ギフトの看板ブランドである横浜家系ラーメンの「町田商店」。赤く派手な看板がトレードマークだ(記者撮影)

豚骨醤油ベースのスープにモチモチとした中太麺が特徴の横浜家系、山盛りの具材と極太麺で知られる二郎インスパイア系――。どちらも根強い人気を誇るラーメンのジャンルだ。

横浜家系の「町田商店」や二郎インスパイア系の「豚山」を展開するのが、2020年9月に東証マザーズから東証1部へと昇格したギフトだ。売上高は約90億円と外食チェーンとしては中規模ながら、コロナ禍によるダメージが少なく外食業界内からも一目置かれる。田川翔社長にギフトの成長戦略を聞いた。

郊外店は6月時点で回復

外食業界の現状は「厳しい」の一言につきる。10月の既存店売上高は居酒屋大手のワタミで前年同月比65%、ファミレス大手のすかいらーくでも同89%にとどまるなど、マクドナルドや餃子の王将といった一握りのチェーンをのぞき、多くの企業が未だ苦境にあえいでいる。

それに対してギフトは前年同月比96.8%(直営店)。8割を切ったのは同75.6%となった4月だけだ。田川社長は「勝因」が3つあったと話す。

田川社長

「一番大きかったのは郊外を中心としてきた立地戦略だ。直営店の約9割がロードサイドや住宅街の立地だった。それらの店舗は、地元のお客さんや車で立ち寄った人の根強い需要に支えられ、6月にはすでに昨年並みか昨年を超える売り上げにまで回復していた。

2つ目はラーメンの持つ業態特性。滞在時間が短く、少人数で食べて帰ることが多いため、コロナの影響度合いが居酒屋などに比べて小さかった。

3つ目は店外戦略。2019年からデリバリーを数店舗で実験しており、麺が冷めにくい容器の開発などが進んでいた。こうした蓄積のおかげで、4月から宅配対応店を一気に増やすことができた。5月には売り上げの15%が持ち帰りや宅配となり、店内飲食の落ち幅を補ってくれた」

2008年に田川社長が仲間2人と家系ラーメンを開店するに当たって選んだ地は、ブランド名の由来ともなった東京23区外の町田市。その後、神奈川県や都内・山手線外のエリアを中心に出店拡大してきたが、外食の「A級立地」といわれる繁華街の駅前一等地にはあまり店舗を出してこなかった。

町田での成功体験や都心での競合の多さ、地域密着型の店舗作りなどを背景に、住宅街やロードサイドを中心に店舗展開してきた。

コロナ禍ではこうした出店戦略がうまくはまった。渋谷や池袋などにある店舗は、外出自粛の影響で4月に売上高が一時半減したが、郊外の店舗が早い段階で復調したことにより、コロナの影響を最小限に抑えられた。繁華街の駅前を中心に「日高屋」を出店してきたハイデイ日高と比較すると、売上高推移での明暗がはっきりとする。

ギフトの店舗数は2020年7月時点で514店舗。そのうち直営店は108店でFC(フランチャイズ)店が396店となっている。2020年10月期は約75店の純増を見込んでいるが、そのうちFC店が約40店と半分強を占める予定だ。このFC展開を支えるのがギフト独自のシステムである「プロデュース事業」だ。

田川社長

「一般的なFCでは、売り上げの数%をロイヤリティ(手数料・経営指導料)として取ることが多いが、当社のFCではこうした費用を一切取らず、麺やスープの卸売りのみで稼ぐ『プロデュース事業』という戦略を取っている。屋号も、オーナーさんごとに自由に名前をつけてもらうことができるようにしている」

ラーメン好きの消費者の中には、「味が画一的だから」とチェーン店に抵抗感を示す人も多い。この点、ギフトのプロデュース事業ではオーナーが自由に店舗名を付けられるので、チェーン店に対する負のイメージをある程度払拭できるというわけだ。


町田商店で提供されるラーメン。濃厚でクリーミーなスープに、ホウレンソウやノリがついてくるのが特徴(記者撮影)

出店形態は、初期投資が小さくて済む店舗やその地域に詳しいオーナーがいる場合はFC、初期投資のかかる都内ロードサイドは直営で出すなど、一店ごとに綿密な分析を行ったうえで判断しているという。

ギフトの得られる利益額は直営のほうが大きい反面、利益率はコストが少なくて済むFCのほうがよいなど、投資対効果の違いも出店判断の際に考慮する。

北関東や東北が重要エリア

かねて田川社長は、国内1000店舗体制の構築を目標として掲げてきた。ただ、飽和気味ともいわれるラーメン市場で、現状の約500店を倍増させる計画は過剰出店との見方もある。田川社長の考えはコロナ禍の今でも変わっていないのだろうか。

「直営とFCを合わせて2025年をめどに1000店舗とする計画は変えない。西方エリア、東北、北海道などでは、家系というジャンルがまだ浸透していないため十分な勝算がある。出店の難易度は高いが東京や神奈川でも残り150店ほどは家系ラーメンの出店余地があると考えている。

とはいえ、競争環境の激しさを考えると、ラーメン消費量は多いがそこまで店舗数の多くない北関東や東北が、今後の重要エリアになってくる。地方を攻めるうえでは、現地をよく知るFCオーナーさんがカギを握るだろう」

外食業界では多店舗展開したがゆえに、集客力を落とし失敗に至るチェーンが後を絶たないが、田川社長は強気の姿勢を崩さない。これまで同様に家系を中心に出店しつつ、「家系以外のブランドの育成・展開」を図っていくとする。


たがわ・しょう/1982年生まれ。高校を卒業後、横浜家系ラーメン「壱六家」で6年間修業した後、25歳で独立。2008年に町田商店創業(提供:ギフト)

そこで、同社は2018年に「豚山」、2019年に醤油ラーメンの「長岡食堂」という新業態を出店した。住宅街やロードサイドなどを立地としてきた家系ブランドの店舗と異なり、「豚山」では人口の多い山手線内に出店し、「長岡食堂」では駅前を狙うなど、ブランド別に出店戦略を打ち出すことができるようになった。

家系では競合過多のため都心に出しづらいが、「豚山」や「長岡食堂」であれば都心や駅前でも出店余地があるという。出店エリアを分けることで、自社ブランド同士での競合を避けつつ積極出店ができる。

新ブランドを育成・展開するための2つ目の手段は買収だ。ギフトは2015年にコロワイドから訪日客をターゲットとしたラーメン「四天王」事業(大阪市内に2店舗)を、2019年には味噌ラーメンブランドを複数持つ「ラーメン天華」(栃木県を中心に9店舗)をM&Aによって取得している。今後も買収があるのかと尋ねると、含みのある答えが返ってきた。

田川社長

「具体的な話はまだない。ただし、すでにパイを抑えられていることから自社で参入するには障壁が高い、フードコート内の安価なラーメン業態などは検討したい」

「資本系ラーメン」との批判は意に介さず

ギフトでは、スープを店舗で仕込まずに工場から仕入れるセントラルキッチンを導入している。ラーメンファンの間では、そのようなスタイルを「資本系ラーメン」と揶揄する向きもある。しかし、田川社長は意に介さない。

「『資本系』との批判も承知しているが、多店舗展開するうえで大切なのは、味がぶれないこと。日によって、そして誰が作ったかによって、味が大きく左右されるようでは話にならない。個人店を否定するわけではなく、チェーンだからこそできることを引き続きやっていく。

町田にある本店では店内調理を行っているが、セントラルキッチンの店舗のほうが美味しいという声もある。最終的に選ぶのはお客さんだ」

居酒屋などと比べてコロナの影響が比較的小さかったラーメン業態は、大手外食企業などに攻め入られる立場でもある。それらの脅威を感じないのだろうか。

「ラーメン屋をチェーンで展開するハードルは意外と高い。ブランド育成に時間がかかるうえ、低価格競争に持ち込んでも、日高屋さんや幸楽苑さんがすでに市場を押さえてしまっている。

一方、脅威となりうるのはコンビニや食品メーカーが手がける冷凍食品やカップ麺。近年のレベルの高さには目を見張るものがあるし、何より値段が安い。とはいえ、『外食の楽しさ』に対するニーズは今後も絶対になくならないと考えている」

ギフトは2021年10月期も積極出店を行うべく、正社員200人、アルバイト2000人の計2200人を採用する計画だ。9月に行った東証1部への市場変更も、知名度向上と優秀な人材の確保が狙いの1つにある。アフターコロナを見据えた方針はどこまでも強気だ。