柔道整復師が断言「慢性的な疲れに対して強いマッサージは逆効果」
※本稿は酒井慎太郎『絶対に疲れない体をつくる関節ストレッチ』(KADOKAWA)を再編集したものです。
■マッサージを何回受けても根本的改善にはならない
疲労対策としてマッサージ店に通う人をよく見かけますが、いくらマッサージを受けても慢性疲労は解消しません。
冷静に考えれば、マッサージを何回受けても疲れがすぐにぶり返すからこそ、定期的に店へ足を運んでいるのではないでしょうか? それがなによりも、問題が根本的に解決していない証になっているはずです。
なかには、1〜2回のマッサージで体が楽になったケースもあるでしょう。それは、感じていた疲れが主に筋肉レベルの一過性の疲れであったため、マッサージがたまたま功を奏しただけのことです。つまり、マッサージで解消できるのは、一時的な筋肉疲労や筋肉痛などの「筋肉レベルでの疲労」だけということ。問題が筋肉レベルで済まされない疲労=「関節トラブルに端を発している慢性疲労」の場合、マッサージをいくら受けても、ほとんど効果は得られないのです。
■マッサージが効かないのは「関節異常」のサイン
それにもかかわらず、「弱いマッサージだから効かないんだ」と誤解している人が、いまだに多いのが実情です。「マッサージが効かない」あるいは「マッサージで楽になっても、すぐにまた疲れてしまう」という場合は、関節異常が起こっているサインと受け取るべきです。
この点を理解せず、強いマッサージを安易に受けてしまうと、筋肉組織を傷つけて軽い炎症を招く可能性があります。さらに、硬直した筋肉を強く押し込むことで、奥にある関節を間違った方向へ固まらせてしまうリスクまであります。
■マッサージは優しく10分程度で
「慢性疲労に対して、強いマッサージは厳禁」です。マッサージは、少し物足りないぐらいのところで切り上げましょう。マッサージ店で施術を受けるにしても、自分の手でマッサージするにしても、「なでるくらいの力加減で10分程度」でじゅうぶんです。ソフトタッチのマッサージでも、筋肉に対するマッサージ効果は発揮されます。重い荷物を運んで疲れたときや、休日にスポーツをしたために張りを感じるときなどは、この目安に沿ってマッサージを活用するのもいいと思います。
しかし、この目安を超えたマッサージとなれば、受けても意味がないどころか、断るのが正解です。マッサージよりも、後に紹介する「関節ストレッチ」を行うべきと言えます。
■筋肉量を増やしても疲れにくくはならない
筋肉と言えば、近年は筋トレがブームになっています。疲労対策として行う人も少なくないようです。ただし、疲労との関連では誤解されていることが多いので、注意が必要です。
まず、疲労対策に筋トレをする根拠として、「筋力がないから疲れるのだろう」「筋肉がきちんとつけば疲れも吹っ飛ぶに違いない」という思い込みがあるようですが、その根拠は誤りです。筋トレが慢性疲労の切り札になるならば、一般的に筋肉がつきにくい高齢者や女性はあきらめざるを得ませんが、そんなことはありません。
また、筋力があれば疲れと無縁でいられるのなら、スポーツ選手たちが悩みを抱えることはないはずですが、実際は違います。私がオフィシャルメディカルアドバイザーを務めている千葉ロッテマリーンズの選手たち。プロボクシングの現世界チャンピオン・井上尚弥選手や、元世界チャンピオン・内藤大助さんなど、究極とも言える筋肉を持つ多数のアスリートたち。実際に私が治療やアドバイスをしたアスリートたちが、プロ・アマを問わず、疲労や腰痛・首痛などの関節痛と闘っていました。
さらに、筋肉の少ない人は必ず疲れやすいのかと言えば、これもまた間違っています。たとえ筋肉量が少なくても、慢性疲労と無縁の人はたくさんいます。
そして実は、あなたにもそんな時代があったのです。小学生時代のあなたは、現在よりも筋肉量が少なかったはずです。もちろん、体格も小さかったわけですが、強豪のスポーツクラブなどに所属していた人でない限り、熱心に筋トレなどしていなかったでしょう。それでも、「なにをしたって疲れてしまう」「ひと晩眠っても疲れが抜けない」ということはなかったと思います。
要するに、慢性疲労を解消するうえで、筋トレをして筋肉量を増やす必要はないということです。
■意外と知られていない“筋トレの落とし穴”
加えて、現時点で慢性疲労や関節痛を抱えている人が筋トレを行うと、さらなる故障を呼び、つらい症状が悪化する確率のほうが高いと言えます。
例えば、デスクワークで背中から腰にかけての疲れを感じている人、あるいはもともと腰痛持ちの人が、「腰周りの筋トレで対抗することが大事」と誤解し、背筋や腹筋を鍛え始めたとしましょう。デスクワークなどでいつも前かがみの姿勢でいると、比較的初期に、まさしく背中〜腰にかけての脊柱起立筋をはじめとした筋肉に、疲れや痛みが現れます。
これは、冒頭でお話しした、軽いマッサージで改善する「筋肉レベルの問題」で、正式には筋・筋膜性腰痛と呼ばれています。腰痛の“入口”もこの筋・筋膜性腰痛で、ひとことで言えば筋肉の疲労蓄積によって起こるものです。
この状態で腹筋や背筋の筋トレを行えば、累積疲労を増やし、状態の悪化を自ら後押しするようなものです。例えば背筋の筋トレなら、腰や背骨(脊椎)の関節に過剰な負荷がかかり、関節トラブルを促進させることにもなります。一方の腹筋トレーニングのほうは、力を込めて前かがみになる機会をわざわざ増やす運動です。そのため、背骨の骨(椎骨)と骨の間でクッション機能を果たしている椎間板への圧を高めることになり、椎間板ヘルニアという疾患を招きます。
筋トレにはこのように、「慢性疲労や関節痛がある人にとって、逆効果になることが多い」という“落とし穴”があることを覚えておいてください。
■前傾姿勢の多い人に効く「壁オットセイストレッチ」
そこで、マッサージや筋トレの代わりに、ぜひお勧めしたいストレッチが、「壁オットセイストレッチ」です。仕事中でも、すぐに行うことができます。
オフィスで仕事をしていると、ついつい前傾姿勢を取りがちです。パソコン作業が仕事の中心になっている人ならなおさらで、ほかにも車の運転時間が長い人、前かがみで荷物を上げ下げしている人なども当てはまります。そして、普段からこのように前かがみになる習慣がある人では、腰の骨である腰椎に「前方へ体重をかける癖」がついてしまっています。つまり、「前方重心の体になっている」ということです。
壁オットセイストレッチでは、そんな前かがみの姿勢とは正反対のポーズを取ることで、多大なプラス効果をもたらします。
■本来の背骨のカーブを取り戻す
とりわけ注目すべきは、前かがみの姿勢で前方へカーブしがちな腰椎を、後方へ引き戻す効果です。継続していると、腰椎はもちろん、背骨全体の本来のカーブ構造が再構築されていきます。そして、こうした動きをすることによって、腰椎の柔軟性が養われ、前方重心の癖が解消されます。その結果、理想的な荷重バランス=「後方寄りの重心」のかけ方が自然とできるようになり、非常に疲れにくい体をつくることができるのです。
また、これらの相乗効果によって、従来は前方ばかりにかかっていた負荷がうまく分散されるようになるため、椎間板ヘルニアの予防にもなります。
さらに言うと、腰〜背中にかけての筋肉にも、大きなメリットがあります。前かがみの姿勢を続けていると、腰〜背中にかけて走っている筋肉=脊柱起立筋が引っ張られ続けて、過度な緊張を強いられます。そして、この筋肉の下端は腰の仙骨という骨に付着しているので、前傾姿勢の継続によって腰周りの筋肉が硬直し、腰の筋肉痛(筋・筋膜性腰痛)の原因になります。
しかし、壁オットセイストレッチをすれば、脊柱起立筋は「いつもとは逆の刺激」によってほぐされることになります。そのため、軽度な腰のだるさ・張り・筋肉痛程度なら、抜群の効果を発揮します。このストレッチを行うだけで、だいぶ楽になるはずです。
オットセイストレッチはもともと、床に寝て行うスタイルのものでした。それをアレンジして、有効性の高さはそのままに、壁さえあればいつでもどこででも行えるようにしたのが、「壁オットセイストレッチ」なのです。ぜひ、試してみてください。
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酒井 慎太郎(さかい・しんたろう)
さかいクリニックグループ代表
柔道整復師。中央医療学園特別講師。千葉ロッテマリーンズ公式メディカルアドバイザー、中央医療学園特別講師、TBSラジオ『大沢悠里のゆうゆうワイド 土曜日版』レギュラーコメンター。腰痛やスポーツ障害の疾患およびパフォーマンス向上のための施術を得意とする。解剖実習をもとに考案した「関節包内矯正」を中心に、100万人に及ぶ治療実績。著書は100冊以上に及び、「神の手を持つ治療家」として紹介されるなど、マスコミ出演も多数。
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(さかいクリニックグループ代表 酒井 慎太郎)