「左手の薬指につけていて欲しい」付き合ってすぐの彼女に男が告げた、衝撃の要求とは
愛しすぎるが故に、相手の全てを独占したい。
最初はほんの少しのつもりだったのに、気付いた頃には過剰になっていく“束縛”。
―行動も、人間関係の自由もすべて奪い、心をも縛りつけてしまいたい。
そんな男に翻弄され、深い闇へと堕ちていった女は…?
◆これまでのあらすじ
彼氏・亮の家に呼び出された詩乃。亮にスマホの中身をチェックされ、Face IDまで登録させられてしまう。
その後突然、亮から帰れと言われてしまい…?
「本当にごめんね。仕事でトラブルが発生して、どうしてもいま片付けないとならないんだ。この埋め合わせは必ずするからね」
亮がそう言ってから1週間も経つのに、相変わらず連絡はスタンプしか返ってこない。詩乃の不安は募っていくばかりだ。
詩乃は自宅のベッドで1人、スマホを握りしめて考える。
―私たち、付き合ってるんだよね…?
亮が言うように、自分の予定はあらかじめ彼に知らせているし、毎日の連絡も欠かしていない。それなのに詩乃は、彼が今どこで何をしているのか全く分からないのだ。
―不安だけど、亮は私のことを好きだって言ってくれてるんだもん。信じて、大切にしなくちゃ。
詩乃は必死に、自分へ言い聞かせる。
普通の恋人同士ならば、こんな一方的な関係はあり得ない。けれどもし、わがままを言って前回みたいなことになったりしたら…。
そんなことを考えると、自分の本当の気持ちを亮に伝える勇気がなくなってしまう。
気付けば何時間もベッドの上でこうしている。すっかり日は沈んでしまい、電気をつけていない部屋は真っ暗だ。
―そういえばあのときも、こうやってベッドに潜り込んで泣いてたなあ。
詩乃は5年前のことを思い返していた。
詩乃が抱える、過去の恋愛のトラウマとは?
それは、5年前のこと。
「しーのちゃん!大好きだよ〜」
「ほ、本当ですか…?」
「も〜、相変わらず自信ないんだから。詩乃ちゃんは世界でいちばん可愛いよ」
詩乃が大学生の頃、初めて彼氏ができた。彼はヒロという名前で、同じゼミに所属する先輩だった。
そんな彼にある日突然、大学のキャンパス内で告白されたのだ。
地味で学校でも目立たない存在だった詩乃と、華やかなサークルに所属するヒロとではあまりにも世界が違いすぎて、最初は何かの冗談かと思った。
詩乃が反応に困っていると「早めに答えが欲しい」とヒロは返事を急ぐ。その言葉に後押しされ、2人はすぐに付き合うことになる。
そして、高校でもほとんど恋愛経験のなかった詩乃は、初めてできた彼氏という存在に舞い上がり、ヒロのことをすぐ好きになった。
しかし付き合いはじめてから、ヒロの優先順位の中で最も高いのは“サークルに参加すること”だと知ったのだ。
毎晩、飲み会に出かけるヒロに不安を抱かずにはいられない。
あるとき詩乃は、大学の近くで飲み会をしているというヒロのことを探しに行った。
どこの店かは分からなかったし、会えるなんて思っていなかったけれど、行ってみたい衝動に駆られたのだ。
―あのとき、探しになんて行かなければ…。
後悔の気持ちが詩乃を襲う。
あの日、詩乃はヒロを見つけてしまった。
賑やかな街を詩乃が1人でフラフラ歩いていると、ヒロが前から歩いてくる。
ーえっ、あれって。
あれほど恋焦がれたヒロの隣には、目を見張るほどの美人がいた。あろうことか、その女性はヒロの左腕に絡み付いていて、見るからに楽しそうだ。
「ヒロ…?」
詩乃がその場に立ち尽くしていると、ヒロが詩乃を見つけ「あっ」と小さくつぶやいた。
「ヒロくん、知ってる子?」
ヒロの隣にいる美女は、詩乃を訝しそうに見つめながら問いかける。するとヒロはこう言い放ったのだ。
「…いや、全然オレの知らない子だよ」
ヒロは、詩乃の存在なんか忘れてしまったかのようにそう言うと、2人は人混みに消えていく。
詩乃には何が起こったか理解できず、ただ茫然とその場に立ち尽くすことしかできなかった。
◆
―なんか、イヤなこと思い出しちゃったな。
もう5年も前のことなのに、昨日のことのように鮮明に思い出せてしまう。
それ以来、恋愛から遠ざかり気味だった詩乃にとって、亮から感じる執着心はむしろ「好きでいてくれている」ことを実感できる。
つまり、多少の束縛をされたほうが安心できるのだ。
そんなことを考えながら、ご飯でも食べようかとベッドから起き上がった瞬間、スマホが鳴った。
詩乃に電話をかけてきたのは…?
―あっ、亮から電話だ!
「もしもし。どうしたの?何かあった?」
「ねえ、詩乃。今から会えない?この前の埋め合わせさせてほしくて。美味しいお店連れていくね」
このタイミングで亮から誘われることほど、嬉しいものはない。詩乃は2つ返事でOKすると、急いで指定されたお店へと向かった。
◆
―わあ、素敵なお店。
亮が連れてきてくれたのは、赤坂にある『ビストロボンファム』。詩乃は素敵なお店の雰囲気に、目をキラキラと輝かせる。
それに、亮の部屋以外の場所でデートをすることは初めてなのだ。詩乃は完全に浮かれていた。
そして2人で食事を終え、デザートを待っていたときのこと。
「ねえ。今日はね、詩乃に渡したいものがあるんだ」
亮は突然そう言って、ポケットから小さなボックスを取り出した。
「えっ?それって…」
詩乃の戸惑う様子なんてお構いなしに、亮はテーブルの上でそっとボックスを開ける。
ボックスの中には、詩乃が予想した通り、キラリと光る小さな指輪が入っていた。
「…えっ、亮?」
まるでプロポーズのようなシチュエーションに、詩乃の心臓はバクバクと音を立て始める。
―さすがに結婚は、早すぎるよね?まだ付き合ったばっかりだし。
混乱して固まっていると、亮が“光の宿っていない目”で詩乃を覗き込んできた。
「詩乃にこれをつけてて欲しいんだ。あ、プロポーズじゃないよ」
「えっ?う、うん…」
「プロポーズじゃない」という言葉に疑問を持ちながらも、亮の雰囲気に飲み込まれ、震える手で指輪を受け取る。
詩乃がどの指にはめようか迷っていると、亮は被せた。
「ちゃんと、左手の薬指につけるんだよ?」
「えっ、どうして…?」
「左手の薬指に指輪をしてたら、男除けになるでしょ?そのために買ってきたんだ。俺以外の人が詩乃ちゃんのことを好きになったら困るから、あらかじめ牽制しておこうと思って。大切にしてね?」
亮は詩乃の手からそっと指輪を取ると、優しく左手の薬指に指輪をはめた。
その瞬間「私のことを、こんなに束縛するほど好きになってくれる人なんて、もういないかもしれない」という気持ちがわいてくる。
―みんな「危ない」だとか言うけど、私は亮をちゃんと大切にしたいな。
詩乃は左手の薬指にはめられた指輪の輝きにうっとりとしながら、そんなことを考えていた。
▶前回:デート前に4時間、彼氏と連絡が取れなくなった。「仕事だった」と言い訳する男に覚えた違和感
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亮へとハマりつつある詩乃を、襲う悲劇とは…?
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