映画『コンフィデンスマンJP』空道゙プレミアでの竹内結子さんと三浦春馬さん('19年5月)

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 9月27日、女優の竹内結子さん(享年40)が、亡くなったことがわかった。自殺と見られている。

【写真】映画『コンフィデンスマンJP』で素敵な笑顔だった竹内結子さんと三浦春馬さん

「泣き」の芝居で人々を魅了した竹内結子さん

 今年1月に第二子となる男児を出産していることから、産後うつや育児ノイローゼの可能性も指摘されており、映画『コンフィデンスマンJP』シリーズで共演した三浦春馬さんの自殺も何かしらの影響を与えたかもしれない。確かなのは、彼女の芝居がもう見られないということだ。

 十数年前、雑誌の取材を受け「泣き」が魅力の女優について質問されたとき、筆者は真っ先に彼女の名前を挙げたものだ。ちょうど、韓国ドラマの『冬のソナタ』が日本でもヒットして、ヒロインを演じたチェ・ジウが「涙の女王」などと呼ばれていたが、竹内さんはそれ以前から泣きの芝居に定評があった。「冬ソナ」ブームの前年に公開された主演映画『星に願いを。』と映画『黄泉がえり』のビデオレンタルの宣伝ポスターには、

「泣きたい夜には、竹内結子。」

 というキャッチコピーがつけられたほどだ。その「泣き芝居」はせつなく激しく、それでいて涙を流したぶん、また前を向いていけるような希望も感じさせるものだった。

 また、彼女はジャニーズアイドルとの共演が多かった。

 映画で2度共演した草なぎ剛をはじめ、ドラマでは中居正広(『白い影』TBS系)、堂本剛(『ガッコの先生』TBS系)、木村拓哉(『プライド』フジテレビ系)、長瀬智也(『ムコ殿』フジテレビ系)、山下智久・森田剛(『ランチの女王』フジテレビ系)、松本潤(『夏の恋は虹色に輝く』フジテレビ系)など、枚挙に暇がない。

 彼女は初スキャンダルの相手が共演者のマネージャーだったり、2度の結婚相手がともに共演者だったりと、恋多き女優でもあったが、ジャニーズアイドルとの本格的な熱愛はなかった。あくまでフィクションのなかで、恋に笑い、恋に泣く芝居を繰り広げたのだ。

 なかでも印象深い作品が、中居正広と共演した『白い影』である。主役の中居は天才肌の医師、彼女は母子家庭育ちのナースの役だった。2人は恋におちるが、主人公は不治の病を患っていることを隠したまま、北海道で自殺。 遺書がビデオで残されており、それで真相を知った彼女はやがて、彼の子を産み、彼の名をつける、という物語。白衣が似合う彼女は、医療関係者の役も多かったものだ。

 この作品もそうだったように「泣き」の芝居が得意だった彼女は、生と死をテーマにした作品に起用されることが目立った。

竹内さんが遺してくれたもの

 前出の映画『星に願いを。』は、死んだ恋人と再会する役、同じ年に草なぎと共演した映画『黄泉がえり』も死者の復活が主題だ。草なぎとの再共演となった映画『僕と妻の1778の物語』ではガンで亡くなる役で、彼女のために作家の夫が毎日、短編小説を書き続ける話である。そして、最初の結婚のきっかけとなった映画『いま、会いにゆきます』は、生き返って夫と子供のもとに戻ってくる役だった。

 この結婚の3年後、離婚したあたりから、役の傾向が変化していく。

 敏腕刑事を演じ、映画化もされた『ストロベリーナイト』(フジテレビ系)など、強い女性を演じることが増えたのだ。泣きの芝居が好きな者としては、ちょっとさびしい気もしたが、シングルマザーとなり、当時は私生活で涙を見せることもあったことだろう。

 そんななか、新たな面も見せてくれた。映画『コンフィデンスマンJP ロマンス編』での女詐欺師の役だ。騙し合いを繰り広げた相手は、7月に亡くなった三浦春馬さん。彼はパンフレットで「楽しかった」としてこんな裏話をしている。

「音声は入っていないんですが、実は竹内さんと即興でおふざけの芝居もしていたので、そういった部分でも印象深いです」

 それがどういうものだったのか、ふたりの口から語られることはもうない。

 年を重ねたことで、母親役を演じるようにもなり、NHK大河ドラマ『真田丸』では豊臣秀頼(中川大志)の母・茶々の役だった。そういう機会は今後、ますます増えていったはずだ。

 できれば将来、昨年の朝ドラ『なつぞら』で松嶋菜々子が実現させたような「ヒロインの母親役での里帰り出演」を見たかった。彼女もまた、21年前の『あすか』に主演した朝ドラ女優である。母親役での涙も、素晴らしいものになったことだろう。

 ちなみに、彼女は前出の映画『僕と妻の1778の物語』のパンフレットのなかで、こんな死生観を明かしている。

「(命は)いつかなくなる儚いものかもしれませんが、誰かに何かを遺したいとか、自分のことを憶えておいてもらいたい……そういう気持ちは、ものではない何かを確実に遺せるような気がします」

 死にゆく妻のために短編小説を書き続けた作家の想いを想像しての発言だが、ファンにとっては、彼女が生涯をかけて遺してくれた作品の数々から、ものではない何かを受け取れるのかもしれない。

 今後も再放送や映像ソフトで、彼女の芝居を見て泣くことはできる。そのことにせめてもの感謝をしつつ、冥福を祈りたい。

PROFILE●宝泉 薫(ほうせん・かおる)●作家・芸能評論家。テレビ、映画、ダイエットなどをテーマに執筆。近著に『平成の死』(ベストセラーズ)、『平成「一発屋」見聞録』(言視舎)、『あのアイドルがなぜヌードに』(文藝春秋)などがある。

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