九州北部でワイン造り。あまりイメージがないが、福岡県北九州市で、いまブドウ栽培から取り組んでいるワイナリーがある。

北九州市は2016年に、国家戦略特区「汐風香る魅惑のワイン特区」に認定された。酒税法では、果実酒の最低製造量は年間6キロリットルと定められているが、この特区では2キロリットルに緩和される。従来よりも小さな規模でのワイン製造が可能となり、地産地消や、いわゆる「6次産業化」の促進を目指すものだ。

そして、その特区を活用して、新たにワイナリーを起こした人物がいる。Jタウンネットは2018年8月、ワタリセファーム&ワイナリー(北九州市若松区)の藤田佳三さん(39)に話を聞いた。

代々農家だが、ブドウづくりはしていなかった



藤田さん一家は、この土地で代々農業を営んでいるが、以前はブドウを作っていなかった。いまから20年ほど前、当時藤田さんは建築の専門学校に通っていたが、農業のエッセイを読んだり、国内ワイナリーの先行事例を耳にしたりするうちに、ワインに興味を持つようになったそうだ。

「先祖から受け継いだ土地で、なにかできないかなと考えたときに、たまたま日本でワイン造りをしているところが少しずつ出てきました。最初は『日本でも造っている人がいるんだな』くらいだったのですが、就農していろんな作物を育てるなかで『いつかはブドウを育てたいな』と考えるようになりました」


その後も、ワイン用ではない食用ブドウを栽培するなど、「夢」の実現に向けて、着々と準備を重ねた。具現化したのは2012年、長野のワイナリーで体験醸造に参加してから。翌年に「まず自分で植えてみないと始まらない」と、苗木を取り寄せ、試験栽培をスタートした。

「将来ワインを作れたらいいなぁと漠然と思い描いていたのが、体験醸造に参加してから具体的に動き出しました。それから宮崎県の都城ワイナリーさんで、栽培・収穫から醸造までをさせてもらったり、去年は都農(つの)ワイナリーさんに1か月くらい住み込んで、一連の工程をさせてもらったりしました」

13年から栽培をはじめたワイン用のブドウは、他のワイナリーでの委託醸造を経て、18年6月に自家醸造の「ワタリセメルロー2017」として形になった。それらは北九州市や福岡市内の酒店5〜6軒で販売されているという。

地産地消のワインを目指して



この土地で生まれたワインには、どんな料理を合わせるのがいいのだろう。

「地元で栽培して、醸造して、飲んでもらうってのが理想ですね。ワインを精一杯作ることしか、ぼくにはできないんで、『どういう味付けの料理に合うんですよ』と言うのは難しいです。せっかく海が近い地域なので、将来は福岡の海の幸に合うような白ワインができればなとは思いますが......」

この夏は、赤ワイン用の品種「メルロー」に加えて、白ワインになる「シャルドネ」や「シュナン・ブラン」の栽培も始めた。農園でひと粒食べさせてもらうと、甘さとともに皮の渋みも感じられる。これが熟成されるにつれて、「深み」に変わっていくのだろう。



ワインラベルには灯台が描かれているが、近所にそのモデルがあるという。藤田さんのご厚意に甘えて、車で10分ほどの距離にある、妙見崎灯台へ連れて行ってもらった。空と海の青に、灯台の白が映える。汐風香るこの若松から、きょうも藤田さんは「北九州ワイン」づくりに取り組んでいる。

(Jタウンネット編集長 城戸譲)