井上真吾氏は「自分だったらこう教わりたい」ということを踏まえて指導にあたっている【写真:荒川祐史】

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井上尚弥&拓真の父、真吾トレーナーの独占インタビューvol.3

 ボクシングのワールド・ボクシング・スーパー・シリーズ(WBSS)バンタム級決勝は今日7日、ゴングが鳴る。世界3階級制覇王者でWBA&IBF王者“モンスター”井上尚弥(大橋)が5階級制覇王者でWBAスーパー王者のノニト・ドネア(フィリピン)と対決する大一番は、2万人規模のさいたまスーパーアリーナが超満員となるのは確実だ。また弟のWBCバンタム級暫定王者、拓真もWBC正規王者ノルディ・ウーバーリ(フランス)との団体内統一戦がセミファイナルで行われ、井上兄弟が初のダブル世界戦に臨む。

 2人の父でありトレーナーでもある井上真吾氏。親として2人の子供をリングに送り出す気持ちとはいったいどんなものなのだろうか。既に孫もできた“モンスター”の父親が目指すものとは――。

 ◇ ◇ ◇

【第3回】

――尚弥選手や拓真選手がボクサーとして成長してきたように、真吾さんもトレーナーとして成長してきたというのは絶対にありますよね。

「あると思いますよ」

――トレーナーとして転機や分岐点はありましたか?

「基本的には自分だったらこう教わりたい、自分だったらこう教えられたら嫌だということをチョイスしてナオ(尚弥)とタク(拓真)にアドバイス、指導してきました。だから転機云々ではなくて、常にあいつらのことを強くしたいということを考えていたら今に至ったというだけなんですよね」

――失敗したなと感じたことは?

「ないですね。細かい失敗はいっぱいありますけど、それがあるから修正して良くなるわけじゃないですか。だから大きな失敗というのはないですね。こうやったほうがいいなと思えば、すぐそれをやればいいだけなので」

――トレーナーって試合が近づくと緊張はするものですか?

「しますよ。それは子供たちがキッズの時からどの試合も一緒ですよ。やっぱりあいつらの試合は親だから不安や心配は毎回ありますよね。そこは今でも慣れないですよ。タイトルマッチとかタイトルマッチじゃないとか関係なく、あいつらの試合はどの試合も一緒です」

――どの試合だって負ける可能性も、大きなけがをする可能性もあるわけです。

「これって親じゃないとわからない気持ちじゃないですか。たとえばジムの他の選手だったら、もちろん応援はしますし、ハラハラもしますけど、自分の子供に感じるような心配とか不安はそこまではないですよね」

――尚弥選手も拓真選手もプロでは全部勝ってますけど、一番嬉しかった試合はどの試合でしょう?

「どれも一緒ですけど、ただナオがチャンピオンになったライトフライ級の時(※)はいろんな意味で心配も不安もありましたし、あれはあれですごいものがありましたね。ナオもまだ経験が浅かったですから。世界タイトルマッチっていう重圧もありましたし。ひとつ挙げるとすればやっぱりあれなのかな……。

(※)2014年4月6日、WBC世界ライトフライ級王者アドリアン・エルナンデス(メキシコ)に挑戦。6回TKOで当時史上最速のデビュー6戦目での世界王座獲得に成功

48歳でおじいちゃんに…孫は「甘やかしたくないけど、同じようには怒れない」

――尚弥選手は子供ができてから何か変わったところはありますか?

「大きくは変わっていないと思いますけど、子供をどこか連れているのを見ると親父になってきたのかなと思いますね」

――世間のおじいちゃんってやっぱり孫は可愛いじゃないですか。真吾さんは孫にどういうアプローチをしているんですか。あまりにも若い、48歳のおじいちゃんですけど。

「これもならないとわからないですね。よく『孫は目に入れても痛くない』と言うけど『そんなの痛いに決まってんじゃん』とか思ってましたけど(笑)。でもおじいちゃんになると違うんですよ。自分は子供が小さかった時は20代で、今50近くになって、同じように接することはできないですね。同じことをして同じ怒り方ができるかって言われたら絶対にできないですね。若い時は『お前ダメだろォ!』ってなるんですけど、今は『ダメでちゅよ!』とかになるんじゃないですか(笑)」

――やっぱり可愛いですか?

「そうですね。甘やかしたくないというのはありますけど、同じようには怒れないですよね。しょうがないのかなという感じですけど」

――まだ2歳になってませんよね。

「でもそのくらいの時期にしっかり言わないと、同じことを繰り返すんですよ。だからナオとタクがチョコチョコと悪さをして怒った時に、横でおばあちゃんとかがヘラヘラしていると『ここはヘラヘラしないで! 今は真剣に言っているところだから』と言ってましたね。『ここで笑いを入れちゃうとダメだよ』、『ここはみんな真顔になって』みたいな。そうしないと伝わらないですよね」

――真吾さんのトレーナーとして理想のゴールって何でしょう?

「2人とも最低世界チャンピオンにしたい、なってもらいたいというのが第一ですね。あとは僕があいつらの良いところを伸ばして、悪いところを直して……。ずっと変わらないですね。変に浮ついた時は言わなくちゃいけないし」

「自分が強くなるための練習を毎日やっていれば、気持ちはついてくる」

――モチベーションもしっかり上げていくと。

「上げるというより結局、自分が強くなるための練習を毎日やっていれば、気持ちはついてくる思うんですよ。本当にシンプルに強くなるというそこですね。そうすれば結果も絶対についてくる。仕事でも一緒じゃないですか。もし世界に強い選手がいるんだったらそういう選手よりも強くなる練習をすること。そこがしっかりしていればモチベーションうんぬんというのはあまりないですよね」

――最後にもう一つ質問させてください。尚弥選手や拓真選手のネジは真吾さんが締めますけど、真吾さんのネジを締めてくれる人はいるんですか?

「自分なんかは性格と考え方がこうですからね。弱いところを人に見せるのも嫌だし、そういうのは大丈夫なんです。がんばってやって、一日の仕事を終えて息抜きながらお酒が飲めればいいというくらいですかね。自分は自分でスイッチ入れちゃいますもん。不動産でも塗装でも、練習は練習で当たり前ですけれども、自分がやらなきゃいけないことはわかっているんで。自分が納得するようにやるだけなので」

――7日は尚弥選手はWBSS決勝のドネア戦、拓真選手はウーバーリとのWBC王座統一戦です。もうスイッチは“これでもか!”というくらい入ってますね。

「そうですね、もう相手が強いということがスイッチですね。やらなくちゃいけないことは分かってますから。ガチンといきますよ」

(終わり)(渋谷 淳 / Jun Shibuya)