12月9日に国会会期末を控え、野党側は会期の大幅な延長を求めている。もちろん目的は大炎上している「桜を見る会」をめぐる問題の追及だ。政府がひた隠す招待者名簿問題のなかでも、注目すべき論点のひとつがマルチ商法で有名な「ジャパンライフ」の山口隆祥元会長(77)に「安倍晋三首相枠」で招待状が送られていたという疑惑だ。

 山口元会長のもとに「桜を見る会」の招待状が届いたのは2015年春。山口元会長は「安倍晋三内閣総理大臣から山口会長に『桜を見る会』のご招待状が届きました」と書いた宣伝チラシに、招待状のコピーを張り付けて宣伝に利用した。野党は内閣府の内部資料をもとに、“安倍枠”による招待だったと主張しているが、安倍首相は否定している。


国会閉幕で安倍首相は逃げ切り? ©文藝春秋

 だが、このジャパンライフについての”悪評”はいまに始まったことではない。若い読者は知らないかもしれないが、山口元会長は40年以上前にも国会招致されており、80〜90年代もジャパンライフのマルチ商法は国会審議で取り上げられている。そこで、「いまさら聞けない『ジャパンライフ』ってどんな会社?」というアプローチで解説してみたい。

山口敏夫元大臣はジャパンライフのヘリコプターで選挙区入り

 そもそも山口元会長の“業歴”は古く、ジャパンライフの創業は1975年。以後、羽毛布団や磁気治療器など商材を変えながら、高配当を謳って高額商品を会員に売りつけるマルチ商法を展開し、繰り返し問題になってきた。

 ジャパンライフのマルチ商法は大きな社会問題となり、ついに1985年5月には国会で集中審議されることとなった。ここではじめて、山口元会長が、傘下の販売店から会費を集め、政治家への献金窓口となる「健康産業政治連盟」を設立し、年間1〜2億円をあらゆる政治家にばら撒いていたことが明らかになったのである。

 まず槍玉に上がったのは、山口元会長が最も親しかったと言われる「新自由クラブ」(1986年8月に自民党に合流)の山口敏夫労働大臣(当時、山口元会長以外の肩書きは以下同)だ。山口氏はジャパンライフが所有するヘリコプターに乗って選挙区入りしたことが指摘された上、1983年にはジャパンライフから山口氏の5つの政治団体に計500万円の献金が行われていた。

 また、ジャパンライフが発行していた「経営者月報」には、見開きページに李香蘭の名で活躍した女優出身の山口淑子参議員が登場していたことが判明。そのほかにも、ジャパンライフが武道館で開いた「記念大会」に、山口敏夫氏をはじめ、増岡博之労相、村上正邦参議員、塩川正十郎元運輸相らが来賓として出席していた。山口敏夫氏、増岡博之氏、塩川正十郎氏の3名は、1967年に初当選した自民党の同期でもある。

中曽根康弘元首相は「善意の政治資金として」と発言

 最大の大物は、先日101歳で亡くなった中曽根康弘元首相だろう。首相在任中、中曽根氏の5つの政治団体に、ジャパンライフから計1000万円の献金が行われていたことを、共産党の藤田スミ衆議員が追及している。中曽根氏は「善意の政治資金として受け付けたということでございまして……」と答弁している。

 しかし、1985年11月の国会で、社会党の横江金夫衆議員が中曽根氏をさらに追い詰めた。内部告発状をもとに「(ジャパンライフは)この商売を守っていくために中曽根総理に対して、パラオ島にあるこの会社が持っている20万坪の土地を贈呈をしたということが書いてあるのです」と指摘したのだ。

 翌12月の国会でも、藤田スミ氏がジャパンライフと国会議員らの癒着について糾弾している。ジャパンライフ傘下の「ヘルスカウンセラー協会」創立3周年の集会において、自民党副総裁の二階堂進衆議員と山口労相が山口元会長に“感謝状”を送り、中曽根首相は祝電を打っていたことに言及したのだ。

 藤田氏は続いて1985年に開かれたジャパンライフ創業10周年記念集会にも批判の矢を向けた。「増岡厚生大臣をはじめとして、何と15人に及ぶ大臣クラスの錚々たる政治家が競い合うように参加をいたしまして、ジャパンライフの商法やあるいは山口会長を絶賛しているわけであります」と追及している。

安倍晋三の父も山口元会長とNYを表敬訪問

 翌1986年2月の国会では、安倍首相の父、安倍晋太郎外相まで登場。社会党の松浦利尚衆議員は、ジャパンライフの事業報告書の中で、山口元会長と共に安倍外相と山口前労相がニューヨークを表敬訪問したと記載されていると指摘した。

 それに対して安倍元外相は、「山口代議士がたくさんの人と一緒に、ちょうど私が国連に行っておったときに紹介といいますか表敬に連れてきたことは、確かにその中に今の山口隆祥氏ですか、おられたことは事実です」とその事実を認めた。

 ジャパンライフが取り込んでいったのは政治家だけではない。1985年12月の国会では、ジャパンライフが警察官僚を多数招聘していることも白日の下に晒された。関東管区警察学校・教務部長を務めた神田修道氏がジャパンライフの組織部取締役部長に、山形県警副本部長を務めた佐藤恒夫氏は代理店指導部長に就いていたのだ。

 実は国会審議が始まる前の1983年、ジャパンライフは法人税法違反で告発され、山口元会長は当時取締役に降格していた。そこで後任として会長職に就いたのが、京都府警本部長などを歴任した警察官僚の相川孝氏だ。相川氏は悪徳商法を取り締まる警察庁保安課長を経験している。

 山口元会長はなぜここまでして政治家や官僚との繋がりを求めたのか。その理由は、1985年5月の国会で取り上げられている。

「いろんな協力者が陰に日なたになっている」

 山口元会長は、新高輪プリンスホテルで開いた講演会において、過去にマルチ商法の別会社を立ち上げて倒産し、ジャパンライフを創業した経験に触れ、「そういう失敗をしましたよ。だから『健康産業政治連盟』じゃないですか」と話したのだという。くわえて「産業を将来大きく伸ばすために協力してくれる代議士の先生方に政治献金している。おかげでいろんな協力者が陰に日なたになってくれている」とも語っており、政治家らをビジネスに利用してきたことが明らかにされた。

 山口元会長は社会的に糾弾されると政治家に献金攻勢をかけて広告塔として利用し、元官僚を抱き込むことで追及を逃れてきたのだ。現在「桜を見る会」を巡って起きていることも、当時と同じ構造が裏にある。

 80年代に大きく取り沙汰されてから、一時は鳴りを潜めていたジャパンライフだが、2010年以降に消費者からの苦情が増えていった。そして2014年夏、消費者庁がジャパンライフに立ち入り調査を計画した。

 ジャパンライフへの監視の目が強まっていることを察知した山口元会長は、2014年12月に下村博文文科相が支部長を務める自民党東京都第11選挙区支部に10万円を献金。「日本消費経済新聞」によれば、柿沢未途衆議員が支部長を務めるみんなの党東京都第15区支部にも、2010年から2013年までに1940万円を献金している。柿沢氏の父親は外相などを務めた元代議士の故柿澤弘治氏。柿沢氏は同紙に、「亡き父の信頼を引き継ぎ、お付き合いをさせていただき、ご支援をいただいた」と回答した。

 この裏工作が功を奏したのか、2014年の立ち入り調査は見送られている。しかし2015年9月には消費者庁がジャパンライフへ立ち入り調査に入り、ついに2016年12月に業務停止命令が下されたのだ。

 消費者庁が業務停止命令を発した直後の2017年1月13日、山口元会長は安倍政権の重要閣僚、加藤勝信一億総活躍担当相(当時)と会食をしている。その後に配布されたジャパンライフの宣伝チラシには早速、加藤氏に「ジャパンライフの取り組みを非常に高く評価して頂きました!」と記載した。

 加藤氏との会食の2週間後の1月27日、今度は山口元会長主催で二階俊博・自民党幹事長を囲む懇談会も開かれた。会には多くのマスコミ関係者も招待されていた。その後、またしても宣伝チラシで「トップ政治家やマスコミトップの方々が参加しました! このメンバーで毎月、帝国ホテルにて情報交換会を行っています」と、自身と有名政治家との親密な関係をアピール。チラシには参加メンバーとして、NHK、日経新聞、毎日新聞などの論説委員クラスの顔と名前も並んでいた。

 ある出版社幹部はこう話す。

「山口さんには向島の料亭で、2世議員などの政治家を何人か紹介して貰ったことがあります。山口さん主催の食事会に行くと、新聞の論説委員とか、役人上がりの人が必ず来ていました。私は会っていませんが、山口さんの口から、引退した自民党の大物政治家の名前が何回か出たこともある。権威を笠に着ることで、商売に利用していたのでしょう」

 2016年12月に業務停止命令が下ってからも、懲りずに広報活動をしていたジャパンライフだったが、2017年3月には2回目の業務停止命令が下っている。

 2015年の消費者庁による立ち入り調査以降、山口元会長は80年代と同様に、元官僚たちを自社の主要ポストに就任させていった。

 2015年7月、まずは消費者庁の水庫孝夫課長補佐がジャパンライフ顧問に就いた。水庫氏は在職中、ジャパンライフに「定年退職」「最後の仕事」と繰り返し告げ、私用のメールアドレスと電話番号を伝えていたという(内閣府の再就職等監視委員会の調査より)。そして翌16年3月、再就職等監視委員会は、水庫氏のこれらの言動が、「(国家公務員法に)違反する行為であることが認められました」と発表した。

 ジャパンライフが隠れ蓑にしようとした元官僚は水庫氏だけではない。2017年4月の国会で、共産党の大門実紀史参議員は、ジャパンライフのパンフレットを入手し、こう指摘した。

「もっと大物がいるんです。海外担当の松尾さん(篤・元経済企画庁長官秘書官)も元経産、キャリア組ですね。水庫さんはノンキャリアですけれども、キャリア組の松尾さんと、右の上の永谷さん(安賢・元内閣府官房長)ですね」

 さらに最新のパンフレットには、中嶋誠・元特許庁長官が入っていることも明かした。そして大門参議員はジャパンライフの“お中元リスト”も入手。「いろんな方の名前がずらっと並んでおります。(中略)あいうえお順ですから、最初に出てくるのは麻生太郎さん、2番目が安倍さん、安倍晋三総理ですね……」と指摘した。

 この指摘を受けて、後日、麻生太郎財務相は山口元会長について言及。「この人は結構有名人。(中略)この人はその時代から結構有名な方で、マルチという言葉が始まった最初の頃からもう出ていた方だった」と答えている。

 社会部記者が話す。

「消費者庁は2015年に立ち入り調査に入ったにも関わらず、業務停止命令を出すまで1年以上かかっています。ジャパンライフのように明らかな違法性が認められる企業であれば、立ち入り調査後に業務停止命令が出てもおかしくなかった。この“特例”には、こうした政治家との繋がりや、役人の招聘が影響していると見られます。そしてこの間に、『桜を見る会』の招待状がジャパンライフの宣伝に使われたのです」

 こうして安倍首相主催の「桜を見る会」は、ジャパンライフの“永田町戦略”にまんまと利用されたのだ。

(「週刊文春デジタル」編集部/週刊文春デジタル)