誤操作を防ぐために考えられたシフトパターン

 AT車の歴史はけっこう古く、フルードカップリング+4段変速を備えた世界初のATは、1939年に登場したGMのオールズモビルのATだった。それ以降、アメリカのビッグ3とボーグワーナー社はATの開発に夢中になり、1950年代にはいまのATの原型、トルクコンバーターと多段プラネタリーギヤという形で落ち着いた。

 当然、初期のATには統一されたシフトパターンはなく、各社ばらばらのパターンで売り出していたが、まず1950年代前半に「R-N-D-L」というパターンが定着。1950年代後半にはPレンジが加わって「P-R-N-D-L」がアメ車のATのスタンダードとなった。

 このパターンになったのは、ひとつには誤操作を防ぐため。むかしのMT車は、駐車時にギヤをバックに入れて駐車ブレーキの補佐するのが慣例だったが、初期のATも「R」に入れることで「P」の代用をしていて、「L」と「R」が隣接しているとシフトミスにつながりやすかった。そのため前進とリバースの間を「N」として、ワンクッションいれて安全対策を施した。

事実上いまは順番を変えることも可能!

 もうひとつは、機械的な理由。ATの特徴、プラネタリーギヤというのは、リングギヤ(外周ギヤ)、プラネタリーギヤ(遊星歯車)、サン(太陽)ギヤ=中央ギヤが組み合わさっていて、3種のギヤすべてが入力・出力が可能な構造になっている。

 そしてそれぞれのギヤを油圧で動かす湿式多板クラッチ、ブレーキ、ワンウェイクラッチで固定したりフリーにしたりすることで変速を行う。

 このギヤの組み合わせを機械的に行うには、一カ所ずつ切り替えていった方が都合がよく、その順番を考えると「P-R-N-D-L」だと都合がよかったというわけだ。

 現在のATは電磁ソレノイドを使った電子制御タイプなので、二カ所以上のギヤを固定・開放するのも容易にできる。そのため「P-R-N-D-L」パターンにとらわれる必要はないのだが、前記のように1950年代からアメリカで普及し、AT後発組のヨーロッパ車や国産車にも「P-R-N-D-L」が取り入れられ、すでに一般化し定着している以上、これから先もあえて違うパターンを採用するメーカー、車種は少ないだろう。