デキる人ほど「ダメそうな意見」を尊重するワケ
※本稿は、鈴木颯人『最高のリーダーは「命令なし」で人を動かす』(KADOKAWA)を再編集したものです。
■ストレートに反対意見を伝えるのは要注意
会議で皆の意見がバラバラ。自分と相手の意見が正反対。そんなとき、ついストレートに「それには反対だ」「ダメですね」「賛成できません」といった言葉を伝えたくなりますが、リーダーが反対意見をストレートに伝えてしまうと、相手がショックを受けたり、発言するモチベーションを一気になくしたりしてしまうかもしれません。
「そんなことでまさか」と思ったリーダーほど、要注意です。悪気なくメンバーのモチベーションを下げている可能性が高いです。
そこでおすすめなのが、「遠回りクエスチョン」です。これは、相手の出したアイデアのメリットとデメリットを答えてもらうことで、自然な形で結論へと導く方法です。
先日、私の会社のスタッフのIさんと、セミナーの運営方法について打合せをしていました。その中で、「質問のタイミング」に議論が及びました。セミナーでは通常、来場者の質疑応答は最後に行われます。しかし、気づいたときにその場で質問できたほうが、疑問がその場で解消できて良いよね、という話になったのです。
するとIさんはすかさず、「セミナー中にグーグルフォームを使ってその場で質問をシェアしてもらうのはどうか」というアイデアを考えてくれました。これを聞いて、私の中では即座に「NO」の文字が浮かびました。セミナー中、参加者がスマートフォンを見ると、注意が散漫になりやすく、話に集中しづらくなってしまうからです。
■妙な意見を出した本人に「デメリット」を聞く
しかしそれをそのまま伝えると、Iさんの意欲を削(そ)ぐだけでなく、チャンスの芽を摘むことにもなります。そこで私は「そのやり方だと、たしかにすぐ質問できるよね。じゃあ逆に、デメリットって何があるかな?」と聞いてみました。
するとIさんは、「セミナー中にスマホをいじることですかね……」と答えてくれました。私もその通りだと思ったので、続けて「そのデメリットを克服するにはどうしたらいいと思う?」と尋ねました。
彼の答えは「セミナーの休憩時間に入力してもらえばいいんじゃないですか?」。
「ナイスアイデア!」と思った私は、その方法を取り入れることにしたのです。
■頭ごなしに否定すればリーダー自身が損をする
最初にIさんがアイデアを出してくれたタイミングで「NO」を突きつけていたら、どうなっていたでしょうか。おそらく、最終的なグッドアイデアにたどり着くことはなかったでしょう。それどころか、Iさんはせっかくのアイデアを否定され、やる気を失っていたかもしれません。
メンバーにアイデアを求めると、一人では思いつかないようなアイデアが集まってきます。前例がなかったり、すぐ見えるデメリットがあったりると、つい「NO」と言いたくなる気持ちもよくわかります。しかし、そこで頭ごなしに否定するのはナンセンス。
集まったアイデアのメリットはもちろん、デメリットを埋める方法を一緒に考えることで、リーダーの中にある「思い込み」を手放すことができます。
結果として、自分では思いつかないようなアイデアを取り入れることができ、進めている仕事が今以上にやりやすくなるかもしれません。アイデアのデメリットを克服する方法を聞いてみて、その場で答えが出なければ後日の宿題にするのも良いでしょう。
■一見遠回りな質問こそがアイデアを高める
大切なのは、お互いが目指すゴールに近い方法を見つけることです。頭ごなしに否定してしまっては、せっかくのアイデアの種も花開くことはできません。
反対意見が出たときほど、「そのメリットとデメリットは何だろう?」と冷静に尋ねること。一見遠回りに見える質問が、相手のアイデアを、より良いものに高めていきます。二流のリーダーは冴えない意見をすぐ否定しますが、一流のリーダーは否定する前にデメリットを聞くのです。
■リーダーの思い込みがチームの生産性を下げる
リーダーとメンバーのコミュニケーションをスムーズにし、結果を出しやすくするためには、双方の「思い込みのフタを外す」こともとても大切です。そう聞くと、簡単ではないと感じる人もいるかもしれませんが、ご安心ください。
ふだんから意識して「問いかけ」を工夫することで、相手の思い込みのフタはもちろん、あなた自身の思い込みのフタも外すことができます。そして、フラットな視点から物事を考えられるようになります。
あるとき、私がコーチングを担当している水泳選手のFさんが、海外合宿で高地トレーニングに参加しました。出発前から気合十分だったため、帰って来たら、良いトレーニングができたと報告してくるだろうと思っていました。
そこで私はFさんが合宿から戻ってくると、「良いトレーニングができましたか?」と声をかけました。すると彼女は、「いや、それが……」と、予想外の暗い表情。どうもその合宿で、自分の目標とするレベルの練習ができなかったようなのです。
それを聞いて私は「しまった」と反省しました。違う問いかけをするべきだったのです。
なぜ、「良いトレーニングができましたか?」という問いかけがNGなのか、おわかりでしょうか。
それは、その問いかけ方だと、Fさんが「良いトレーニングができた前提」で話しかけられているように感じ、圧迫感を覚える可能性があるからです。圧迫感を覚えると、人は心を閉ざしてしまいがちです。あなた自身、思うような結果を得られなかったとき、「良い結果でしたか?」と聞かれるとどうでしょうか。きっと答えづらいと思います。
お互い気持ち良くコミュニケーションを取るには、相手が自由に答えやすい質問を心がけることをおすすめします。先ほどの場合であれば、「トレーニング(合宿)はどうだった?」とシンプルに聞けば、相手が自由に話すことができます。良くない結果もオープンに伝えやすくなるはずです。
私たちはつい「プレゼン、うまくいった?」「契約、取れた?」などのように、結果をたずねる質問をしてしまいがちです。相手に二択で答えさせる質問を、コーチング用語で「クローズドクエスチョン」と言います。この質問は、二択なのでYES/NOで答えやすい反面、質問によっては相手にプレッシャーを与える可能性があります。
ところが、「プレゼン、どうだった?」のように、問いかけ方を切り替えるだけで、相手が一気に答えやすくなります。この問いかけ方を、同じくコーチング用語で「オープンクエスチョン」と言います。相手の心理的負担を少なくしたいときは、このオープンクエスチョンを使って問いかけるのが有効。コミュニケーションが円滑に進みやすくなります。
■思い込みに気づかせる、ある少女の話
人は、思っている以上に思い込みを持ちやすい生き物だということを知ってもらうために、読んでほしい話があります。ある少女の話です。
その少女は雨が降ると、外に出ていました。一度ではありません。雨が降るたび、何度も外に出ていました。そして、そのたびにずぶ濡れになっているのです。どうしてこの少女は、雨が降るたびにわざわざ外に出るのでしょうか。
「雨が好きなのかな」「自分を雨の妖精だと思っているからに違いない」「雨の中で遊ぶのが楽しいからだろう」など、きっといろいろな答えが出てくると思います。しかし、いずれも違います。
■真意は周りから見ただけではわからない
実はこの少女は、非常に貧しい環境で暮らしていました。家の水道は止められ、なかなか真水を手に入れることができません。水は飲み水や食事に使うため、どんなに暑くて水浴びをしたくても、簡単にはできないのです。どうしても水浴びをしたいときは、川に行くしかありませんでした。しかし、川までは徒歩で片道1時間以上かかります。つまり雨は、この少女の暮らすエリアの人たちにとって“天然のシャワー”だったのです。
「そんな理由があったとは……」と思った人が大半なのではないでしょうか。
何を隠そう、少女とは私の母です。母はフィリピンで育ち、苦労した背景もあり、私が小さい頃、よくこの話をしてくれました。
このように、相手の真意は、周りから見ただけではわかりません。「本人によく聞いてみなければわからないような事情」は、多くの人が抱えているものです。相手に問いかける際は、できるだけ勝手な解釈を挟まず、フラットな視点を心がけることをおすすめします。そうすることで、変にプレッシャーを与えたり、「良い結果だった前提で質問する」といった相手との意識のズレも防ぐことができます。
ほんの小さなことですが、「自分の思い込みが入っていないか」確認したり、「質問の仕方をちょっとだけ変える」だけで、人間関係はよくなり、生産性も上がっていきます。
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鈴木 颯人(すずき・はやと)
スポーツメンタルコーチ
1983年、イギリス生まれの東京育ち。Re‐Departure合同会社代表社員。サッカー、水泳、柔道、サーフィン、競輪、卓球など、競技・プロアマ・有名無名を問わず、多くのアスリートのモチベーションを引き出すコーチングを行っている。
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(スポーツメンタルコーチ 鈴木 颯人)