アメリカのセントラルフロリダ大学は9月19日、比較的短期間で太陽を周回する短周期彗星がどのようにやってくるのかを分析したGal Sarid氏らの研究成果を発表しました。研究内容は論文にまとめられ、The Astrophysical Journal Lettersに掲載される予定です(arXivにてプレプリント版が公開中)。


軌道が変わって地球に近付く日が来るかもしれない「シュヴァスマン・ヴァハマン第1彗星」の想像図


■海王星の外側から来た小天体が一時的に滞在する「ゲートウェイ」

その長い尾で私たちの目を楽しませてくれる彗星には、公転周期が長い長周期彗星と、公転周期が短い短周期彗星の2種類があります。両者の違いはその故郷にあるとみられており、長周期彗星は太陽系の一番外側にある「オールトの雲」、短周期彗星は海王星の公転軌道よりも外側にある「エッジワース・カイパーベルト」からやってくる小天体がそれぞれの正体と考えられています。


場合によっては公転周期が数万年にも及ぶ長周期彗星とは異なり、短周期彗星は一人の人間が一生を終えるまでに何度か太陽に接近することもめずらしくありません。ひんぱんに塵やガスを放出することになるため、短周期彗星は(天文学的なスケールで見れば)すぐに活動を終えてしまいます。


太陽系が誕生してからすでに46億年ほどが経過したと考えられていますが、それなのに現在でも短周期彗星が見られるという事実は、エッジワース・カイパーベルトから絶えず小天体がやってきていることを意味します。


今回Sarid氏らの研究チームは、エッジワース・カイパーベルトを外れた小天体が太陽へと接近する前に、一時的に滞在するとみられる軌道が存在することをシミュレーションによって明らかにしました。その場所は木星の公転軌道(太陽からおよそ5天文単位)のすぐ外側にあり、太陽から5.2〜7天文単位の範囲。研究チームはこの軌道を「ゲートウェイ」(入り口、玄関)と呼んでいます。


■ゲートウェイを周回する彗星は将来地球の近くまでやってくるかも?

今回ゲートウェイと名付けたエリアでは、「ケンタウルス族」というグループに属する小惑星が幾つか見つかっています。これらの小惑星は以前から、エッジワース・カイパーベルトを外れて短周期彗星になる途上の小天体ではないかと考えられてきました。Sarid氏らによる今回の研究は、この説をシミュレーションによって補強した形です。


そのなかには、ひんぱんにアウトバースト(急激な増光現象)を起こすことで知られている「シュヴァスマン・ヴァハマン第1彗星(29P/Schwassmann-Wachmann 1、SW1)」という彗星も含まれています。SW1の公転周期はおよそ15年ですが、その現在の軌道はかなり真円に近く、木星の軌道よりも内側に入ることはありません。


宇宙望遠鏡「スピッツァー」が撮影したシュヴァスマン・ヴァハマン第1彗星の赤外線画像。2003年に公開(Credit: NASA/JPL/Caltech/Ames Research Center/University of Arizona)


SW1の軌道は繰り返し木星の影響を受けています。研究チームによると、現在の真円に近いSW1の軌道は1975年に木星へと接近したときから続いていますが、今後2038年の接近時にも影響を受けて、今よりも少しだけ真円から離れた軌道に変化する(離心率が大きくなる)とみられています。


また、研究チームは、SW1が歴史的な彗星へと移行する可能性も示唆しています。NASAによると、SW1の核の直径はおよそ30km。22年前に太陽へ最接近した「ヘール・ボップ彗星」(60km)より小さいものの、有名な「ハレー彗星」(11km)の3倍近くもあります。


そう遠くない将来、木星の重力によって軌道が大きく変化したSW1が地球の比較的近くを通過するようなことがあれば、冒頭の想像図のように壮大な天体ショーを見せてくれるかもしれません。


 


Image Credit: University of Arizona/Heather Roper.
Source: UCF
文/松村武宏