離れている家族がもし一人で亡くなってしまったら…? 葬儀などの対応に追われるほか、跡継ぎのいないお墓など課題が出てくることもあります。
一人暮らしをしていた父が孤独死したというライターの長根典子さんに、葬儀後に悩んでしまったという「お墓問題」についてつづってもらいました。


父の死で決めた「墓じまい」だけど…スムーズにはいかず…(※写真はイメージです。以下同)

父の孤独死。後継ぎがいなくなった実家のお墓はどうする?



父が2年半前の夏、73歳で孤独死しました。母もすでに故人で残った家族は私と3歳上の姉の二人だけ。親戚づきあいがあまりなかったため、葬儀は小さな家族葬ですませました。そしていよいよ埋葬という段階でぶち当たったのが、「実家の墓をどうするか問題」だったのです。

●残った家族で実家の「墓じまい」を決意



私と姉は父が亡くなったことで実家の墓を閉める方向で話し合っていました。父の兄弟は20年以上年の離れた腹違いの兄2人だけで、既に故人。その子ども世代である私のいとこたちは父と同世代。彼らは別の墓を持っていたのです。
また、私も姉も結婚していたため、実家の墓を継ぐ人間がいません。遠方に住んでいるため墓参りもままならない姉と、正直、半分は義務感で墓参りをしていた私は、「これを機に墓をなくしたい」という気持ちで一致していました。墓を片づけるなら、私と姉だけですべてを決められる今しかないという気持ちもありました。

●遺骨が11体?父の遺骨は海洋葬にして経費削減



当初私たちは、遺骨はすべて永代供養にすればいいと思っていました。ところが、墓石の側面と裏側に彫られている戒名の数を数えてみると、名前は11名分。永代供養は安くても1体5〜30万円はかかるというのです。どう考えても、全員を永代供養するという選択肢は非現実的です。そのうえ遺骨の取り出しや運搬、墓地を更地にする費用も必要でした…。

そこで私たちは墓じまいのことは後で考えることにして、父の遺骨をどうするかを検討しました。いずれ墓を閉めるのなら、父は墓には入れる必要はないでしょう。どちらにしても費用がかかるからです。いろいろと調べた結果、永代供養に比べて圧倒的に安い「海洋葬」があることがわかりました。遺骨を海に散骨して供養する方法で、費用は3万円程度。ここに頼んでしまおうかと私が姉に言うと、姉も一、二もなく賛成してくれました。

●法要を頼むお寺難民に!結局お願いしたのは…




それでも父の埋葬をあまりに簡単にすませるのも心苦しく、四十九日には姉と私がそれぞれ子どもたちを連れて父の家に集まり法要を行うことに決めました。
そうなるとお坊さんを手配しなければなりません。通常四十九日は葬儀を行った寺にお願いしますが、そこは葬儀社に呼んでもらった成り行きで決まった寺でした。できればきちんとした寺に頼みたいと思いました。

ですが、問題は実家が正式な菩提寺を持っていなかったことです。実家の墓は公営墓地にあり、わが家は一度もどこかの寺の檀家になったことがなかったというのです。
そこで、ゆかりのある寺としてまず思いついたのが、私たちが子どもの頃、毎年お盆に呼んでいた寺でした。私の祖父の代からのおつき合いだとお盆のたびに父は自慢していましたが、とっくの昔に縁は切れていました。

あらゆる候補を次々と考えましたが、遠方だったり父によるさまざまな事情があり、どんどんお寺の候補が消えていきました。
周囲にも相談しましたが、結果的にたどり着いたのはお坊さんの派遣を頼めるネットのサービスでした。申し込みはとても簡単で、宗派と日時と住所を指定すればOK。費用は2万円。以前、別の葬儀や法事では、お坊さんに10万円程度を包んだのでまさに破格でした。

●思った以上に合理的に、そして安く済んでしまった



四十九日を終えると私は父の遺骨を自宅に持ち帰り、事前に申し込んでおいた海洋葬サービスに遺骨を送付しました。骨壺は大きく重量もそこそこありますが、専用パッケージも用意されているので、困ることはなにひとつありませんでした。

結局父の葬儀全般にかかった費用は、家族葬30万円、海洋葬3万円、四十九日に2万円で、約35万円でした。母の葬儀には父の希望で200万円以上かけたことを考えると、非常に安くすみました。
葬儀自体は家族葬にするか通常の葬儀にするか考えどころですが、その後の埋葬はまた別の話です。費用も安く、残された家族に世話をかけないですむ海洋葬は合理的だと思いました。

●墓じまい見積もりはなんと100万円…。結局この問題は現在も残ったまま




さて、ここからは後回しにしていた墓じまいです。
墓じまいには、お寺などの墓の管理者への申請が必要なだけではなく、改葬先や自治体から証明書を発行してもらうなど各種手続きが必要です。海洋葬や永代供養を行う業者は墓じまいも請け負っていることも多く、これらのサービスに申し込めば必要な手続きも行ってくれます。

私はネットで見つけた業者に見積もりを依頼することにしました。
各種手続きも含め、墓から遺骨を取り出し海洋葬を行うところまでで、遺骨11体分で約50万円。更地にする工事は指定の業者に頼まなければならず、こちらの見積もりは約50万円。墓じまい、海洋葬、工事を合計すると遺骨11体で約100万円となりました。もちろん遺骨が少なければもっと安くすみます。埋葬方法を海洋葬ではなく、永代供養や樹木葬などを選ぶとさらにかかります。

当初の予定ではとっくに墓じまいは終わっているはずでしたが、じつは2年たった今も終わっていません。
姉が墓じまいは自分が仕きると言い出し、業者に依頼しないまま今に至っています。何度か姉と話しましたが、最終的に私は見積もりの半額を渡して、墓の処理を姉にゆだねました。というのも、父が亡くなった翌年に私は海外に転出し、墓じまいを担うのが難しくなってしまったからです。

父に先立つこと5年前、ガンで亡くなった母は亡くなる直前に「散骨して」と私に言いました。母は“嫁”ですから、「実家の墓に入りたくない」と言ったのです。墓じまいで母の遺骨を出して父と同じ海に散骨すれば、母の気持ちも、母なしではなにもできなかった父も、どちらも満足すると思っていたのですが、うまくいかないものです。
そういったわけで、わが家の墓は現在も放置されたまま。こんなことになるなら、専門家にもっと早く入ってもらえばよかったと今は後悔しています…。

●多様化する墓じまいの形



近年の状況について、永代供養墓のパイオニアでもあり、寺院コンサルティングや墓じまいに関する事業も展開する「永代供養墓普及会」(株式会社エータイ)の広報担当・神谷春菜さんにお話を伺いました。

「墓じまいに伴う改葬件数が年間11万件を超えるというデータ(※)もあるように、弊社にご相談いただく件数も年々増えています。墓じまい(改葬)では思ったより費用がかかってしまう、ご親戚やお寺と意見が合わない、行政手続きなどでトラブルになるケースもあります。丁寧に準備を進められるようお手伝いしています」

神谷さんは、相談件数が増加している背景には、海洋葬や永代供養墓、納骨堂、樹木葬といったように、弔い方が多様化していることがあるといいます。

「どの方法もメリット・デメリットがあります。故人が安らかに眠るのにふさわしい場所はどこか、故人に想いをはせるのに適した埋葬方法はなにか、法要はどうするかなど、正解がないため決断が難しいのです。費用の面も重要ですが、後悔しない選択をすることが大切です」

現在は、子どものいない夫婦やいわゆる“おひとりさま”からのご相談に加え、子どものいる夫婦からの相談も増えていると神谷さん。

「ご相談で共通しているのは“継承者がいない”という実務的な問題や、“残された家族や周りに迷惑をかけたくない”というお気持ちです。責任感が強く、ご自分の代で墓を閉めることに罪悪感を覚える方には、培ってきた多くの事例と選択肢をお伝えし、墓じまい前提でなく、ご本人様が安心できる最善の方法をお選び頂くようさまざまなご提案をいたします。多くの方にとってお墓選びは生涯に一度。ご自身やご家族が納得できるよう、些細なことでもご相談いただければと思います」

わが家のように関係者が少ないケースでも、宙ぶらりんになってしまった墓じまい。自分たちだけで進めようとせず、早めに専門家に相談しておいたほうが最善なのではないでしょうか。

※厚生労働省「衛生行政報告例」より。2010年度の改葬件数は72,180件だったが、2018年度には115,384件と約1.6倍にまで増加。

当記事は、個人の体験なので、お住まいの地域等によって異なります。

【長根典子さん】



1971年横浜生まれ。制作会社勤務、50代向けファッション通販誌副編集長などを経て、フリーランスライターに。1人息子とプラハへ移住するもコロナ禍で帰国。ビジネスや投資のほか、子育て、ライフスタイル、ファッションなどの分野でも執筆。著書に『成長する組織をつくる目標管理
』(労務行政)、『誰が司法を裁くのか
』(リーダーズノート新書)など。趣味は英語、FX、アート。