増税対応できず倒産、廃業も 「消費税10%」間もなく2カ月、広がる企業への影響

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 消費増税から間もなく2カ月。政府は、増税に伴う消費の落ち込みを避けるため、消費税導入後で初めて軽減税率を設定。また、キャッシュレス決済によるポイント還元制度も新たに導入した。

 ただ、消費動向の影響を強く受ける小売業者では、消費税率引き上げによる準備期間の短さや、新たな設備投資の発生、インボイス制度の導入など事業者の負担増加を指摘する声も少なくない。こうしたなか、早くも「消費増税関連倒産」が発生。企業景況感も大幅な落ち込みを記録するなど、企業への影響が徐々に顕在化し始めている。

広がる「キャッシュレス決済」、取り込み図る小売店舗 他方で審査の遅れを指摘する声も

 「キャッシュレス決済を利用するお客様は少しずつ増えてきました」。ポイント還元制度の対象となる都内和菓子店は、今回の増税に合わせてキャッシュレス決済の一つ「PayPay」を導入した。

 金融庁によれば、買い物など日常的な決済手段にクレジットカードや電子マネーなどキャッシュレス決済を利用する割合は、1000円以下の少額決済で約3割、1000〜5000円以内の決済でも約4割を占める。少額決済の場では現金が未だ主流なものの、キャッシュレスの割合は10年前から2〜3倍に拡大、日常生活に少しずつ浸透してきた。同店も今後キャッシュレス決済利用の顧客増加を見込み、現金決済以外の選択肢を用意した。

 ただ、事業者によるキャッシュレス決済への対応や、ポイント還元制度への対応は遅れが目立つ。経済産業省は、政府が導入したポイント還元制度の登録店舗数が11月21日時点で約77万店と発表。12月1日には約86万店まで拡大させる見通しだ。

 一方、当初から還元制度の対象と見込まれた約200万店舗の水準には遠く及ばず、約94万店の“バックオーダー”分に相当する登録申請件数を合わせてもなお届かない。企業からは登録審査など「対応が遅れ気味だ」と焦りの声が上がる。この和菓子店では10月末にようやく審査が完了し、11月からポイント還元制度をスタートさせたばかり。ただ、「まだ登録が完了していない店舗も周りにある。急いでもらわないと」と注文する。

軽減税率など消費増税対応、約5割で未実施  「制度の複雑さ」「コスト」理由に

 消費税率引き上げにともなう対応はキャッシュレス決済だけではない。今回導入された軽減税率は、酒類などを除く飲食料品で税率が8%に据え置かれる。そのため、スーパーや飲食店などでは飲食料品と日用品、イートインとテイクアウトなどの税率を簡単に打ち分ける新型レジの導入、受発注システムの改修など、新たな設備投資が求められるケースは多い。

 ただ、増税直前であっても消費税引き上げへの対応が進まなかった現状がある。経産省は、中小企業に導入される予定の新型レジは9月末時点で約24万台と試算した。しかし、複数税率対応レジの導入支援数は10万件超に留まり、いずれも当初想定した30万件には程遠い。経営体力に余力のない小規模企業では、増税後の先行き不透明感や制度の複雑さなどから、新たな設備投資を見送った可能性も指摘されている。

 帝国データバンクの調べでも、2019年6月時点で軽減税率に「特に対応していない」企業は49.3%と約5割を占めた。中小企業では52.5%、小規模企業では59.5%と約6割にも達した。「レジ改修などの設備投資、税率処理が細かくなりとても面倒」など税制の複雑さを指摘する声が相次ぐ。

「増税対応できず」倒産、閉店・廃業のケースも 消費動向の浮沈が影響度合いを左右する

 こうした消費増税に伴う混乱は、長期に渡って影響を及ぼす懸念がある。既に、食品スーパーを展開していたシヨツピングセンター池忠(大阪)や遠峰酒造(茨城)は、消費増税による設備投資ができずに経営破綻するなど、消費増税関連倒産が出始めている

 閉店や廃業に至ったケースもある。神奈川県の食品スーパーでは、人員不足のほか、複数税率対応レジなどへの投資金額が増大することを理由に9月末で閉店。飲食店向けにレジ機器などを販売する都内企業は、消費増税による顧客減や将来のインボイス対応型レジ導入を見送ることなどを理由に廃業する取引先が出ることを見越し、今秋の増税対応後に事業を畳む方針だ。増税後の市況に鑑みて、事業を継続するか否かの判断を問われる中小企業は少なくないとみられる。

 増税後の景況感も今後のカギを握る。帝国データバンクの調べた10月の国内景況感(DI)は、「顧客心理が防衛的」など個人消費の冷え込みを指摘する声が相次ぎ、小売業の景況感が調査開始の2002年以降で3番目の落ち込み幅を記録した。

 今後は消費税率引き上げにともなう消費の落ち込みの程度と、その後の動向が重要だ。来年にはポイント還元制度も終了する。冷え込む消費マインドをいかに底上げするかが、増税後の企業経営に深く関わってくる。