八木竜一&山崎貴監督、懐かしくて新しい『STAND BY ME ドラえもん』シリーズでの挑戦
国内興行収入83.8億円を記録した3DCGアニメーション映画『STAND BY ME ドラえもん』で共同監督としてタッグを組んだ八木竜一と山崎貴の両監督。「ドラえもん」50周年を記念して製作された『STAND BY ME ドラえもん 2』では「懐かしくて新しいものを作る」という前作が掲げていたスローガンをさらに進化させた。両監督が作品や新時代のクリエイターたちへの思いを語った。
毎年春の風物詩となっている『映画ドラえもん』シリーズとは一線を画す形で製作された『STAND BY ME ドラえもん』。その位置づけについて、山崎監督は2Dアニメと3DCGという決定的な表現方法の違いとともに「ありふれた日常のほのぼのとした感動」を描くことがあるのだという。「簡単に言えば『STAND BY ME ドラえもん』は、太古に行って恐竜が出てくるような大冒険タイプの映画ではないんです」と笑う。
今回の第2弾については、前作が公開された2014年の直後から話は出ていたというが、脚本づくりには難航した。その理由は先のような『STAND BY ME ドラえもん』ならではの方向性の話を第1弾でほぼ使ってしまったから。
山崎監督は「いわゆる『感動する話だよね』というものを第1弾でほとんど使ってしまった。唯一、前作で使いたいと思っていて入れられなかったのが『おばあちゃんのおもいで』なんです。これをメインにして話を作っていこうと思っていたのですが、それだけでは映画にならないので、非常に難しかった」と当時を振り返る。そんななか山崎監督はのび太の結婚前夜を描いた前作の続きの流れで、あるスタッフが「のび太が結婚式当日に逃げちゃったりして……」と提案してくれたのを受けて、「おばあちゃんのおもいで」の話と関連づけるアイデアが思いついたという。
そうして、山崎監督の脚本をもとに八木監督が絵コンテを作成していく作業が始まる。八木監督は「前作は7つのエピソードを繋ぐためにオリジナルの話があったのですが、今回は『おばあちゃんのおもいで』を中心に半分以上がオリジナルになりました」と前作との違いを述べる。その違いはキャラクターのアニメーション描写にも反映されている。
八木監督は「本作はオリジナル要素が強く、登場人物の気持ちの揺らぎが多かった。前作では童心に帰ってもらいたいと思って作ったので、漫画に出てくるポーズや表情をなるべく忠実に大げさに描いたのですが、今作はもう少し心情に踏み込んで、心理描写を繊細に表現しました」と製作意図を語る。人物描写を含め、こだわりの映像は洗練されているが、同時に古き良き温かさも感じられる。八木監督は「懐かしくて新しいもの」というスローガンのもとで「古い時代から見た未来への憧れと、昭和の時代の良さの融合を感じてもらえれば」と笑顔を見せる。
全世界を含めると100億円を超える興行収入を記録するなど、大きな成功を収めた前作。当然、今作への期待も伝わってくると思われるが、山崎監督は「興行というのは運ですから」と苦笑いを浮かべつつ「結果を逆算してモノを作ると、腕が動かなくなる。重圧を感じないようにする能力を身に着けています」と達観しているようだ。一方の八木監督も「興行よりも、前作で多くの方に作品を観ていただけたので、それ以上のクオリティーのものを作らなければという決意が強くなりました」と重圧を力に変えて映画作りに邁進したという。
気が早いようだが、やはり期待されるのは『STAND BY ME ドラえもん』のさらなるシリーズ化だろう。山崎監督は「1作目は仕組みでやれました。2作目は大変でしたが『おばあちゃんのおもいで』というエンジンがあったから、なんとかできた。でも3作目は……」と悩ましい顔を浮かべると、八木監督からは「でも、こういうシリーズものって大体3部作じゃない?」とファンには嬉しい発言も。
さらに、今後のデジタル技術の進歩について山崎監督は「技術というのは特別なものでなくなったときに作り手の真価が問われる。そのとき大切になってくるのはお話や演出の面白さ」と持論を展開。八木監督も、デジタルのすそ野が広がって誰でも作れるようになると、勝負になってくるのは「しっかりと良いモノの判断ができる目を持っているかどうか」と断言する。技術の進歩にしっかりと対応しつつ「良いもの」を見極める目を持つこと。両監督ともに「若者たちの大きな壁にならないといけない。負けないように戦っていきたいですね」と柔和ながらも力強い言葉を残した。(取材・文・撮影:磯部正和)
映画『STAND BY ME ドラえもん 2』は全国公開中