ポストコロナのハリウッド映画制作はどうなる?マスク着用義務化、時差勤務、できるかぎりバーチャルで
ハリウッドが、撮影再開に向けてはじめの第1歩を踏み出した。カリフォルニア州知事ギャヴィン・ニューサムは、先月末にもハリウッド関係者に新型コロナウイルス対策撮影ガイドラインを提出するよう求めていたのだが、今月1日、ようやくそれが完成したのだ。ガイドライン作成を行ったタスクフォースには、メジャースタジオ、テレビ局、プロデューサー、各組合などのメンバーが含まれる。この提案書は、ニューサムだけでなく、ニューヨーク州知事アンドリュー・クオモにも送られた。(Yuki Saruwatari/猿渡由紀)
思ったより時間がかかったのは、それぞれの組合の言い分に耳を傾け、反映させる必要があったためだ。そこをきっちりやらずに焦って再開することには、とりわけ映画俳優組合(SAG-AFTRA)が反対していた。すでにニュージーランドやヨーロッパなどでは映画やテレビの撮影が許可されているが、それらのロケに参加する俳優らにも、まずは組合に許可を取ることを義務付けており、勝手な行動は許さないという姿勢を貫いている。組合員を守ることこそ、組合の役目。ただし、健康にばかり配慮してゴネ続けるのも、収入が途絶えている組合員のためにならず、両方のバランスを取る必要がある。
実際、タスクフォースが作成した22ページの提案書には、あらゆる職業の人たちに対する配慮が見られた。これまで噂されていた対策の中には、たとえば、現場の人数を減らすために監督が自分でカメラを回すとか、ヘア、メイクは俳優が自分でやるようにするとか、衣装はできるだけ俳優が自分で着るようにするといったようなことがあったが、それでは撮影監督、ヘアスタイリスト、メイクアップアーティスト、衣装担当者が不要になってしまう。そうならないために、この提案書では、機材はできるかぎり使い回しをせず、する場合は毎回きちんと消毒をする、ヘア担当者やメイク担当者はマスク、ガウンを着用し、最小限の人数しかいない環境で作業を行うという指示がなされている。
ほかに、通常の撮影ではみんなが同じ時間に終了するものだが、大勢が一度に動くのを防ぐため、始業時間、終業時間をずらすことが提案されている。ランチ時間も同様だ。また、セットで動物を使う場合、その動物には、担当者以外の人が触れないよう徹底する。マスクは現場の人全員に義務付けられ、無料で提供されなければならない。ただし、手袋は間違った安心感を与える危険があるため奨励はせず、手洗いを頻繁にすることが勧められている。
ロケーション撮影を行う場合、ロケ場所選びの基準には、まめに手を洗いやすいか、雨が降った時に逃げ込むテントを密になりすぎないよう設置できるゆとりがあるかなども含めるべきだと提言。ロケハンはできるかぎりバーチャルで。同じように、オーディションも基本はバーチャルで行い、本人に来てもらう場合は、一度に一人の俳優にかぎり、俳優と審査する人の間にはアクリル板を設置する。
セットにはコロナ対策専門家が常駐。キャスト、クルーの定期的なコロナ検査は、言うまでもないこと。ロサンゼルスでは、すでに1日3万人以上検査ができる環境が整っており、症状がなくても検査を受けるよう呼び掛けているほどなので、物理的にこれは問題ない。体調が悪くなったクルーには、休んでいる間も給料を払うことを義務付ける。
今後は、州知事がこれらの提案を土台に医療のエキスパートらのアドバイスをもらい、その上で正式なガイドラインを発表する流れだ。だが、実際にロサンゼルスでカメラが回り始めるのがいつになるのかは、今のところ不明。カリフォルニア全体ではコロナが落ち着きを見せてきたものの、ロサンゼルスは州内の感染者の半分を出している。先月、ニューサムが撮影再開への姿勢を見せた時も、ほかの郡は今すぐにでも始めたいが、ロサンゼルス郡はもう少し後になるだろうと言っていた。そこへ来て、今、ミネアポリスで黒人男性が白人警察に殺された事件をきっかけに、ロサンゼルスでも連日、大規模な抗議デモが起きており、これでまた感染者が増えるのではと危惧されているのである。第2歩、そして3歩目を踏み出せる日は、果たしていつになるのだろうか。