と「レビン」(広汽トヨタ)、SUVの「C-HR」(一汽トヨタ)と「イゾア」(広汽トヨタ)。


「カローラ」の兄弟車となる「レビン」のハイブリッドモデル(写真:トヨタ自動車)

ホンダなら、グローバルミッドサイズプラットフォームを採用した「アコード」(広汽ホンダ)と「インスパイア」(東風ホンダ)、「フィット」をベースに開発されたSUV「ヴェゼル」(広汽ホンダ)と「XR-V」(東風ホンダ)なと、両社ともすでに多くのモデルで兄弟車をラインアップしてきている。

また、中国でSUV人気が続く中、トヨタRAV4の兄弟車「ワイルドランダー」や、ホンダCR-Vの兄弟車「ブリーズ」が発売されることから、日系メーカーは人気車種の波及効果でさらなる販売拡大を図ろうとしているのだ。

中国で、東風汽車(ドンフェン)のみと乗用車の合弁生産を行う日産は、CMF (コモン・モジュール・ファミリー)で、車種や車格の壁を超えて共通化したモジュールの組み合わせによるクルマ作りが特徴である。同プラットフォームから生まれた「シルフィ」「エクストレイル」「キャシュカイ」が中国で人気を集めている。

中国市場にマッチしたモデルの投入

2つ目の要因は、低燃費車が好調であることだ。

トヨタとホンダのHEV(ハイブリッド車)は、現地生産によるコストダウンに取り組み、販売台数の増加を果たした。トヨタは2015年に現地で開発・生産した新型HEV「カローラ」「レビン」を市場に投入。レクサスでは、販売の3分の1をHEVが占め、中国での販売台数は累計30万台に達している。

また、ホンダは「SPORT HYBRID i-MMD」を搭載するHEVを強化し、その販売台数は2020年に20万台を記録した。現在、日系車は中国ハイブリット車市場(マイルドハイブリッドを除く)で9割超のシェアを占めている。


ホンダ「CR-V」は「SPORST HYBRID i-MMD」を搭載する(筆者撮影)

3つ目の要因は、設計の現地化だ。

日系メーカーは「モダン・スポーティ感覚・クール」を基本コンセプトに、ロングホイールベースや大きなフロントグリルの採用、長距離走行を考慮する乗り心地や車内空間の快適さなど、中国人の好みに合ったデザイン志向を開発に取り入れ、特にクルマの個性を重視する若年層の取り込みに成功した。

さらに4つ目の要因として、中古車も評価されていることがある。

設計の現地化に加え、競合ブランドと比べて中古車として売る際の価格が下がりにくい(リセールバリューが高い)ことも支持された。

中国汽車流通協会による、2020年末時点での車齢3年の平均残価率を見てみると、フォルクスワーゲンが62%であるのに対し、トヨタとホンダは75%を超えている。特にレクサスは85%で、メルセデス・ベンツ(69%)やBMW(61%)との差が開いた。

セダン市場も日系メーカーが好調だが……

日産「シルフィ」とトヨタ「カローラ」は、欧米系ブランド車一色であったセダン市場で、それぞれ販売台数1位と3位に躍進。ホンダ「CR-V」は、15万元(約250万円)以上のSUV市場で1位となった。

2020年は、これら3車種が、それぞれの現地法人である東風日産全体の45%、一汽トヨタの45%、東風ホンダの30%を占めている。


同名の日本販売モデルとは異なる日産「シルフィ」(筆者撮影)

こうした「スター車種」を作り出したことにより、ブランド力の向上や生産のスケールメリットの拡大などの波及効果を生み出し、日本車シェアは24.1%に到達。直近10年間で最も高い実績を示した。

中国では日本車ファンが増える環境が整い、同時に日系企業が価格競争力を意識しながら、兄弟車戦略でセダン、SUV両市場で同時躍進したことで、地域ごとに消費者層の拡大を果たした。

しかし、日産はシルフィというスター車種を登場させながらも、低価格帯の中国専用ブランド「ヴェヌーシア」などが苦戦することにより、2年連続のマイナス成長となっている。投入車種が少ないマツダと三菱自動車も、それぞれ5.8%減、43.6%減だ。

変調をきたす中国の自動車市場では、各社が懸命に生産台数の維持と新規需要の取り込みを図っており、製品戦略によって、日系企業の明暗が分かれている。今後、電動化による大変革の潮流の中で日系企業は、いかに内燃機関車(ICE)と電動車のすみ分けをしながら他社との差別化を実現できるかが、問われているのである。(論考は個人的見解であり、所属とは無関係です)