新幹線では一部の例外を除いて夜行列車が運転されたことがありませんが、過去には夜行運転の計画がありました。海外の高速鉄道では夜行運転を行っている国もありますが、なぜ日本では実現しなかったのでしょうか。

過去には計画されていたことがある

 半世紀以上前に東京と大阪の約500kmを結ぶ東海道新幹線が開業して以来、新幹線は徐々に日本各地へとネットワークを広げていきました。いまでは北海道の新函館北斗駅から九州の鹿児島中央駅まで伸びています。これだけ新幹線のネットワークが長くなると、夜行列車が走っていても良さそうに思えます。


夜の闇を裂いて走る山陽新幹線「ひかりレールスター」の700系電車7000番台(画像:photolibrary)。

 新幹線を昼間に走る列車を乗り継いで東京〜鹿児島中央間の約1400kmを移動すると、所要時間は約6時間半。空港へのアクセス時間を含めても4時間前後の飛行機には、勝ち目がありません。

 ただ、深夜の23時30分ごろに東京駅を出発すれば、翌朝の6時ごろには鹿児島中央駅に到達できるはず。飛行機の最終便(羽田空港19時15分発)より4時間以上遅く出発しながら、始発便(鹿児島空港8時10分着)より約2時間早く着くわけですから、昼間の高速交通を補完できる存在になりそうです。

 しかし、新幹線では2002(平成14)年のサッカーワールドカップ開催にあわせて運転された臨時列車や災害による列車の遅れなどを除いて夜行列車が運行されたことはなく、具体的な計画も存在しません。

 夜行列車の運転が計画されていたことはあります。東海道新幹線の建設が計画された1950年代後半、国鉄は昼間に旅客列車を走らせ、夜間は貨物列車を走らせることを考えていました。実際に貨物ターミナル用の敷地も確保され、東海道新幹線の京都〜新大阪間には貨物ターミナルにつながる線路を通すための高架構造物も建設されています。

 しかし、建設費が想定より高くなったことから、当面は昼間の旅客列車のみ走らせることに。1964(昭和39)年の開業後、利用者の数が予想以上に伸びたため、深夜から早朝にかけて保守作業を毎日行わなければならないようになりました。このため、0時から6時までは列車を運行すること自体が難しくなり、貨物夜行列車の計画は立ち消えになってしまったのです。

「全国ネットワーク」想定して寝台車を試作

 東海道新幹線に続いて山陽新幹線の建設が1960年代に計画されると、今度は旅客夜行列車の運行が考えられるようになりました。当時の計画では東京から九州の福岡(博多)までの所要時間が約7時間とされていましたから、飛行機の最終便より遅く出発して始発便より早く到着する、便利なダイヤを組むことが可能になります。


山陽新幹線の姫路駅は「単線運転」に対応するため列車待避用の線路を増やして建設された(2017年6月、草町義和撮影)。

 0〜6時台の保守作業時間は「単線運転」で対応することに。上り線を保守する日は下り線を走行し、逆に下り線を保守する日は上り線を走らせることが考えられました。

 しかし、これでは上下の列車が行き違いできなくなります。そこで、姫路駅には待避線を設置。姫路駅から約20km博多寄りにも待避線を設けた相生駅を建設し、上下の夜行列車が行き違いできるようにしました。このときの計画が実現していれば、東海道・山陽新幹線の東京〜博多間が全通した1975(昭和50)年から新幹線の夜行列車が運行されていたかもしれません。

 いっぽう、1970(昭和45)年には新幹線による全国ネットワークの整備を促進するための法律「全国新幹線鉄道整備法」が公布。東京〜札幌間などの長距離で夜行列車を運転する可能性も出てきました。そこで国鉄は1973(昭和48)年、961形試作電車を開発。1編成6両のうち3号車を食堂車、4号車を寝台車とし、夜行列車で使う車両のデザインを検討したのです。

 しかし、その後は国鉄の経営悪化や騒音の問題などがあり、旅客夜行列車の計画も立ち消えになってしまいました。

 また、昼間の新幹線や飛行機の発達により夜行移動の需要が小さくなったこと、さらに低価格の夜行高速バスが発達したことなどにより、在来線の夜行列車は大幅に減りました。こうした状況では、新幹線で夜行列車を運転しても採算が取れる可能性は低いでしょう。こうしたことも、新幹線で夜行列車が実現しない理由のひとつになっていると思われます。

 ちなみに、中国には高速鉄道と在来線の両方を走れる寝台車があり、北京〜上海間や北京〜広州間などを結ぶ夜行高速列車が運転されています。中国の高速鉄道も深夜帯は保守作業を行う時間になっているようですが、夜行高速列車は運転する日を限定したり、深夜帯は在来線を走ったりすることで対応しているようです。

【写真】夜行列車になったJR東日本の新幹線E2系


JR東日本の新幹線E2系電車をベースに開発された中国高速鉄道CRH2形電車の夜行運転対応バージョン「CRH2E形」。寝台車や食堂車を連結している(2009年7月、草町義和撮影)