コロナウイルスは150以上のタンパク質を模倣する「擬態の達人」だと研究者
自然界には、他の生物や周囲の色などを模倣する擬態生物がいることが知られていますが、ウイルスも宿主の体内にあるタンパク質を模倣して、宿主の免疫系を欺いています。中でも、コロナウイルスは他のウイルスと比べて、特に擬態に優れていることが、新たな研究で判明しました。この発見により、一部の新型コロナウイルス感染症(COVID-19)患者が重症化する原因も確かめられています。
A Sweep of Earth’s Virome Reveals Host-Guided Viral Protein Structural Mimicry and Points to Determinants of Human Disease: Cell Systems
Coronaviruses are masters of mimicry, new study finds
https://phys.org/news/2020-10-coronaviruses-masters-mimicry.html
今回、コロナウイルスがヒトのタンパク質を模倣する優れた性質を持つことを突き止めたのは、コロンビア大学メディカルセンターのウイルス学者であるSagi Shapira氏らの研究チームです。「ウイルスが宿主の免疫系を混乱させるのに使うタンパク質を特定することで、新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)を含む病原体が感染症を引き起こすメカニズムを解明できる」と考えたShapira氏らは、細菌や植物、無脊椎動物や脊椎動物など4045種の生物に感染するウイルス7486種のタンパク質の構造を調べました。
by Zwitterio Cromenale
そして、調査の結果判明した33万7493種類のウイルスタンパク質の構造を、生体分子の3次元構造を蓄積している蛋白質構造データバンクなどのデータベースと照合したところ、構造的模倣の例が600万以上あったことが確かめられました。
Shapira氏は、ウイルスが擬態をするケースがこれほど多く発見されたことについて「擬態は、私たちが想像していた以上に、ウイルスの間で普及した戦略でした。ウイルスのゲノムサイズ、ウイルスの複製方法、ウイルスが感染する対象がどんな生き物なのかにかかわらず、あらゆる種類のウイルスがこの戦略を駆使しています」と述べました。
ウイルスの中でも、特に擬態に優れていたのがコロナウイルスで、複数種のコロナウイルスが合計158種類の模倣タンパク質を共有していることが分かりました。コロナウイルスが模倣するタンパク質の中には、人体で血液の凝固を制御するタンパク質や、免疫システムを構成する補体というタンパク質なども含まれていました。
これまでの研究により、COVID-19の患者には血液の凝固に関する問題が見られることが判明しているほか、「補体の活性化と関係がある黄斑変性症を持つ人は、COVID-19で死亡するリスクが高い」ということも分かっています。
今回確認されたコロナウイルスによる擬態と、COVID-19の症状の関係についてShapira氏は「私たちは、コロナウイルスが体内の免疫をつかさどる補体や血液の凝固に関係するタンパク質を模倣することで、これらのシステムを過活動状態に追い込み、COVID-19患者に見られる病態を引き起こすのではないかと考えました」と述べました。
さらに、Shapira氏は「ウイルスは宿主をだまして利用する方法を既に見つけています。こうしたウイルスを研究することで、ウイルスがどのように細胞の恒常性を乱し、病気を引き起こすのかを明らかにすることが可能です。そして、いつの日か私たちがこの知識を生かしてウイルスに反撃できるようになることが期待されています」と話しました。