飲食店からの恨み節も聞こえてきそうな帰宅を促すパトロール(歌舞伎町)

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「“超濃厚接触”の仕事なので、コロナはもちろん怖いですよ。でも、やらないと食べていけないし、小学2年生の子どもを路頭に迷わせてしまう。 だから命をかけてやっています。一般的な仕事の就活も始めたんですが、不況ですから……」

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 そう苦悩を告白するのは、東京の30代出張ヘルス嬢だが、コロナ騒動の中も、営業を続けざるをえないのは、性風俗業の女性たちだけではない。

なぜ私たちだけが悪者に?

 新型コロナウイルスが蔓延し、「緊急事態宣言」で不要不急の外出を自粛する要請が出ているなか、東京都では飲食店の営業時間は20時まで。アルコールの提供は19時までとする要請も出た。

 繁華街の新宿や渋谷、新橋などは都庁の職員などの巡回もあって閑散としているが、郊外では遅くまで“闇営業”を続けている店もある。

 あるガールズバーの店長は、客の手や備品の消毒に余念がない様子で、距離も少し保ちつつ、こう説明した。

「こちらも感染するリスクがあるし、お客さんもそうですが、お互いに自己責任でやっています。やはり休業補償がきちんと支払われるのか信じられないし、テナント代や従業員もいますからね」

 マスクをしていない大学生の女性従業員は、

「大学も休みのままだから、北陸の故郷に帰省しようと思ったけど、親から“いまは帰ってくるな”って言われたんですよ。田舎は世間体もありますから。東京にいても暇だし、お金もないから働くしか」

 20代の女性従業員はこう不公平感を訴えた。

「せっかくこの仕事に就いたばかりなので、辞められないですよ。なぜ私たちだけが悪者にならなければいけないの? サラリーマンはあれだけ満員電車に乗っているし、会社に行ってコロナを感染させているかもしれない。彼らも悪者なのに、おかしいですよ」

 近くで営業しているバーの経営者もこう主張する。

「うちはきちんと確定申告しているし、月々の売り上げも出しているので、国や都の休業要請を受け入れたい気持ちはあります。でも、休業補償の審査に通るのか、いつそれが支給されるのか心配です」

 都は休業に協力した店に対して、1店舗50万円、2店舗以上は100万円の補償をすると発表。

 政府も国民1人につき10万円を支払うことに決定したが、支給は5月から6月になるともいわれている。

できれは50万円もらって休みたい

 バーの経営者が続ける。

「2か月先に支給されるとしても、家賃などの固定費もあるから、そこまでもたない。店を閉め続けた後にもし補償金が支払われなかったら、もうつぶれるしかありません。

 だから日銭が欲しいし、売り上げは半分以下ですけど、自分の食いぶちは自分で稼ぎますよ。1日に1万円でも売り上げたいという気持ちでやっていますね」

 新宿・歌舞伎町のホストクラブはいったん休業したあと、一部で営業を再開したという。常連の女性客が説明する。

「客の間でも営業には反対が7割、賛成が3割の印象です。賛成者のほとんどは性風俗店の従業員なので、休業していない業種の客が営業を望んでいるという悪循環です」

 一方、東京のすぐ隣の千葉はどんな状況なのか─。

 千葉県では飲食店の自粛要請はしていなかったが、明かりを消して営業している市川市のスナックに入ると、

「看板の電気をつけて大っぴらに営業していると、“非国民”って言われそうな雰囲気だからね。あなたが今日、最初の客だよ」

 と店主。そこから現状に対するボヤキが始まった。

「川を越えた東京は休業する店には50万円支払うようだから、いいよねぇ。できれば、50万円をもらって休みたいもんだよ。

 4月の売り上げは8割減ぐらいになりそうだから、アルバイトの女性は全員、休んでもらっている。幸いなことに、みんな本業を持っている子だから、よかったですよ」

 思い切って休業するのも選択肢のひとつだと思うが、「休業要請するならば補償しろ! と言いたい。安倍首相は好きだったけれど、あんな(星野源との)動画を見せて、カッコつけです! 優雅に紅茶を飲んで、犬と戯れているときじゃないだろう! 呑気すぎるよね」

 と、ご立腹だった。

閉めるか開けるか、せめぎあいの毎日

 市川市の居酒屋のオーナーは、近隣の飲食店と毎日のように情報交換をしているそう。

「うちは休業要請の対象外ですけど、みなさんドキドキしながら営業している状態です。市川は休業補償に20万円出るという噂が出ているんだけど、税金払っているんだから、安倍さん守って! と言いたいです」

 翌日、市川市では20万円の補償内容が発表されたが、このオーナーの苦悩は続く。

「営業をしているだけで犯罪者扱いされ、一国民として申し訳ない気持ちもあるけど、休んでも誰かがご飯を食べさせてくれるわけではない。店を閉めるかどうか、毎日がせめぎ合いの日々です」

 そうした後ろめたさに、こっそり営業している店も多いが、都内のあるスナックは堂々と看板の明かりをともして営業していた。ママが営業のモットーを語る。

「私は1度も結婚せずに42年間、水商売一筋でね。だけど、同伴出勤はしない、アフターも行かない。枕営業はいっさいしない、パトロンも持たないでやってきたの。妙な誘いをかけてくる客がいると“あなたはもう来ないで!”と追い出すの。だから、明かりをつけてないと、お客さんは来ないのよ」

 しかし、さすがに「緊急事態宣言」が出ると3日ほど店を休み、再開するか悩んだというママ。

「これまでも国にも、男にも頼らないで生きてきたんだから、自力で生きていく姿勢を、貫き通そうと決めたの。

 後ろ指をさされていますけど、その人が助けてくれるわけではないでしょう。営業することは違法じゃなくて、あくまで要請ですからね。拒否する選択肢だってあるはず。“開けといてくれて、ありがとう”って言ってくれるお客さんもいるの。水商売冥利に尽きるわ。涙が出るほど、ありがたいですよ」

 どの業種や店舗も、日々の収入を得るために、まさに命がけでコロナと闘っている。

 彼女たちの主張をきちんと受け止め即効性のある対策も立てないと、コロナが終息した後も、街に活気が戻らなくなってしまう。