新駅舎に移転「銀座線渋谷駅」は便利になったか
東京メトロ銀座線渋谷駅の新ホーム。M型のアーチ屋根が特徴だ(撮影:尾形文繁)
東京メトロは1月3日までに銀座線渋谷駅の駅移設工事を完了し、同日5時01分の浅草行き始発列車から新駅舎の使用をスタートした。
新駅舎の供用開始式典には東京メトロの山村明義社長も姿を見せ、満面の笑みで始発列車を見送った。1927(昭和2)年に東洋唯一の地下鉄としての第一歩を踏み出した銀座線、それから約10年後に開業した渋谷駅。その駅は2020年に新しく生まれ変わり、新たに82年目の歴史を刻み始めた。
白とオレンジの新駅舎
新しくできあがった新駅舎を堪能するなら、明治通りに面した渋谷ヒカリエ側の「明治通り方面改札」から入ることをお勧めしたい。この出入口は、駅の移設に伴って設置されたまったく新しい改札口だからだ。
新たに開設された東京メトロ銀座線渋谷駅の明治通り方面改札(撮影:尾形文繁)
新駅舎はここから明治通りの真上を横切るようにJR渋谷駅側に延びる。駅舎と線路を支える7本の橋脚は、太くがっしりした3本の橋脚に変わった。そのすぐ間近に改札があり、「銀座線 渋谷駅」の文字が刻まれている。
改札を通過した先に見えるのは、ミルクのように光沢のある「白」の駅舎内と、そこに映える銀座線のラインカラー「オレンジ」のコントラストだ。空間をきれいに切り取ったかのような白い壁は、これまでの東京メトロの駅になかった雰囲気だ。
駅は3層構造で、改札階とホーム階の間には将来的に渋谷ヒカリエの2階に直結する改札口が設けられる予定のフロアがある。エスカレーターは改札階からホーム階まで一気につながる。今はエスカレーターのほかは階段だけだが、五輪開催前までにエレベーターも稼働する予定だ。
ホーム階に着くと、その変貌ぶりに驚かされる。ホームの全長は102m。そこに緩やかに湾曲する45本の“M型鋼”が等間隔に並び、柱のない広々としたホーム空間を支える屋根を形作っている。
これによってホーム幅を6mから12mの2倍に拡幅し、ホームと線路の配置も、乗車・降車用に分かれた相対式から、線路を挟んだ「島式」に変更する空間を確保した。線路とホームを含めた駅の全幅は23〜28m、ホーム床から天井までの高さは7.2〜9mだ。
この骨組みも白色で統一されており、白いホームの両側をオレンジ色の列車が行き交う。今は仮設床のためホーム上のノンスリップ合板はグレーだが、今後も7月の五輪開催に向けて工事が進み、ホームドアを設置するとともに真っ白な床面へと変わる。今は上空にあるケーブルラックも床下に移設される。
コンセプトは「近未来的な駅」
新駅舎全体を貫く考え方について、建築を担当した工務部の三丸力所長は「近未来的な駅を造ること」と語った。同社のデザインコンセプトでは、これを「フューチャーシティ」と表現するが、とにかく緩やかな曲線が連なる様子は、巨大な生物の体内にいるような気にもさせる、不思議な雰囲気を生み出している。
銀座線渋谷駅を外から見ると、ここでも東京メトロが「近未来」を感じさせることに心を砕いている様子がよくわかる。駅舎の屋根と壁面は、巨大なアルミパネルを鎧のように重ねた構造になっている。
新年のカウントダウンでにぎわう渋谷駅周辺。この時も工事は続いていた(筆者撮影)
下から見るとチューブ状で、サイドにはガラス板がはめ込まれ、駅の内外から地上を行く地下鉄の様子を見ることができる。その姿は「渋谷ヒカリエ」「渋谷スクランブルスクエア」の超高層の垂直ラインに水平に交差して、都会らしい光景を演出している。
旧駅は東急百貨店西館の中にあり、デパートの3階に出入りする地下鉄という完成当時としては未来的な光景を生み出した。地下鉄が地上に現れる様子は、新駅舎でも引き継がれている。
「もともと屋根がかかっていなかったので地下鉄が直接見られた。屋根をつけても電車が見えることを目指した」(三丸所長)
将来は屋根上に歩行者デッキ
ただ、この駅舎の構造は、デザイン上の演出だけが目的ではなかった。M型鋼で支えられた屋根は、上から見るとM型という通り真ん中がへこんでいる。
M型のへこんだ部分に歩行者デッキが設置される予定だ(筆者撮影)
完成時期は未定ではあるものの、このM型のへこんだ部分に歩行者デッキ(=スカイデッキ)が設置されるのだ。地上に降りなくても、駅舎の屋根の上を歩いて宮益坂と道玄坂方向を行き交うことができるようになる。
当初、新駅舎の屋根デザインは「門型ラーメン構造」と呼ばれる四角い筒型を想定していた。これならデッキは設置しやすい。ところが、角のある構造物は駅前広場上空で存在感を示し過ぎる。そのため、角をとったアーチ構造が考えられたが、丸みのある屋根にデッキを設置するのは不安定だ。そこで頂部を1点ではなく2点で支えるM型アーチ案を採用し、デザインと強度の双方の課題を解決した。
もともとの銀座線渋谷駅は、周辺の通路などのわかりにくさも加わり、「迷宮のようだ」といわれていた。この点について山村社長はこう釈明した。
「旧駅舎は改札口の幅やホームが狭く、上下の移動も多くそのほとんどが階段で、安全やサービスの面で大きな課題を抱えていた。しかし、ホームを百貨店の建物内に設置している構造から抜本的に手を入れることが難しく、大きな改修工事は行われなかった」
それと比較すれば、新しい駅舎は実にシンプルだ。2009年から3度にわたる線路の切り替えを経て、駅の位置を百貨店の中から表参道駅側に130m移動させた。この移動で、改札口は駅の両端、JR渋谷駅側の「スクランブルスクエア方面改札」と、渋谷ヒカリエ側の「明治通り方面改札」の2カ所に集約された。もちろん駅構内はバリアフリーだ。
「渋谷スクランブルスクエア側の改札口は『アーバンコア』と呼ばれる各鉄道路線の結節点と直結し、アーバンコアから各路線の駅に通じる動線設計になっている。各路線のすべての工事が完成すると、縦に横に延びてわかりにくいとされる渋谷駅全体の移動のしにくさの改善につながる」と、山村社長も期待する。
これからも工事は続く
課題は各鉄道事業者の連携だ。現状では、銀座線の「スクランブルスクエア方面改札」とJR渋谷駅の3階コンコースとの間には、同じ3階でも高低差がある。銀座線の駅構内はフラットだが、JRとの乗り換えは階段などを通らざるを得ない。駅が抜けた後の東急百貨店西館は2020年3月まで営業を続けた後に取り壊される予定だが、JRとの動線がフラットになるかは未定だ。
五輪開催に向けて、銀座線渋谷駅ではこれからもホーム階の表示新設や仮設ベンチの置き換えなどが進む。新駅舎の土木工事を進めた改良建設部の白子慎介所長は、移設工事を終えたことに「オリンピックまでに新しい駅を供用させたいということで一生懸命やってきた。まずは間に合ったということで正直ほっとしている」と安堵の表情を浮かべた。
だが、それもつかの間。五輪閉会後も周辺の再開発は続き、銀座線の工事もまだ続く。今後も課題は待ち構えている。