佐藤健「彼はもう絵になることしかできないんだよ」と言いたくなる“絵になる俳優”
技術も演技も完璧に決める演劇界の羽生結弦
「恋はつづくよどこまでも」(TBS系)の熱がなかなか引かない。コロナウイルスで熱が出るのは避けたいが「恋つづ」熱ならいくらでもうなされたい。本日放送された「恋はつづくよどこまでも胸キュン!ダイジェスト」で再燃。放送前についつい配信で1〜10話のディレクターズカット版を見てしまった。
このドラマの人気は、ヒロイン七瀬(上白石萌音)が恋するエリート医師・天堂を演じる佐藤健がこれ以上、理想的な人物はいないというくらいの、恋愛ものにおける究極の恋人を演じてみせたからである。天堂先生は、仕事はできるし顔もいいが、「魔王」と呼ばれる食えない人物だった。ところが勇者・七瀬の不器用なアプローチに次第に心の鎧を溶かして最後はこの上ないハッピーエンドを迎える。
ラブストーリーのロマン度を高めていた、エレガントなコート
このドラマ、病院が舞台の現代劇だが、勇者が魔王を倒すという例えのもと、七瀬はときどき勇者の格好をするイメージシーンが出てきた。天堂先生はとくに「魔王」の格好はしない。だが病院で着ている白衣と私服のコートが魔王のマントのように見えなくもない。オン(病院)でもオフ(外出先)でも常に長い裾を翻して颯爽と歩く姿が「魔王」を思わせるという演出だったかは定かではないが、基本的にラインがエレガントなコートばかり選んでお召しで、それがまたラブストーリーのロマン度を高めていたと思う。しかも各回、違うコートで、冬が舞台のドラマに楽しみを与えてくれた。
6話では一泊の出張でコートを2着着替えているセレブさを発揮したが、最終回では日替わりとはいえ5着もコートを着替えていて、いったいどういうサービスかと思ったほど。雨用の撥水コートやスプリングコートまで。極めつけは空港で指輪を七瀬に贈り「俺と結婚しろ」とプロポーズする時の金ボタンのコート。魔王が王子に変身したかのように見えた。そして、七瀬が留学して戻ってきたとき、それまでダッフルコートばかり着ていた彼女がハイネックで大人のトレンチコートを着て、魔王に近づいて見えるところも興味深いのである。
恋愛のはじまりと成就の流れ以外にそんなことまで楽しめた「恋つづ」。近年、恋愛ドラマは求められていないと言われ、医療ものと刑事ものが増加していたなかで、佐藤健によって、相手役がとことん素敵であれば、恋愛ドラマは必要とされることを示したといえるだろう。最終回の「俺はもうおまえをかわいがることしかできないんだよ」という恋愛ドラマ史に残る名セリフをさらりと言い切った佐藤健。この先、この恋愛演技を超える俳優はなかなか表れないに違いない。
佐藤健が恋愛ドラマでこんなにも活躍することになるきっかけは、朝ドラ「半分、青い。」(NHK/18年)であろう。主人公(永野芽郁)の幼馴染で、ソウルメイトのような関係ながら、一度はほかの女性と結婚するも、最終的には主人公と結ばれるという波乱万丈のドラマで、運命の相手を演じてファンを増やした。
そのとき、本人はインタビューで、(近年は映画出演が多く)さわやかな朝の15分であり、テレビドラマを代表するドラマというイメージがある朝ドラに自分が馴染むか不安だったというようなことを語っていた。が「いざやってみると、距離感が近くなった気がします」(スポニチアネックス/18年4月15日配信)とも言っていて、実際、さわやかな朝の15分をさわやかにしてくれたし、主人公とのやりとりに常にドキドキさせてくれた。
劇中、タジオという、伝説の名画「ヴェニスに死す」(71年)の美少年に例えられるエピソードがあるのだが、この美少年は当時の少女漫画にたぶんに影響を与え、例えば、「翔んで埼玉」が人気の魔夜峰央の「パタリロ!」にもタジオを演じた俳優ビョルン・アンドレセンを意識したビョルン&アンドレセンというキャラがいる。「半分、青い。」の佐藤健は、この世界中が見惚れたタジオの雰囲気に接近して見えた。今夏、最終章が公開になる映画「るろうに剣心」シリーズ(12年〜)の修羅の道を歩む主人公のイメージがすっかり定着していたので、こういう甘さのある役もやっぱりいいなあと思った。
妄想を膨らまさせる、伏し目がちで斜に構えた仕草
朝ドラの前に、映画「8年越しの花嫁 奇跡の実話」(17年)で8年間、病と闘う恋人(土屋太鳳)に尽くし続ける献身的な役を演じていて、このときも佐藤健演じる青年のひたむきな愛情が、愛し愛されることのかけがえのなさを感じさせてくれた。「半分、青い。」も結婚してもけっきょく幼馴染を忘れられない役で、「恋つづ」は「俺はもうおまえをかわいがることしかできないんだよ」というほど激しく人を愛してしまう役、佐藤健は一途な役が似合うのだと思う。伏し目がちで斜に構えた仕草もよくするのは、一途になり過ぎるととめどないため懸命に制御しているに違いないと妄想してしまう。
「恋つづダイジェスト」放送の前日「徹子の部屋」(テレビ朝日系)で「45年目傑作選SP」に佐藤健の出演回が2回分放送されたのを見た。12年4月2日放送回では、徹子の部屋の独特の雰囲気に緊張するからと、やはり伏し目がちでぽそぽそしゃべっていたら「物静か」と徹子に突っ込まれ、「大丈夫です。そのうち慣れるから」と言われ、じょじょに明るいしゃべり方になっていくところが初々しかった。
そのときは白いシャツに細長いリボンをして、ニットのカーディガンをお召しで、やっぱりエレガンス。その後、16年5月19日放送回では、髪を短髪にして猫を抱いて登場。映画「世界から猫が消えたなら」(16年)の宣伝だったのだと思うが、アメショーがごくごく自然に佐藤のそばに座っているところがまた絵になるのであった。
「彼はもう絵になることしかできないんだよ」と言いたくなる、佐藤健は絵になる俳優である。
「恋つづダイジェスト」。21日にも第2弾が放送される。まだまだ熱い。
(文/木俣冬、イラスト/おうか)