千葉県のいすみ鉄道は運賃のほかに料金が必要な「急行」を走らせている(写真:tarousite/PIXTA)

10月1日からの消費税率変更により全国各地の鉄道の運賃が値上げされた。

鉄道の運賃を設定・変更するには、鉄道事業法(以下「法」)第16条により運賃額上限の認可を受けることが必要である(上限の範囲内での変更は届け出)。国交省のホームページによれば、今回の消費税率変更による運賃の上限変更も法第16条に基づく認可がなされたものであり、事業全体として108分の110以内の増収であることを前提としたとのことである。

鉄道の運賃はどう決まる?

鉄道運賃の上限の基準については以前に書いているのでご参照いただきたいが(2015年11月20日付記事「北海道新幹線が東海道新幹線より高額なワケ」)、運賃上限額の認可は「能率的な経営の下における適正な原価」に「適正な利潤を加えたもの」を超えないものであるかを審査したうえでなされる(法第16条第2項)。


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「適正な利潤」が加算されるものの、実際のところ、大手民鉄はともかく全国の地域鉄道の経営は厳しく利益が出ていないところが多い。国交省のHPでは、2017(平成29)年度において、全国の地域鉄道(「新幹線、在来幹線、都市鉄道に該当する路線以外の鉄道路線」と定義)96社中73社が鉄軌道業の経常収支ベースで赤字とされている。

いずれも運賃上限額認可の際には運行経費に「適正利潤」が加算されて一応の利潤が確保されているはずなのに、地域鉄道の約4分の3が赤字となっているという現状では何が適正なのか、という疑問も生じる。

「適正利潤」に関して、中小民鉄に適用される「収入原価算定要領」には「配当所要額」(適正利潤)という項目があり、「払込資本金に対し10%配当に必要な額の鉄軌道事業分担額」とされている。

民間事業者という立場からすれば、運賃額を決定する際に利益をどの程度見込むかは本来自由に決められるはずである。

その自由な決定を規制するということからすると、鉄道事業法がいう「適正な利潤」とは、「鉄道事業者が自身で適正と考える利潤」や「目標とする利潤」ではなく、「利用者のために必要以上に儲けさせない」という目的からはじき出される「適正利潤」であり、公共的側面から見た「適正な利潤」の確保にとどめるということである。

運賃変更求める行政訴訟も

しかも、上限運賃の認可やその範囲での運賃届け出をしたときには、運輸審議会への諮問や、重大な利害関係を有する利用者の意見が聴取されることもありうる(法第64条の2、第65条、鉄道事業法施行規則(以下「規則」)第73条第3号)。

過去には、北総鉄道について現鉄道事業法下で認可された運賃の変更を求める行政訴訟が利用者から起こされたこともあった(東京地裁平成25年3月26日判決『判例時報2209号』79頁・変更は認めず)。

1999(平成11)年に鉄道事業法が改正された際、「鉄道事業者間の競争の促進による利便性の向上の要請に対して鉄道事業への参入を容易にする」などの理由によりそれまでの規制は緩和された。

運賃についても鉄道事業者はより機動的に定められるようになったが、それでも「認可された上限運賃の範囲内」という限定は付く。規制が緩和されたとはいっても、鉄道事業が地域の独占的な交通機関であり、重要な公共交通機関であるからこその経営の自由に対する規制が残されている。

しかし、「運賃」ではなく、特急料金などの「料金」になると扱いが変わる。

料金についても運賃同様に鉄道事業法で定めがある。法第16条第1項において、「国土交通省令で定める料金」は法第16条第1項により運賃と同様上限の認可を受けなければならないとされている。他方で、法第16条第4項では、「特別車両料金その他の客車の特別な設備の利用についての料金」は認可不要で届け出で足りるとされている。この点をさらに説明する。

法第16条を受けた規則第32条は、まず第1項で、運賃と同様に認可の対象となる料金を「特別急行料金、急行料金その他の運送の速達性を役務の基本とする料金であって、新幹線鉄道に係るものとする」と定義づけている。

続いて、規則第34条第1項第2号は、法第16条4項にいう特別料金等に含まれるものとして「特別急行料金等であって(規則)第32条第1項に定めるもの以外のもの」と定めている。

すなわち、認可を要するのは新幹線特急料金であって、それ以外の特急料金や急行料金は届け出をしさえすればよいということである。特急料金だけでなく特別車両料金や特別な設備の対価である料金や指定席料金も認可の対象ではなく届け出をすれば足りる(法第16条4項、規則第34条第1項各号)。もともとこの料金も一部(特急料金など)は認可の対象であったが、鉄道事業法改正の際の規制緩和で届出制の対象が広げられた。

運賃と料金の違い

運賃は地域公共交通の基本的な輸送の対価である一方、料金は速達列車や特別車両を利用する場合のプラスアルファの対価である。

料金の対象となるサービスは公共交通機関としての移動サービスではなく速達性、快適性といったサービスであるので、その対価を認可の対象とする必要はない。

ただ、新幹線の特急料金について運賃と同様に認可の対象としているのは、新幹線鉄道を走る列車は特急列車しかなく、新幹線を利用するには運賃+特急料金が必ず必要になるため、特急料金といえども運賃と同視できるからである。

料金に関する興味深い例としていすみ鉄道(千葉県)の「急行料金(300円)」がある。通常、利用者が急行料金を支払ってでも急行に乗るのは、急行列車の速達性ゆえである。しかし、いすみ鉄道の時刻表を見ると明らかなとおり、この「急行」は通過駅こそあるものの普通列車と比べて速くもなく、通常の急行列車のような速達性はない。
  
それでも人が「急行」に乗るのは、速達性ゆえにではなく、その車両が国鉄時代の気動車だからであり、懐かしい急行券を手に往年の気動車急行の雰囲気を味わえるからである。つまり「急行」という名称を用いて料金を徴収することで、「移動をする」対価の運賃とは異なる「懐かしさ」「珍しさ」という付加価値に対する収入を得ているということである。

沿線人口が希薄なところを走る多くの地域鉄道では、もともと利用客数に限界があるうえに客単価を抑制されるのであるから、日常の普通旅客を増やしても経営にはどうしても限界が生じる。

国鉄が存在した時代、赤字ローカル線を廃止させないために「乗って残そう」運動が全国で展開されたことがあった。鉄道利用の実績を作るために沿線住民がとにかく列車に乗る、というものであった。輸送密度を廃止基準にしていたのでやむをえないところではあったが、結局は多くの路線が存続できず根本的なローカル線の課題の解決とは程遠かった。
  
「乗って残そう」運動は単に運賃収入を増やすだけであり、それは規制されている運賃収入を増やすだけでしかない。そしてまた、沿線人口が希薄な地域を走る鉄道で日常利用を増加させるには限界がある。利用目的のない「乗って残そう」運動による乗車に鉄道の公共交通としての機能が発揮されているとはいえないし、それをしても鉄道に十分な利益をもたらすことにもならない。

「料金」を活用すべき

もちろん、運賃も上限運賃の範囲内で機動的に運賃を定めることができ、割引きっぷなどで弾力的な運賃サービスを提供することができる。しかし、認可された上限運賃収入で計算上得られる「適正な利潤」は公共交通機関として果たす役割のために制約された利益である。実際に地域鉄道の多くが赤字になっていることからすれば、運賃からの利益獲得には限界がある。

その一方、料金は運賃のような制約を受けずに、利用客に付加価値を提供して対価を得ることができる。地域鉄道の付加価値を高めることは、公共交通を支える地元への還元にもつながることになる。もちろん、料金自体の単価で何万円単位もの客単価を設定できるものではない。

しかし、いすみ鉄道の「急行」のようなものも考えられるし、列車種別によらない料金設定も考えられるであろう。規制された運賃の下で地域公共交通としての重責を果たしたうえで(不可避的に発生する赤字をどう埋めるかの問題は残るが)、鉄道事業者が民間事業者として腕を振るうことができる「料金」で大いに鉄道の魅力、付加価値のついた鉄道が今後も展開されることを期待したい。