※当初ベルン大学の所在地を「ドイツ」としていましたが、正しくは「スイス」です。訂正の上、お詫び申し上げます。【9月5日20時30分追記】


スイスのベルン大学は8月29日、噴火活動する太陽系外衛星が存在する可能性を示したApurva Oza氏らの研究成果を発表しました。研究内容は論文にまとめられ、現在プレプリント版がarXivにて公開されています。


系外惑星「WASP-49 b」(右)と、噴火活動で質量を失いつつある系外衛星(左下)の想像図。左上に見えるのは主星の「WASP-49」


■潮汐作用で噴火する系外衛星が存在するかもしれない

木星の衛星イオでは、巨大な木星の重力がもたらす潮汐作用によって内部が加熱され、活発な噴火活動が起きています。先日紹介したイオの噴火活動に関する研究によると、述べ271夜の観測期間内だけでも75以上の火山で合計1000回以上の噴火が確認されています。


イオのように活動的な衛星は、太陽系に限らず、太陽系外惑星の周囲にも存在しているかもしれません。研究チームが「exo-Io(エクソ・イオ)」と呼ぶこのような系外衛星は、仮に存在するとしてもサイズが小さいため、系外惑星と同じような方法で発見するのは困難でしょう。しかし、火山活動にともなう噴出物がある程度放出されていれば、地球からその痕跡を観測できるかもしれません。


今回の研究にも参加しているRobert Johnson氏は、2006年に発表した論文において、系外惑星で観測される大量のナトリウムが系外衛星(あるいは輪のような構造)の存在を示唆している可能性を指摘しています。


特に、系外惑星よりも離れたところでナトリウムが見つかれば、それは系外惑星から放出されたものではなく、その周囲にある系外衛星や輪などの存在に結びつく可能性が高まるというのです。


木星の衛星「イオ」(Credit: NASA/JPL/University of Arizona)


■系外惑星から離れた場所にナトリウムが見つかった

今回、Oza氏らの研究チームがシミュレーションを行ったところ、系外惑星がもたらす潮汐作用は系外衛星の軌道を安定させますが、そのいっぽうで衛星の内部をイオのように加熱させて激しい火山活動を誘発し、惑星よりも多くのナトリウムやカリウムを宇宙空間に放出することが判明。シミュレーション結果と系外惑星の観測データを照らし合わせたところ、系外衛星の存在する可能性が高い系外惑星が5つ見つかったのです。


なかでも、オリオン座の南にある「うさぎ座」の方向およそ550光年先にある恒星「WASP-49」を2.7日ほどで公転する系外惑星「WASP-49 b」では、かなり離れた場所でナトリウムのガスが検出されました。研究チームによると、ナトリウムの存在を一番うまく説明できるのはエクソ・イオ……すなわち噴火活動をともなう系外衛星が存在する場合だといいます。


ただ、系外惑星から離れた場所でナトリウムが見つかったからといっても、ただちにイオのような系外衛星の存在に結びつくとは限りません。例として、WASP-49 bがイオン化したガスの輪を持っているから、という可能性が挙げられています。


Oza氏自身が「もっと多くの手がかりを見つけなければ」と語るように、活動的な系外衛星がたしかに存在すると結論するためには、他の多くの仮説と同様に、さらなる観測が求められるようです。


 


Image Credit: University of Bern, Illustration: Thibaut Roger
https://www.unibe.ch/news/media_news/media_relations_e/media_releases/2019/medienmitteilungen_2019/hints_of_a_volcanically_active_exomoon/index_eng.html
文/松村武宏