帰ってきた「ローラアシュレイ」新店戦略の焦点
2年ぶりに日本で再出店することになった「ローラ アシュレイ」。クラシックな小花柄のデザインで知られるライフスタイルブランドだ(写真:ワールド)
クラシックな小花柄のデザインで知られる、イギリス発のライフスタイルブランド「ローラ アシュレイ」が、アパレル大手のワールドグループの運営で2020年夏にも日本で再出発する。
新たに店舗運営を担うのは、ワールド傘下で服飾雑貨や生活雑貨を中心とした事業開発などを行うワールドライフスタイルクリエーション。同社は、ローラアシュレイの国内でのマスターライセンスを持つ伊藤忠商事とサブライセンス契約を結び、リアル店舗とネット通販、卸売事業の展開を始める。
2020年8月ごろから出店を進め、5年後までに約30店体制へと拡大させる方針だ。
中高年女性を中心に根強いファン
ワールドライフスタイルクリエーションの西川信一社長は「衣・食・住と生活全般で商品を提案できることがローラアシュレイの強み。ブランドのポジショニングやクオリティーをさらに上げていきたい」と意気込む。
ローラアシュレイは、国内でも中高年女性を中心に根強いファンを抱える。
「歓喜!」、「嬉しすぎる」――。2019年11月、ワールドがローラアシュレイの再出店に関するリリースを出したところ、SNS上では長年のファンとみられるユーザーがコメントを続々と投稿。ワールドにも、具体的な出店時期などを確認する問い合わせの電話が殺到したという。
ローラアシュレイが突然、日本の店舗撤退を発表したのは2018年2月のこと。日本事業の運営元であったイオン子会社が同年をもって事業を終了し、100店以上の店舗を一気に撤退させたことは業界内で大きなニュースとなった。
1953年にロンドンで誕生したローラアシュレイは現在、ヨーロッパやアメリカなど29カ国で店舗を展開する。日本では1985年に東京・銀座に第1号店を出し、翌1986年にはイオンとイギリス本国のローラアシュレイが共同出資した合弁会社「ローラアシュレイジャパン」を設立。花柄のインテリア雑貨や衣料品で独自の世界観を発信し、多くのファンを獲得した。
ただ、2010年代半ばからは業績不振が目立ち始めた。店舗拡大により売上高は100億円前後を維持していたとみられるが、ローラアシュレイジャパンの決算公告によると、2014年度以降は4期連続の最終赤字に。2017年度は債務超過に陥った。赤字脱却の兆しが見えない中、イオングループ全体の収益性向上に向けた事業整理の一環で、2018年秋をもって事業を終了する運びとなった。
無尽蔵に広がる出店チャネルが重荷に
熱心なファンがいたにもかかわらず、なぜ業績不振に陥ったのか。複数の業界関係者は「過度な拡大路線」が失敗の要因だったと指摘する。
事業終了直前のローラアシュレイの国内店舗網を確認すると、目立つのが出店チャネルの多さだ。特に2000年代以降はイオングループがショッピングセンター開発を加速させたことに伴い、イオンモールへの出店が急増した。
固定ファンの支持が厚かったが、店舗の急拡大が裏目に出た(写真:ワールド)
路面店から百貨店、駅ビル、ショッピングモールと無尽蔵に出店先が広がり、店舗数は2000年度に66店舗だったのが、2008年度以降は100店舗を突破。ピーク時には約140店(2014年度、台湾・香港を含む)に達した。
もともと固定ファンの支持が厚く、トレンドに合わせた商品提案などをほとんど行わないブランドだっただけに、需要のないエリアに出店した店舗は売り上げが苦戦。その結果、固定費がかさんで収益を圧迫したとみられる。
店舗の急拡大はブランド戦略の面でも裏目に出た。「郊外のモールに出店が増えてから、上品な英国ブランドにチープなイメージが付いた。安価な商品が増え、ブランドの立ち位置もぶれてしまっていた」(別の大手雑貨小売店幹部)。ブランドイメージの希薄化により、一部でファン離れも引き起こすこととなった。
イオンによる事業終了を受け、2018年8月に伊藤忠が国内での独占輸入販売権とマスターライセンスを取得。その後、伊藤忠は小売事業を担えるパートナー企業を探し、ワールドグループとの合意に至った。アパレルを主力とするワールドはグループ内で「イッツデモ」や「ワンズテラス」など服飾雑貨や生活雑貨を中心に取り扱う小売店も展開しており、アパレル以外への事業領域の拡大を進める狙いだ。
大まかな商品構成は、およそ半分がインテリアや生活雑貨、残りの半分がアパレルと服飾雑貨のファッション関連商材となる見通し。約620万人のワールドグループの会員基盤や、ワールドが強みとするアパレルの企画・製造のノウハウも生かし、5年後に売上高30億円を目指すという。
イオン傘下時代の約100億円の売上高と比べると控えめな数字とも受け取れるが、西川社長は「無理してマスの層を追うことはしない」と強調する。
再出発の知らせに元スタッフも再結集
出店先としては、中高年女性など従来の顧客基盤を想定して都市部の百貨店を中心とする予定。イギリスの自然をベースとした上品なブランドの世界観に共鳴するファンを開拓し、ニッチながら確実な需要を狙っていく。商品の品質をより高めて、以前と比べ価格帯もやや上げるようだ。
「事業を始めるとどうしても規模を広げたくなるが、人口減少の中で今は量を求めて成功する時代ではない。本当にローラアシュレイが好きな人をターゲットに、良い商品と良い店舗づくりを徹底したい」(西川社長)。
再出店の知らせに反応したのはファンだけでない。事業終了に伴い、他社へ転職するなどしていた元スタッフたちも同様だった。
今回ワールドが再出店を行うことが決まり、ローラアシュレイジャパン時代にバイヤーを務めた女性社員2人が立ち上げメンバーに加わった。店長経験を持つ複数の元スタッフも集まる見通しだという。商品開発や出店戦略などの方向性は一から練り直すが、西川社長は「顧客やスタッフを含め、ローラアシュレイの価値観や世界観に共感する人が多数いる中でスタートを切れるのは心強い」と語る。
もちろん、集客力の鈍化が叫ばれて久しい百貨店で、新たなファンを獲得しながら一定の売上高を確保していくことは容易ではない。イギリス本国のローラアシュレイも、ネット通販への対応の遅れなどにより売り上げ苦戦が続いている。
ライフスタイルや価値観が多様化する現代では、トレンド対応型ではなく、独自の世界観を発信して共鳴するファンを増やすブランドが存在感を高めつつある。老舗ブランドの国内での再出店は、独自性をどこまで追求することができるかがカギを握ることになりそうだ。