vol.46「ドローンビデオ空撮のカメラワーク(後編)」

文●野口克也(HEXaMedia)

東京都生まれ。空撮専門会社「株式会社ヘキサメディア」代表。柴田三雄氏への師事の後、ヘリコプター、モーターパラグライダー、無線操縦の小型ヘリなど、空撮に関わるすべての写真、映像を区別なく撮影。テレビ東京系地上波『空から日本を見てみよう」、BS JAPAN『空から日本を見てみようPlus』などTV番組やCM等の空撮を多数手がける。写真集に夜景の空撮写真集「発光都市TOKYO」(三才ブックス)など。http://www.hexamedia.co.jp/

 

前号は心得的なことが多かったのですが、今回は実例編です。基本的な空撮練習法は連載のVol. 24、25で。カメラワーク的にはVol.5等で書いてきましたので、今号では「NGカメラワーク〜こんなカットはしないほうがいいよ」をテーマに書いていきたいと思います。

 

パンはゆっくりと

「パン」はドローンの操作的に言うとラダー(旋回)を使うことになります。細かい解説は避けますが、急激に動く映像を見ると、脳の処理に混乱が生じ、船酔いのように具合が悪くなることもあります。これは映像的に避けたほうがいいでしょう。 また、パンする速度にバラつきがあったり、あちこち振り回すようなカメラワークもNG。パンする場合には撮影する開始点と終了点を位置をきちんと決めた後に、RECボタンを押しましょう。

「見晴らしの良い場所で360度の視界が開けます」といった状況説明でパンで撮影する必要がある場合は、極力ゆっくり、かつ、一定の速度でのパンを心がけましょう。

 

チルトは飛行速度も意識

「ジンバルはなるべく動かさない!」…いや、動かしていいんですけども(笑)。まずはチルト動作自体に狙いがなければ、一回決めたチルト角はなるべく動かさないようにしましょう。

空撮の場合、チルト操作は、その場に留まって行うことは稀で動画の例のように被写体に近づいていきながら、チルトを行うといった操作が多いと思います。

その時、重要なのがジンバルのチルト速度です。 DJI機の初期設定値は速く動く被写体を追うには足りず、ゆっくり雄大な景色を見せるようなチルト操作をするには早すぎる数値です。数値が小さいほどチルトの最大速度は遅いのですが、その分、コントロールはしやすくなるので、まずはそのフライトに求められる最大の速度に合わせておき、あとは画面の中で被写体があちこちに動かないようなチルトアップ、ダウン操作を練習しましょう。

追いチルトや行き過ぎて戻っちゃうチルト(笑)など操作量と自機の位置、速度がシンクロしていないジンバル動作はまさにNGカットです。うまくできるまでリテイクしましょう。

 

オート撮影は基本NG

ここでのオートは「露出オート(AE)」と色温度がオートな「オートホワイトバランス」を指しています。ドローンからビデオ撮影に入った方の多くがほぼ、「フルオート」を利用しているかと思います。しかし、一部のバラエティ番組等以外では、このオート露出はほぼ使いません。 小さな撮像素子で、広い(遠い)映像を撮っている場合は絞りの変化はあまり映像にでませんが、大きな撮像素子で撮影対象が近い場合は絞りやシャッタースピードが変わると表現そのものが変わってくることもあります。シネマカメラ等との映像と合わせるような現場の場合には、感度・絞り・シャッタースピード・色温度・フレームレートまで詳細な指定があります。

もちろん、場合によってはそこまでする必要がないときもありますが、ドローンの動き(というか画面に入ってくる反射光の量)によって露出の値が増減すると画面の明るさがいきなり大きく変わってしまうこともあります。そういうカットはNGカットと言えるでしょう。

大体でいいので、一般的に見慣れている違和感のない明るさに露出をマニュアルで合わせ、カットごとに露出とアングルを決めてから撮影するというルーティーンを心がけましょう。多少の露出ズレなら、後で編集して直せます。怖がらずにどんどんマニュアル露出を使ってみましょう。シャッタースピードについてはVol.17で触れています。

オートホワイトバランスについては、DJI機の場合、デフォルトではオートです。プロの撮影現場では、大抵「K」(ケルビン)での指定があります。これは編集で色をカットごとに合わせるために重要なのです。

カメラの特性でカメラごとに同じK値でも、再現される色が多少は違ってくるのですが、色温度が一つのカットの中で固定されていれば、後編集で直すことも可能です。これに対してオートホワイトバランスで撮影してしまうと、同じカット内で色味がコロコロ変わってしまう結果になります。色温度の知識がない場合はせめて晴れや曇りマークなどの設定に合わせて、なるべく固定されたホワイトバランスで撮影するようにしましょう。

 

背景やテロップの余白を意識

撮影対象や背景の入れ方は基本の黄金比を心がけましょう。安定した構図は見ている人にも安心感を与えます。空撮の場合、特に水平線の入れ方は重要です。

背景にきれいな山があるのに山の頂上が少し欠けるとか船舶を撮影するのに水平線が画面のふちギリギリにあるなど、要素を入れるのか入れないのかハッキリさせましょう。撮影対象ばかりを意識して、背景やその奥の水平線等にまで気を配れないと、一枚の絵としての構図が残念な結果になります。黄金比を崩す場合は崩す意図を明確にしてからにしましょう。

また、撮影素材にテロップ等の情報を入れる場合は撮影対象をフレームいっぱいに撮るのではなく、上下左右のゆとりを持つことを心がけるといいでしょう。昨今のテレビ番組を観ると、画面が大きくなってきたため、番組タイトルやテロップ、芸能人の顔のワイプなど様々な情報が載ってきます。そういった用途に使う映像であれば、情報を入れ込む余白を意識したフレーミングが重要です。

 

 

パン操作のNGショット

パン操作はゆっくりと一定速度で動かすのが見やすい。急激な動きだと観ていて疲れるうえに酔ってしまうことも。

 

 

チルト操作のNGショット

NGショットはチルトが上下にフラフラと揺れて見づらい。

 

 

露出オートのNGショット

小島の明るさが変化して暗く沈んでしまっている。

 

構図のNGショット

(写真左)主体の被写体に気を取られ、背景の山が切れている。(写真右)テロップを入れる余白がない。

 

 

●ビデオSALON2019年11月号より転載