クエーサーを取り巻く熱いガス中の紫外線とX線を観測。ダークエネルギーの量の変化が観測結果から導き出される。  (c) NASA/CXC/M.Weiss; X-ray: NASA/CXC/Univ. of Florence/G.Risaliti & E.Lusso

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 米航空宇宙局(NASA)は1月30日、運営するチャンドラX線観測衛星から取得したデータを分析し、宇宙の膨張を加速させる仮想上の「ダークエネルギー(暗黒エネルギー)」が時間とともに変化していることを明らかにした。今回の発見が膨張する宇宙の謎に一石を投じることが期待される。

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■アインシュタインの宇宙定数を一般化した「ダークエネルギー」

 ダークエネルギーは、アインシュタインが導入した宇宙定数と関連がある。アインシュタインは宇宙の大きさが不変だと想定し、宇宙定数を導入したものの、ハッブルにより宇宙の膨張が判明し、宇宙定数は撤回された。

 ところが約20年前、超新星爆発を起こした天体までの距離を計測する際に、宇宙の膨張が加速することが判明した。この宇宙の加速膨張を説明するために、宇宙定数を一般化した仮想上のエネルギー「ダークエネルギー」が宇宙全体に浸透するという説が提唱された。

■発見のカギはX線と紫外線

 1999年にNASAが打ち上げたチャンドラは、X線の観測により宇宙の構造や進化を理解することが目的の人工衛星だ。伊フィレンツェ大学や英ダラム大学の研究者から構成されるグループは、新しい方法によって約90億年前までダークエネルギーを追跡した。

 研究グループが着目したのが、遠方宇宙で急速に成長するブラックホールが光を放つ「クエーサー」だ。クエーサーまでの距離を推定するために、紫外線とX線のデータが用いられた。

 熱いガスからなる雲の中で紫外線の光子の一部が電子と衝突すると、紫外線のエネルギーがX線のレベルまで押し上げる。その結果、紫外線とX線の放射量に相関が生じ、クエーサーの光量が変化するという。

 研究グループは、紫外線のデータに関しては、宇宙の精密な地図を作成するプロジェクト「スローン・デジタル・スカイサーベイ」から、X線のデータについては、チャンドラと欧州宇宙機関(ESA)の運営するX線観測衛星XMM-Newtonから取得した。これにより、紫外線とX線との相関を導き、クエーサーまでの距離を計測した。約1,600ものクエーサーまでの距離を利用し、初期宇宙まで遡って宇宙の膨張率を導出したところ、時間とともにダークエネルギーの量が変化することが判明した。

■宇宙の膨張率と観測データとの不一致を説明可能か?

 「クエーサーの観測により、宇宙の膨張はわれわれが期待するよりも早いことが判明した。これは、宇宙が年を重ねるにつれ、ダークエネルギーが強まることを意味する可能性がある」とフィレンツェ大学のGuido Risalti氏は語る。

 今回の結果は、ダークエネルギーが宇宙定数ではない可能性を示唆する。宇宙の膨張率を表すハッブル定数と初期宇宙のマイクロ波背景放射の観測とのあいだに不一致があることが2018年2月に判明したばかり。今回の発見がこの問題を解決するのに役立つかもしれない、と研究グループは期待を寄せている。

 研究の詳細は、英天文学誌Nature Astronomyにて1月28日に掲載されている。