生体販売をいち早く中止したペットショップを直撃、売り上げはどう変わったのか
今年6月に犬猫の生後56日以下の販売規制などを盛り込んだ改正動物愛護法が成立する以前の3月。新潟の大型ペットショップ『スマイルワン』は、すべての生体販売中止を発表した。
ペットショップがペットの販売をやめる、とはどういうことなのか。
“あ、この人には渡したくないな”
『スマイルワン』は、約20年前に新潟市内にオープンした老舗である。生体販売をメインに、ペットホテル、トリミング、物販を行っていた。10年ほど前に、現在の場所に移転。店長の國嶋慎司さんが言う。
「当時、ペット販売は売り上げの2〜3割は占めていたでしょうね。まずは生体販売、そこからほかのサービスにつなげていくというのが普通でした」
ペットブームの一方で、飼育できなくなり捨てられてしまう動物の存在や、生き物ではなく“商品”として生体販売を行う一部のペットショップに対する動物愛護団体の活動も注目されたころ、國嶋さんはこんな体験もしていた。
「実際に販売する中で“あ、この人には渡したくないな”と思うことが正直ありました。可愛い、というだけで安易にペットを手に入れようとする人たち。恋人や家族と一緒に、まるで動物園とか遊園地に遊びに行く感覚でここに来て、よく考えずに買ってしまうこともあったと思う」
國嶋さんたちがずっと世話をしてきている犬たちだ。ときには、具合が悪くなって病院に連れて行ったこともある。
「愛着も湧いているんです。もちろん、会社としては販売をして利益を上げなければならないし、そこから僕たちも給料をいただいているわけですからね。でも、目の前にいる子が、そんな軽いノリで連れていかれるのは、かなりの苦痛だったんです」
そんな中、導入したのが『しつけ教室』だった。
「犬に訓練を施して“しつけ”を覚えさせるという建前ですが、お客様にワンちゃんに対する扱い方、向き合い方をレクチャーする教室でもあるんです」
そして、これまでの単純に展示して販売するという生体販売の方法も変えた。
「トレーニングをしてから販売することにしました。小さいころから、“待て”“おすわり”のトレーニングを施し、その様子をお客様が見られるようにしました。それが販売にもつながりましたね」
犬の『幼稚園』が誕生
そうやって、段階的に生体販売から、アフターサービスに切り替えていった。社長も「何とか生体販売をやめることはできないのか」と頭を悩ませていた。
「でも、すぐには切れない。生体販売をやめる準備として出てきたのが『幼稚園』だったんです」
これは、人間の学校や幼稚園のように、犬を預かって専門のトレーナーによってトレーニングを施し、飼い主に返すというシステムだった。
「週に1回で月額いくらというシステム。メリットが認知されるようになって、だんだん頭数も増え、今、100頭くらい。ビジネスの大きな柱に成長しました」
専門的な知識を学んだスタッフが担当し、ただ預かるのではなく、あくまでもトレーニングがメイン。
取材当日も、エレベーターに乗るのを怖がるワンちゃんをスタッフがなだめながら、乗れるようにじっくりと訓練していた。
そして、ペットホテルも改装。ただ泊まるのではなく、遊び場を作った。
トリミングにしても、技術の向上のために講師を招いたり、店内でもコンテストをやったりさまざまなイベントを企画。
「とても集客に効果がありました。飼い主さんのネットワークってすごいんですよ」
方針転換後の売り上げは、どうだったのだろう。
「3月以前とそれ以降ではほとんど変わりませんでした。“生体販売中止”という言葉がメディアに出てからいろんな取材が入りましたからね。来客数もグッと増えました」
最近では、動物愛護団体に場所を提供して、猫の譲渡会なども行われている。
敵対していたはずの愛護団体とペットショップ──それがいい関係を築くこともあるのだ。