こだわりのスーパーマーケットの裏側は他チェーンと一味も二味も違う(撮影:今井 康一)

インスタグラムやツイッターで「成城石井」を検索すると、投稿が山のように出てくる。特定のスーパーの名前が、ここまでSNSで取り上げられている例はまずないのではないか。新型コロナウイルスで緊急事態宣言が出ていた最中には、こんな声が飛び交っていた。

「ちょっとした贅沢をしたくて」

「家に籠もっているので、ちょっとした贅沢をしたくて成城石井で買ってみた」

この声を裏付けるように、コロナ発生後も成城石井の業績は好調だ。しかも驚くべきは、客単価が大きく上がっていることである。既存店前年比で4月は138.9%、5月は138.8%、6月は120.4%。さすがに客数は減っているが、買う金額は上がっているのである。

なぜ、これほどまでに成城石井は支持されているのか。その答えの1つは、間違いなく品ぞろえが、まるでほかのスーパーとは違うから、だろう。

約30人のバイヤー、約20人の惣菜・スイーツ開発担当者を代表して、総勢11人に話を聞いた拙著『成城石井 世界の果てまで、買い付けに。』にも詳しく書いたが、成城石井のお店に入って、じっくり眺めてみると、すぐにわかる。ほかのスーパーにはまず置いていないものがたくさん置かれているのだ。しかも、ラインナップがカテゴリーごとにハンパない。

例えば、チーズにしても、ウォッシュチーズ、白カビチーズ、フレッシュチーズ、ハードチーズなど、世界のチーズが入っている。紅茶の棚には天井近いところから下のほうまで、これでもかというほどに国内外の逸品が並んでいる。ジャム、醤油、だしなども同様だ。


ほかでは置いていない商品が幅広く大量に並んでいる(撮影:今井 康一、成城店で2019年3月撮影)

野菜や果物の売り場が違うのは、大部分が生産者から直接仕入れる産地直送だからかもしれない。国内でとれたばかりの瑞々しい野菜に加えて、アスパラなど海外から空輸されてきた旬のものもある。

足を延ばして豆腐、納豆、キムチなどの売り場に行ってみると、さりげなく成城石井の名前が入っていたりする。「オリジナル商品」と呼ばれている、成城石井が信頼できるメーカーと共同で作った、一般的にプライベートブランドと呼ばれる商品だ。

お菓子のコーナーに目をやると、明らかに海外製とわかるものが目に入る。直輸入品だが、ほかの店にはない。例えば、チョコレートなどはまとまった数を大量に購入して、日本用の商品にして販売しているからだ。

また、実は和菓子もラインナップが豊富だ。お菓子コーナーには地方の隠れた銘品がずらり。ここにもオリジナル商品がたくさん含まれていたりする。輸入もののイメージが強い成城石井だが、実は和のものも人気なのだ。

さらに成城石井で人気なのが、セントラルキッチンと呼ばれる自社工場で製造された自家製惣菜だ。和食、洋食、中華だけでなく、大ヒット商品「フォー・ガー」など、なんとエスニック料理まである。本場ドイツの製法を今も守る自家製ソーセージは大人気商品の1つだ。


海外から取り寄せた独特な商品が並ぶ(撮影:今井 康一、成城店で2019年3月撮影)

自家製スイーツも、今や成城石井の看板商品ともいわれ、年間120万本以上売れるというプレミアムチーズケーキをはじめ、コーヒーゼリーやプリン、最近ではモーモーチャーチャーなど人気商品がずらりと並ぶ。

ほかにも牛乳、お酒、魚、肉など特徴ある売り場がずらり。また、発売時には行列ができる商品、成城石井ファンが毎年の発表を心待ちにしている商品など、話題には事欠かない。では成城石井は、どうやってこの品ぞろえを実現させているのか。

自前の輸入会社を持ち、バイヤーが世界を飛び回る

問屋や輸入業者に仕入れを委ねてしまい、入ってきた商品を店頭に並べるだけなら、こんな品ぞろえにはならない。成城石井は自分たちで輸入会社を持ち、バイヤーが世界を飛び回り、国内にもアンテナを鋭く立てているから、こんな仕入れができるのだ。

実際、バイヤーはカテゴリーごとに担当を持ち、味、品質、価格のバランスがとれた隠れた優良商品を常に探し続けている。日本中で、世界中で。展示会場に行ったり、マーケットや飲食店を巡ったり、マルシェを回ったり。そして、これぞと思うものがあれば、大胆に仕入れる。

もとより、実は「本当にいいもの」を作っている一流の作り手は、誰にでも売りたいわけではない。これは、世界でも日本でも同じ。商品の価値を知り、理解し、自分たちも認める顧客に売ってほしいと考えているのだ。

だから、バイヤーたちは、お店で売らせてほしいと懸命に頭を下げることになる。そういう「本当にいいもの」をこそ、成城石井は仕入れることを考えているのだ。しかも、できるだけリーズナブルに。


ワインの品ぞろえも多彩かつ豊富だ(撮影:今井 康一、成城店で2019年3月撮影)

バイヤーの所属する商品本部には、精肉、鮮魚、青果、惣菜、菓子、グローサリー、乳日配、酒の8つの課があるが、だんだん部門の縦割りがなくなりつつあるという。例えば、オリーブオイルを買ってくれば、昔なら店頭に並べて売るだけだった。

今は、店舗でも売り、卸でも売り、ネットでも販売するだけでなく、惣菜を自社で製造しているセントラルキッチンの惣菜の調理にも使っていく。ワインバーのLe Bar a Vin 52でも使っていく。

オリーブオイルが1本ずつ瓶詰めされたものを買ってくるのではなく、原料としてドラム缶でどかんと購入してしまう。そうすることで、間に業者をはさまないことに加え、よりコストメリットが出せるようになっている。

最近では安心、安全、美容、健康など、バイイングには付加価値が求められるという。そうしなければ、最先端のニーズに応えられないからだ。

ほかにないものか自分たちで変えられるものを

ここで問われるのが、言うまでもなくバイヤーの力量だ。それこそ、スーパーにはメーカーや卸がたくさん売り込みに来る。それを判断する仕事を、成城石井では本来のバイイングの仕事とは考えていない。自身も元バイヤーである社長の原昭彦氏は筆者の取材でこう語っていた。

「もちろんナショナルブランドの商談もしていますし、それも必要なことです。しかし。私たちがどんなに努力しても、ナショナルブランドの味を変えることはできないでしょう。それ以上のプラスαを追求することも難しい。成城石井だけの限定もできない」

これでは、やはり大量に買う小売業者にスケールメリットが生まれざるをえない。原氏はこう続けた。

「そこで勝負するのではなく、品ぞろえで差をつけたいんです。ほかにないものを扱う。あるいは、自分たちで変えられる商品を買い付けして、すべて売り切る。そうすることによって、ほかとは違う差別化が生み出せると考えているんです」


ほかのスーパーではなかなか見かけない品が多い(撮影:今井 康一、成城店で2019年3月撮影)

成城石井のバイヤーは全員が、店舗経験者だ。まさに現場を知っている。そして担当カテゴリーに対する知識は専門メーカー・商社以上でないと、と伝えられている。そうしないと、買い付けをしても勝てないからだ。

だが、成城石井には卸にはない強みがある。店舗を持っているということだ。売り場に商品を投入したとき、どんな動きを見せるか、すぐにわかる。バイヤーは、販売実績を自分たちで分析できるノウハウも持っている。

実際、売れ行きがいいと1時間で追加注文をかける。逆に、厳しい状況だと見れば、価格戦略を含めて次の対策にすばやく出る。これはニーズが低い、と見れば引き際が早いのも成城石井の特徴だ。成城石井のバイヤーの世界は、甘くないのである。

そして売り場を持っているからこそ、売れるサイズ、売れる値段、売れる味覚、売れるパッケージなどを知っている。まだ都市部では知られていない地方の銘品を扱ったり、オリジナル商品の作り手としてコラボレーションしたりするとき、これが生きてくる。今や、オリジナル商品の開発も、バイヤーの重要な仕事になっている。

熟練バイヤーだからこその独特な目利き

バイヤーの仕事とは、どういうものなのか。実は、単に知識や技術ではないのではないか、という印象的なエピソードを社長の原氏に聞いた。


「海外の展示会に行けば、4000、5000もの出展社があります。おそらく、普通の人が行けば、ただのブースに並んでいるだけのように見えると思います。ところが、なぜか自分にはそこだけ輝いて見えるときがあるんですよ(笑)」

結果として、思わぬものをバイイングしてしまったりするのだ。その1つが、原氏がバイイングした成城石井のスター商品、イタリア・フェラリーニ社のチーズ「パルミジャーノ・レジャーノ」だったりする。

世界に出られない今、彼らの視線は国内に向いており、これから驚くような逸品が出てくるはずだ。バイヤーの神髄は、「本当にいいもの」を仕入れたいという強烈な思いだ。それが、驚くようなアンテナを立たせるのかもしれない。