2018年9月25日、大阪府東大阪市にある近鉄布施駅前商店街の一画に、今までにないスタイルの宿泊施設「SEKAI HOTEL布施」がオープンし、話題となっている。シャッターを下ろした空き店舗を改築して簡易宿所とし、商店街の飲食店や銭湯を割安で利用する、「まちごとホテル」というユニークなアイデアだ。

さすが大阪ならではの斬新な発想と感心したJタウンネット編集部は、大阪に電話して話を聞いてみることにした。

空き家問題を解決し、地域を活性化


東大阪市・近鉄布施駅前商店街(クジラ株式会社PRリリースより)

東大阪市は大阪市の東に隣接し、技術力の高い中小企業・町工場が集まるものづくりのまちだ。また布施駅前商店街は、難波から近鉄電車で10分ほどの距離にあり、八百屋、青果店、たこ焼き屋、揚げたてのコロッケなどを提供する精肉店が軒を連ねる、いかにも大阪らしい庶民の町だ。

この商店街にも、人口減少、後継者不足、また大型店舗などの影響を受けたせいか、空き店舗が出てきた。これらシャッター化した店を改築し、客室(全4室)とフロント、カフェバーを設けた簡易宿所として生まれ変わらせ、「まちごとホテル」というコンセプトで開業したのが「SEKAI HOTEL布施」だ。


SEKAI HOTEL布施のフロント(クジラ株式会社PRリリースより)

電話で答えてくれたのは、「SEKAI HOTEL」広報担当者だった。

このプロジェクト発想のきっかけを次のように語ってくれた。

「弊社の母体であるクジラ株式会社は、住宅やオフィスのリノベーションを手がけています。地域の困りごとを、リノベーションをとおして解決できないかと考えるようになりました。地域にある空き家を宿泊施設として再生利用し、街ごとホテル化するというプロジェクトは、その過程で生まれました」

「昨年9月に開業した大阪市此花区の『SEKAI HOTEL西九条』は、USJ(ユニバーサル・スタジオ・ジャパン)に向かう乗換駅の近くにあります。いわゆる長屋形式の住宅が多く、再建が難しい場所もあり、大手のデベロッパーさんも手を出しにくいロケーションでした。ここで問題となっていた空き家問題を解決し、地域活性化を目指すために発想したのが、街ごとホテル化するというプロジェクトです」

現在、「SEKAI HOTEL西九条」は、稼働率は75%前後で、宿泊客の半数が訪日外国人だという。もちろんUSJに近いという地の利の良さと、昨今のインバウンドブームが追い風となったことは言うまでもない。古い長屋住宅の空家問題は解決し、近隣の飲食店、商店、銭湯などにも波及効果をもたらしたようだ。


SEKAI HOTEL布施の個室(クジラ株式会社PRリリースより)

「東大阪市の布施の場合は、商店街の店主たちの高齢化が問題でした。後継者もなかなか見つからず、若者層の流入も期待できないといった不安もありました。1年ほど前から商店会の皆様と協議を重ね、西九条でのノウハウや実績を生かす形で実現したのが、今回の布施のプロジェクトです」と担当者。

改築のデザインコンセプトは「工場に泊まる」。日本を代表するモノづくりの街、東大阪エリアの町工場にインスパイアされ、施設はインダストリアルモダンなデザインにしたという。また地元メーカーと、照明器具や家具などのインテリアを共同開発した。これらのインテリアは、カフェを併設するフロントにて実際に購入することもできるとのこと。

同じ商店街のエリアに、来年3月までにさらに簡易宿所4軒が出店される予定。いずれ20軒ほどに増やしたいという。


SEKAI HOTEL布施のドミトリー(クジラ株式会社PRリリースより)

元婦人服店のフロントでチェックインをすませた宿泊客は、宿泊施設へ行くために商店街の中を歩くことになる。またチェックイン時に配られる「SEKAI PASS」を地元の商店街などで提示すると、割引サービスも受けられる。「まちごとホテル」というコンセプトは、「SEKAI HOTEL」のブログの投稿記事を読むと想像できるのではないか。

「商店街や、商店街の周りにある人々の暮らしそのもの、当たり前の『日常』の生活こそ、観光客が求めているコンテンツではないでしょうか。外国人観光客だけでなく、日本人観光客にとっても、『日常』の生活に触れることは、魅力的な体験、新しい旅のスタイルと感じられることでしょう」と語ってくれた。

詳しくは「SEKAI HOTEL」公式サイトをご参照あれ。