その習慣が脳機能の活性化を阻んでいる可能性も(写真:Deja-vu/PIXTA)

誰しも「体にいいから積極的に食べているもの」や、「体に悪いとわかっていても、ついやってしまうこと」があるでしょう。体に悪い、と考えているものは、やはり脳にも悪いのでしょうか。『最強の暗記術』の著者で、独学で東京大学、ハーバード大学院に合格した、本山勝寛氏が脳機能の活性化につながる3大フードと、逆に活性化を阻む3大悪習慣を教えてくれます。

暗記したい時間から逆算してコーヒーを飲む

記憶力や集中力、思考力など、頭の働きをよくするには、常日頃から地頭を鍛えることも大切ですが、実は毎日の積み重ねとなる食習慣も影響します。脳機能の活性化につながる飲食物を英語では「brain foods」といいますが、ここでは科学的に検証されているブレインフードの中でも、私が実際に意識して摂取し、効果を感じている3大フードを紹介します。

1つ目のブレインフードはコーヒーです。コーヒーは、カフェインが睡眠物質であるアデノシンという脳内物質を抑制させることで、覚醒効果と集中力を高めるのに役立ちます。

また、記憶や学習に重要な役割を果たす脳の海馬の神経細胞の働きを強化し、記憶力を高めるという実験結果もあります。飲んでからおよそ20分後に脳の覚醒が始まり、60分後をピークに4時間ほど続きます。勉強、暗記で集中したい時間から逆算してコーヒーを飲むのがよいでしょう。

私は、毎朝朝5時に起きるといちばんにコーヒーを飲みます。それから、勉強や執筆などアウトプットの準備をして15分後くらいに勉強の集中時間に入ります。朝のこの時間は驚くほど集中できます。また、朝のコーヒーの覚醒効果がなくなった頃、午後の時間は眠気もおそいやすいので、お昼にもう一度コーヒーをカンフル剤とします。夜は早めに就寝することにしているのでコーヒーを飲みませんが、夜遅くまで勉強をしていた時期は夕食後の20時頃に飲んで、最後のひと踏ん張りをしていました。

コーヒーは1日3杯ほどが適量のようです。一方で、コーヒーに砂糖やコーヒーフレッシュを入れて飲みすぎると、糖分の摂りすぎなどにつながってしまうので控えめにしたほうがよいでしょう。

2つ目のブレインフードは高カカオチョコレートです。チョコレートの主原料であるカカオに含まれるカカオポリフェノールは脳の血流量を増やし、脳由来神経栄養因子(BNDF)を含む血流の増加によって記憶や学習などの認知機能を高める可能性が研究によって示されています。

特に、高カカオチョコレートに含まれる高濃度のカカオポリフェノールが効果を発揮します。カカオポリフェノールは一度にたくさん摂取しても排出されてしまうので、1日3枚から5枚が目安とのことです。カカオポリフェノールに含まれるエピカテキンの血中濃度は2時間でピークに達し、徐々に体外へ排出されるので、午前、午後、夕方など1日数回に分けて食べるのがよいでしょう。


脳機能を活性化する3大フードとは?

3つ目のブレインフードは大豆製品です。豆腐、納豆、味噌汁など、大豆製品はさまざまな形で食生活に取り入れられます。大豆は健康にいい食べ物として一般的にも知られていますが、脳機能の向上にも効果的です。大豆にはレシチンが含まれており、脳や神経組織に多く存在している成分で、レシチンは、神経伝達物質であるアセチルコリンの生成を促して、記憶力や学習機能の向上に寄与するといわれています。

食習慣は毎日繰り返し、積み重ねられるものです。毎日の積み重ねが、長期的には大きな違いを生み出すことになります。脳機能を活性化させ、暗記力を向上させるのに、実は食習慣を意識することも大切な要素の1つなのです。

お酒の飲み過ぎは脳にもあまりよくない

頭の働きをよくする食習慣について紹介しましたが、逆に脳に悪い習慣もあります。

多くの人に見落とされがちですが、実は中長期的には脳機能にかなり影響を及ぼすと思われる習慣です。そこで、「頭の働きを悪くする3悪習慣」を紹介します。

1つ目の悪習慣は、お酒の飲み過ぎです。お酒を飲み過ぎると、自己コントロールができなくなったり、記憶が飛んだり、二日酔いで頭痛になったりと、脳によい影響がないというイメージは一般的にも持たれているかと思います。

科学的にもアルコールが脳に悪影響を与えることは実証されています。オックスフォード大学とロンドン大学の研究チームは、脳のMRI(核磁気共鳴画像法)検査を受けた平均43歳の男女550人を対象に過去30年のデータを解析した結果、飲酒量が多いと海馬萎縮を発症するリスクが高まり、記憶や空間認知に影響を及ぼす可能性があるという研究を発表しています。

海馬の萎縮リスクは、アルコールを飲まないグループと比べて、週30ドリンク(1ドリンクはアルコール8グラム、アルコール度数5%のビール200mlに相当)以上の多量飲酒のグループで5.8倍、週14〜21ドリンクの適量飲酒のグループでも3.4倍高まります。さらに、週1〜7ドリンク未満しか飲まないグループでも、海馬の萎縮リスクを抑制する効果はみられなかったとのことです。

飲み過ぎが脳によくないことは数値からも明らかになっていますが、適量のお酒でも脳にダメージを与えていることがわかります。この検査を受けた平均年齢は43歳と、決して高齢ではない現役世代の頃から影響が現れやすいということも注目に値します。

ダラダラと使ってしまうスマホは大問題

ちなみに、私はお酒を一切飲みません。飲み会には参加しますが、飲まないことにしているとはっきりと伝えれば、人間関係や仕事でも困ることはありません。おかげで、記憶力や脳機能の低下を一切感じることはありませんし、飲み会後の夜や翌日の朝に、頭痛で頭が働かないということもありません。

頭の働きを悪くする2つ目の悪習慣は、学習中などのスマホです。勉強や暗記もスマートフォンのアプリを使ってできることもありますが、学習時間に学習目的以外にスマホを気にし始めると集中力が落ちてしまいます。

友達からLINEでメッセージが届いたり、フェイスブックやツイッター、インスタグラムの投稿が気になったりすると、必要な集中ができなくなります。目的を持った学習時間などには終了時間まで必ずスマートフォンを触らない、マナーモードにして視界から外れたところに離して置いておくといったルールを決めておくのがよいです。

スマホはやり始めると時間がいくらでも奪われるという問題もあります。休憩時間のスマホ使用も時間を決めたり、やることを決めておいて、メリハリをつけて付き合うのがよいでしょう。逆に、スマホに英単語暗記アプリなどを入れておいて、通勤などのスキマ時間にゲーム感覚で英単語に取り組んだりすると、スマホの中毒性を逆に頭の働きに活かす工夫もできます。

脳にダメージを与える3つ目の悪習慣は、過度で慢性的なストレスです。人間関係に悩んでいたり、大きな心配事があったりすると、勉強に集中できないという経験はないでしょうか。あるいは、緊張でパニックになり、頭が真っ白になって覚えていたことをすべて忘れてしまったということもあるかもしれません。

ストレスは大脳皮質前頭前野に影響を及ぼすといわれています。前頭前野には抽象的な思考にかかわる神経回路があり、集中力を高めて作業に専念させる役割や、情報を一時的に記憶するワーキングメモリーとして働く機能があります。慢性的なストレスにさらされると、前頭前野の樹状突起が萎縮し、これらの機能が低下する可能性があるのです。

ストレスは脳にダメージを与えてしまう

うつ病や依存症、心的外傷後ストレス障害(PTSD)などの心の病も、こういったストレスによる脳内変化が原因といわれています。厚生労働省によると、うつ病の生涯有病率(これまでにうつ病を経験した者の割合)は日本では3〜7%です。決して他人事ではありません。うつ病を発現する前のストレス予備軍も、かなりの数がいるのではないかと思われます。


ストレスを溜め込み過ぎてしまうと、精神的にも、脳の働きからみてもダメージを受けてしまいます。可能であればストレスの原因となっている人間関係をうまく整理したり(解決できなければ、人事部に訴えたり、職場を変えるのも1つの方法)、運動や歌などの趣味を思いっきりやってストレス解消したり、ストレスをコントロールすることは脳の働きを維持するのにとても大切です。

ちなみに私は、運動を1日約30分間やることに決めており、その習慣が体力維持だけでなく、ストレスコントロールにもつながっています。

お酒の飲み過ぎ、長時間のスマホ、そして過度なストレスといった3悪習慣を日常から減らし、生活習慣の中で脳へのダメージを抑えることも、暗記力や集中力の向上など頭の働きをよくするために重要な要素なのです。